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イン・ユーテロ [小説]


Forever in debt to your priceless advice ―Heart shaped Box/Nirvana
(お前がしてくれるタダの忠告に俺は引き目を永遠に感じなきゃなんねえ
   ―ハートシェイプボックス/ニルヴァーナ)



キルケゴール的ハイパーコミュニケーション
の考察

 市内を南北に横断する有料通路が隣の群地に入りこむか入りこまないか微妙な境あたり、とはいっても数百メートル市内側に戻ると少し傾斜のあるあたり、山を裂いたように割れた西側の丘に4年前、社が載っていた。

 俺たちのヒロイン―〈抄訳銀河鉄道の夜〉ちゃんは夜毎この社跡を囲む竹藪をさまよう……四年前に落としたものを探している、純情を。 ―四年前、そう、まだ俺たちの界隈で、「あなたの中にチュッパチャップス」だとか「あなたの中にシーブリーズ」「三ツ矢サイダー」「ポッキー・ゲーム」「バッカスの呪い」が流行っていた時分、〈デイリー山崎〉くんと仲良くしていた〈抄訳銀河鉄道の夜〉ちゃんの放課後放蕩タイムを酒の肴にしていた近所の中年童貞〈ヨシタケ〉さんを懲罰した翌日の、ちぢれこみそうな朝日と見透かされた冷ややかに肌を震わせた世界の終わりみたいな朝。黄ばんだ精液まみれに殴打され丸ノコで切り刻まれくわで耕された〈ヨシタケ〉の純潔は朝のにおいとちがって永遠になった……
 そのイカ臭さに嘔吐した俺の親友〈フィネガンズ・ウェイク〉くんと〈発狂チャンネル〉くんのピロートークを、どうぞ。 

―学期末テストいつからだっけ。 
―そんなことよりババ抜きしりとりごっこしようよ。 
―卒業式行く? 
―く!くまだまさし! 
―去年、目につけられてた先輩嫌いすぎて行かんかったわ。 
―わ!わいるど・あっと・はあと! 
―煙草吸い始めたしスマホで在校生代表の貞崎スピーチ?撮りはじめるし、トイレでおっぱじめるカップルいたし吐いたわ。 
―わ!わー!わ!わ!

〈ヨシタケ〉の荒息の残り香がまだ俺たちの〈フィネガンズ・ウェイク〉くんと〈発狂チャンネル〉くんの間で臭っていた…… 〈ヨシタケ〉は〈デイリー山崎〉と〈抄訳銀河鉄道の夜〉ちゃんの逢瀬から急行新可児行きの名鉄に同乗してきた……目当ては云うまでもなく〈抄訳銀河鉄道の夜〉ちゃんがまだ二限も終わってない間に特進クラスの〈デイリー山崎〉をひっかけて金山で豪遊する、その予定に対する彼女からにじみでる高揚感であろう……

四十あまりの中年の〈ヨシタケ〉はひとり先に青山駅に来た〈抄訳銀河鉄道の夜〉ちゃんを見てニンマリしたにちがいない……クラスメイトにバカップルとか与太者とかの落印を押されないためにクラスには頭痛で早退と言い訳をして隣の隣のクラスの〈フィネガンズ・ウェイク〉くんや〈発狂チャンネル〉に放課後の予定を断ってなおかつ交通費を借りて昼休みに知多半田駅へ向かった。午後の5時限に副担の酒木場羅先生のスパルタ英語があって鬼畜の小テストがあって敵前逃亡のようで〈デイリー山崎〉の心中は察したがかなしいことに〈デイリー山崎〉は〈抄訳銀河鉄道の夜〉のATMなのである……
 校則違反をしてまでも〈抄訳銀河鉄道の夜〉ちゃんの財布をしたがる奴の気性がしれなくて一周まわって校内一位の純情を冷やかされた…… 
―いくらつぎこんだ? あの女に? 

 俺たちの〈フィネガンズ・ウェイク〉くんは親父の部屋からパクってきた缶ビールをしゃくってきいてみたことがあった……その夏の不健全を総決算した夜だった……袋詰のままの花火に理科室から古新聞にくるめてまでくすねた火のついたアルコールランプをくくりつけて民家になげいれたり、廃車で一泊チキンレースをしたり河の水を止めようと浮浪者をいちダース河川に立たせて高見の見物人を演じたり、自殺したいとくりかえすメンヘラ女子のツイッタァーを見つけては特定して殺してやると脅迫してだまらせて、通学用のチャリに乗って公道で法定速度を被ってみたりした……〈発狂チャンネル〉がクラスメイトの〈矢作川冷作の娘〉ちゃんというネクラを抱いてるところを深夜の公園で撮影して担任の田端々々々先生に夜中むりやり見せつけてやったこともあった……アラサ―独身の女性教員の田端々々々先生は目を丸くして飛びださんかぎりで、息を何度も呑んで、呑む息がなくなって金魚や鯉みたいに口をパクパクするからスマホを咥えさせたりした……

〈うーん、百万くらい?〉

 すこし顔を赤らめて〈デイリー山崎〉は答えてみせた。

……―嘔吐……嘔吐!

〈よく栄に行くよ……あっちは物にありふれてるからね……スタバもあるし……オアシスのマクドナルドって坐席すごい小さいんだ……〉
〈はあ……〉俺たちは言葉として発語できないほどの嫌悪の溜息をした…… 

―で、お兄さんよ。〈フィネガンズ・ウェイク〉くんは次なる質問を俺たちの気持ちを代弁してきいてくれたのさ。 
―もうヤったの? 
―まさか!
 ははん、と笑うこの人間ATMの余裕はなんだ?財力か?金か? ―むこうがその気になればだろうけど、こっちの感情が先行してしまうのはよくないだろ?
俺たちはこの〈デイリー山崎〉が潔さをとおりすぎて純粋に「きもい」と称してしまいたくなった―……金づるになっていることに気づけてないぜこれゃ……
― 幸せもんじゃん……
―恐ろしいのがこれを彼は愛情というスタンスでいることじゃねえか?
―あはれだよなこいつ……馬鹿だよ百万なんてよ……―財力の余裕? ―してねえのは阿呆だなあ……―それが正しさだと感じてるんじゃねえの?―幸せもんだぜ……わ!
わ!わー!……
〈デイリー山崎〉と落ち合うのは次の次の知多半田駅で、わざわざJRの最寄駅から東成岩で下車、名鉄青山駅に乗りついだ〈抄訳銀河鉄道の夜〉に対し彼は自転車
で学校から直で知多半田駅へ向かっていた……校庭を出で校門を抜けると背を刺す学校という体制の視線が彼をいたぶったにちがいない……今回の逢瀬がはじめての業のサボタージュであった…… 
―なあ〈デイリー〉、てめえにとってよ〈抄訳銀河鉄道の夜〉ちゃんってなんだよ? 
―そりゃ俺の生きてる意味さ!
即答にまた俺たちの兄貴は嘔吐した。
……―〈デイリー山崎〉の充血し赤らめた顔、ペンチでねじ曲げたようなまゆ、吊り上がったもみあげを見たとき、ありゃ微笑しかったけど〈ヨシタケ〉の〈ヨシタケ〉の話になったら腹かかえて笑いこんでやったさ!

……〈抄訳銀河鉄道の夜〉ちゃんだって無垢な女の子、だった。優秀に不健全な俺たちだって変に目をつけられないように彼女の前でキッチンカーがあればおとなしく生クリームたらたらのクレープを買いこんで抱きよせて両手で元気よく手を振ってみせるくらい、誰だって〈抄訳銀河鉄道の夜〉ちゃんは純粋さにおいては高嶺美少女で、誰も手にかけられない……ある意味〈デイリー山崎〉の馬鹿は俺たちみたいな畜生にとっては目の敵であったが、奴の懐の深さにへどもどして以後はあの娘をオトしたアニキみたいに半ば慕っていた……〈そりゃ俺の生きる意味さ!〉まではな! 
 だが〈ヨシタケ〉はやりおった。 

―なあ〈発狂チャンネル〉よ、あの晩、深い公園でなにやったんよ。俺たちの不健全きわまるイチゴミルク色の詰襟で背中に〈riverrun 〉と横文字を金色に縫われた〈フィネガンズ・ウェイク〉くんは知多半田駅に〈デイリー山崎〉を投げこんでからミスドに入って二人がけのソファに寝転んでオールドファッションとポンデリングエンゼルフィッシュハニーポップを数珠つなぎにして回しながら向かいの椅子に直立不動で珈琲を啜るフリをする〈発狂チャンネル〉にきいてみると驚ろいたことに彼はぷくぷくと膨れあがるように爆笑してみせて東京東京東京と息を上がらせてなだめるようにケタケタとくりかえしていたもうすこしで六ミリな夕暮れのお漏らしがきこえてきそうな「う」かんむりの放課後だった。かれこれミスドには五時間ほど居据わっていた。なんどかもういっそのことここに住んで暮らしてドーナツと生きてドーナツと死のうかとさえ思えた〈フィネガンズ・ウェイク〉くんはもう少しでソファに溺れかけた……――俺はまだカート・コバーンになれてないんだ!……―と思いかえして息を吹きかえしてオールドファッションをむさぼり食った…… ―ばんばんばんばんばんさんかん!
〈発狂チャンネル〉は俺たちよりも先に人類が口をきけるもんだってことを思い出して唱えた…… 
―なんだよ
―東京。 
―宇都宮。 
―屋島。 
―前橋。 
―新宿。 
―熊谷。 
―八千代。
 てんで俺たちの〈フィネガンズ・ウェイク〉と〈発狂チャンネル〉は知多半田に辿りつけやしなかった……知多半田に行きつくには日立に向かわなきゃならなかった…… 

―ばんばんばんばんばんさんかん!

 血みどろの音がして夜行が始まった……知多半田駅にたむろする八千代工業生とドラゴンバトルになった……皆大好き俺たちのシマの兄貴〈フィネガンズ・ウェイク〉と〈発狂チャンネル〉は通りすぎの善良なサラリーマンをお供にして三人分のドラゴンになった……非常に〈チャーリー・ブラウン〉的な冴えないサラリーマンだったから安っぽいドラゴンだった……だが八千代工業の十人数珠つなぎ系ドラゴンのような大型よりは小回りが効くし、むしろ小型である俺たちの兄貴足すことの〈チャーリー・ブラウン〉は有利だった……〈チャーリー・ブラウン〉はその日、仕事場で恥辱に合ったばかりで、その情けのないやつれた頬はいくらか恥の紅色が残っており、諦めの「へへ……へへ……はあ」というつぶやきはかえって八千代工業のチンピラゴボウをひれふさせた……事実、奴らのドラゴンは規模こそ大きなものであったがよく捉えきれれば只のゴボウがビニールテープでまとめられているといった細い線だった……八千代工業は絶倫系工業科で、主に自家発電装置の開発、公共施設における休憩場の存在の社会的容認を狙って行動していた。超絶健金系きんぴらレンコンこと〈発狂チャンネル〉くんに云わせてみれば〈シュレディンガーを吐いた猫〉であり、〈フィネガンズ・ウェイク〉くんに云わせれば〈男性器の無駄使い〉とののしれた……
〈チャーリー・ブラウン〉は「こわいこわい……チンピラゴボウに絡まれるなんてなんてツイテナインだ!……神さまぼくがなにをしたんだい?……先週末にデリヘル呼んだからかい?……あゝ、お許しよ!」とくだらないことをくりかえすから羅切りしたら自由になって〈チャーリー・ブラウン〉出家した……むしろ〈KILL BILL 〉すぎたから〈栗山千明〉で〈タランティーノ〉だった。 
 ―タランティーノの本名フルネームで云える?〈フィネガンズ・ウェイク〉くんが八千代生のひとりの首を掴んで問うた…… 
 ―え?え……ク、クエンティ・タランティーノ? 
 ―すげえやん、じゃあさ、サルバドール・ダリって十回云ってよ。一回でも云ったら前歯へし折るからさ!

 知多半田駅が血みどろに埋まっていく……畜群どもの真黒な頭皮の山がひしめきあい、見事愉快あっぱれな俺たちの〈フィネガンズ・ウェイク〉くんと〈発狂チャンネル〉くんのグレイディスト・ショーを見物して漏らしている、……〈発狂チャンネル〉くんが畜群どもに呼びかけた! 
―諸君!しっかりハイパーコミニケーションししてるかい?うじどもどもはひしめきあい、思い思いにハテナマークを小汚ない脂やイボを生やした頭頂部から生やしてみせた…… 
 ―ハイパーコミニケーションってのはね、しっかり嘔吐感覚を治えこんで自己の意識をぶっつぶして相手を理解しようとのたうちまわることだよ!畜群どもはうんともすんとも云わない……スマホで撮影をし始める馬も現れた……ヒヒーン! 
 ―おい!そこのアマ!ハメ撮ちゃうぞ!
〈発狂チャンネル〉はスマホに掴みかかり、それを血みどろ知多半田駅前のタイル貼りの地面へと叩きつけた……かち割れる女の結唱の鳴き声は月夜に轟き、今亡き〈アンタレス〉の耳にも届くかな……万歳……万歳……万歳 ― 。 諸君!ハイパーコミニケーションを行づる者において重要なものはなんだ? ―もうやめようぜ〈発狂チャンネル〉奴ら愚民は幻想に逃れたんだ…… 
―それは!生きる意味とすることだ!はは!滑稽だね!畜群たる諸君よ!天へ轟かせよ!北上する我が友〈デイリー山崎〉へ叫べ!
  ―君に届け!

 そうやって見知らぬ誰かどもと〈リア充〉ごっこをしている間、〈デイリー山崎〉はあの〈ヨシタケ〉に憤り、逢瀬どころではなくなっていた……早々。

破 
塵芥濁声濃顔嘔吐海水溺死寸前絞殺性交
私のパンク

 惰眠!あゝ痛い痛い……俺たちの大好きな〈フィネガンズ・ウェイク〉や〈発狂チャンネル〉今、深夜、知多半田駅で惰眠を蝕ぼっていた……二時ごろふとうなされて目が覚める不健全系男子大学生とちがって健康不良少年の俺たちに中断の入る眠りの夜はない……きっとかっと〈抄訳銀河鉄道の夜〉ちゃんの今夜は〈デイリー山崎〉と〈デイリー山崎〉の〈デイリー山崎〉的な甘い甘い激甘な夜に溺れているみたいだろうと〈フィネガンズ・ウェイク〉の〈フィネガンズ〉は〈ウェイク〉して〈ウェイク〉だった三井住友銀行……― 
 ―俺たちの夢の黒い星〈発狂チャンネル〉は寝言でくりかえし―先生だめ、……先生!……――イタコをしていた……今夜のりうつったのは先生と先生な関係におちいっている女の子で俺たちの希望の星の〈フィネガンズ・ウェイク〉のクラスメイトである〈バーミヤン桃井香子かおるこの娘〉である……一年生の彼女は暮れる苦れる晩秋の軒下で〈発狂チャンネル〉に類まれの勇ましい誰の目にもくらむギラギラの愛の告白をしたが、鈍感な剛鉄な男〈発狂チャンネル〉は意味を理解せず、破棄という形で勇気はうやむやになった……彼女が失恋という魔物から逃れるために駆けこんだのは苦しくも〈発狂チャンネル〉の一年次の担任で京大卒の数学科教諭〈九竹〉だった……彼の容姿は〈福士蒼汰〉だったし駆体は〈武井壮〉だったし声の音色は〈神谷浩史〉だったから、三分で〈発狂チャンネル〉のことなんて忘却されてしまっただろう……〈バーミヤン桃井香子の娘〉ちゃんは割とはやく〈バーミヤン〉を開店して〈福士蒼汰武井壮神谷浩史〉をそこへ招き入れて自分のものにした……〈九条竹〉先生は生来、数学と生き数学と交わって数学と子をつくったほどだったから〈バーミヤン桃井香子の娘〉の〈バーミヤン〉の味は先生の世界をぶちこわすのに実に容易だった……

〈チャーリー・ブラウン〉だった何者かは網走の夢を見ていた、……気分は〈KILL BILL 〉だ……
 斬って斬って撃って撃って……浅間山荘が見えてきた処で自分は真っ赤な〈チャーリー・ブラウン〉になっていることに気が付いた……粛清……粛清……粛清!……頭にこびりつくイデオロギーは容易に脱ぐえぬ代物……
 俺たちは少し忘れていたが、のちののちのちののちに厄介になるのなら、潮を飛ばそうか……日が昇るより遥か前にヤってきた始発の特急内海行きから、例のイエメン、否ツケメンの〈デイリー山崎〉が下車して早朝の知多半田に降り立った……彼の憤りは顔面を火照らせてフツフツと膨ませていた……中年の性欲とは自由奔放だ……ジャーナリズムの側面をもちあわせた彼らの性に対する執着は時に常識を越えてゆく……気なく……醜く……たとえ現場が修羅の私鉄車両であろうと……

(以下、現場に居わせたノンフィクション作家〈建川建造建之助〉氏著「混在する野次馬たち」からの引用)

     ~〈真昼の恥辱〉~
私はこの章を語る上でいやおうのない嫌悪を記すのはいささかノンフィクション作家たる自己のアイデンティティを揺るがす、むしろ公平をモットーとする自分のスタイルを汚すことになる。だがこの事件は現代に未だはびこるミソジニー、飛んでは父権濫用とも云える、裏の社会規範を露呈させる重大な資料たりえよう……私がその真昼に乗ったのは名鉄急行新可児行きで丁度野次馬のよく栽培される半島の果て(前章の「師崎港の大入道様に群がる人々の生態系」の取材からの帰路であった。私の乗車した時間帯は人がまばらで車両の長辺で向かい合わせになった長椅子の坐席はひとつの車両あたり、多くても二人ほどである。四両編成であった。私は二両目に乗車していた。私はこの先一度金山駅へ向かい担当編集と打ち合わせをかねた少し遅い昼食を予定していた。青山駅に着くと(このあたりでは内海駅のような改札の上に線路のある二階建てである)市内の公立高生と思われる華奢な女子一名と腹巻をして薄手の長そでにベージュのズボンを穿いた四十代の中年が乗車してきた。女子高生は私の対岸に位置する長椅子の対局線を引いた先に坐り、中年は私の方の端、つまり女子高生の丁度向かいに坐ってみせた。女子高生はすぐさま手にしていたスマートフォンを操作し始めた。まだ冬であったからカーデガンを羽舞り、何処の生徒さんかは知れない。成岩駅へ向けて赤色の車両がゆっくりと動き始めると、私の遠い隣に坐る中年がおもむろに自分の下半身へごつごつとした指を挿し入れた。もう片方の手で所持している財布のようなもので前方を隠していたが、私の方からはその出来事は刻銘に露呈していた。中年のズボンのようなものは実際には腿ひきであり、男性用下着にみられるような「窓」がついていた。
私はこの先のことを記すのには―くりかえすようで申し訳、ないが―非常に嫌悪感とある種の「吐き気」をもよおすが、ジャーナリストであり、社会に見えない、あるいは見られていない暗部を晒し、発信していくものとして、ここはその態度をもって真撃に挑んで記さねばなるまい―これを読まれる方々はこの件に対し熟考してもらいたい。






























































































(放送事故放送事故放送事故)
























































 ―……あえて俺たちのコンプライアンスをタイムトラベルをすることで下げてみよう……〈建川建造建之 助〉氏の勇気あるルポがお見せできないのははなはだ申し訳ない……俺たちが年末年始の民放であれば、〈アキラ一〇〇パーセント〉の男性器露出のようなことを記し ておいてもかまわないが、むしろ俺たちは〈NHK〉の ようなスタイルであるから(発行のために月五百円を請 求されているから)健全なのだ。まあNHKなんてチー フプロデューサーだったかが女性のスカートをスマートフォンで盗撮したり、某アイドルグループの山口メンバ ーが当局の冠番組で共演した女子高生にキスしりとか なにかと健全なのか怪しいものだが……
 ―ピンポーン ―……おっと?誰か来たらしい?こんな夜更けに誰だろう……
       ―間奏のあとにつづく―…


      ~〈間奏曲冴羽䝤〉~ 

 ―君たち若い子たちにはもうバブルなんて古くさいとかOK!しもしも?舘ひろし?だったりするだろうけど〈冴羽䝤〉が日本にはいた……〈冴羽䝤〉の〈冴羽䝤〉は恐らく知られている〈冴羽䝤〉の〈冴羽䝤〉の中で最も巨大でありなおかつ丈夫な〈冴羽䝤〉の〈冴羽䝤〉であった。〈冴羽䝤〉は自身の〈冴羽䝤〉の〈冴羽䝤〉を外壁の窓枠のへりにひっかけてつり下がるという妙技をくり出したことがある。〈冴羽䝤〉はその駆体と洞察力、話術、気遣いによって幾多の女性を虜にする、絵に書いたような男であるが〈冴羽䝤〉本人はある種の女性への〈お誘い〉において〈冴羽䝤〉を突きあげるようなことで見せる際、冗談、つまりギャグとして行う。そのギャグのあとに突きつけられるのは女性からの拒否である。百㎏や大きいときで10tのハンマー、もしくは銅鐸、寺院の鐘に使用される橦木などで殴打されるのである。この時女性陣の筋力は常人の域を超えることから、拒否の大きさを物語っている。また、〈冴羽䝤〉自身も顔面を陥没させながらも次のコマでは何事もなかったような涼しげな顔をすることから〈日本のクラーク・ジョセフ・ケント〉とも云えよう。むしろ〈絶倫スーパーマン〉と敬称した方が早いかもしれない……

  

 ―女は天性の役者なんだ、だから男は振り回されて苦労する。
〈舘ひろし〉はそう〈デイリー山崎〉に云いきかせた……カクテルの入ったグラスを傾ける。 ―でもよ……許せないんです……俺、百万も……〈デイリー山崎〉は〈舘ひろし〉に泣きながら抱きついた… ― … ルーズな奴だなー、女と事件は新しいうちに手を付けろって。

……―ピンポーン……
 ―ピンポーン…………― ……ピンポーン!
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン……―ピンポン!ピン!ポン!ピンポン!ポン!ピピンポウッ!
 あーもーうるせえな!リアリズムうるせえよ!いい加減にしろよ!こっちはシュールレアリストなんだ!ポストモダニストなんだ!意味がわからない?理解できない?誰もこっちから理解を強要してねえんだよ!……―ピンポーン……―ああ、もうしつこいなあしつこい女なら〈冴羽䝤〉ごっこしたっていいけどよ……誰なんだよ……
 仕方なく〈俺たち〉が玄関扉ごしに覗き穴で外を見ると、四十代ぐらいの中年のおじさんが目を充血させて屹立していた……― 
 ―NHKの集金です。


急 
饗宴


どっからしみ出してくるんだ。この寂しさのやつは。
夕ぐれに咲き出たやうなあの女の肌からか。
あのおもざしからか。うしろ影からか。
(寂しさの歌/金子光晴)


〈俺たち〉は寂しさに負けて〈部屋〉に三体ばかり〈野間宏〉を建造した。
 これは暗い絵である。

 これは真空地帯である。

 これが崩壊感覚である。

 つぎに〈俺たち〉は暗雲に巻かれた気持ちを脱ぐい去るために〈マリリン・マンソン〉を五体ほど建造した。

 彼がSweet Dreams ………

 次に彼はThe Beautiful People ……

 その隣がMechanical Animals ……

 中央のがHeaven Upside Down ……

 すぐ側に居るのがmOBSCENE ……
〈悪魔の使者〉である彼らは時に〈俺たち〉をこう調教した…… ―俺が表現しているものは恐怖だ。そのことで誰にも遠慮はしていない。
〈寂しさ〉と〈恐怖〉とはなんだ?
 フロイトの云う〈エロス〉と〈タナトス〉にあてはめれるだろうか?
〈抄訳銀河鉄道の夜〉ちゃんの〈タナトス〉は竹藪に隠れてしまった……4年前に。
〈高橋源一郎〉がラジオすっぴんで語ったように、〈野間宏〉は暗い……〈俺たち〉の〈部屋〉は暗く閉じこめられた……真空地帯。

 ―NHKの集金です。
 覗き穴ごしに見える中年はそうくりかえした。〈俺たち〉 ― は テレビ、持ってません。と答えてみせた。実際テレビはない。実家から軽うじて取り出せた〈論理哲学論考〉と〈精神分析入門〉と〈南回帰線〉と〈嘔吐〉とパジャマと下着、三日分の着替え、コンドーム、筆記具と原稿用紙。そして借りている椅子と机、寝具のみが〈部屋〉にある。〈野間宏〉も〈マリリン・マンマン〉も〈高橋源一郎〉もおいてきぼりにしてしまった…… ―いや、今どきテレビをお持ちでない家庭なんて、ないでしょ。 ―そもそも家庭なんてもんじゃないんですよ、こっちは。

〈俺たち〉は〈部屋〉を媒介にして語っているだけなのだ……テレビなんて必要ない。 ―いやでも独り暮らしでも、テレビくらい、あるでしょ?

 しつこい中年だ……なんて面倒な奴だ― ―ちょっと上がってもよろしいですかね、我々とし
ても徴収を怠るのは国に対しての反逆ですからね……開けていただけますかね? ―だから持ってませんって。いい加減にしないと警察呼びますよ。
〈俺たち〉は抗議した。状況は玄関扉一枚挟んで拮抗状態である……萎縮する扉が抜けおちそうになる。
  ―警察?警察でしたら私の隣にいますよ……ね?鷹山刑事。 
 ―損をする事になるのは、おたくたちだけだ。

〈俺たち〉は〈部屋〉に追い込まれた、ということになる……―舘ひろしが向こう側についてしまったのだ!……

〈俺たち〉は開いた匣を閉じることもできない……〈俺たち〉の親愛なる〈彼ら〉へ逃れるしかない……撃鉄の音色。冬の夜。丘の社。竹藪、〈ヨシタケ〉はさまよっていた……殴打された左頬が腫れあがり、左瞼が吊り上がって眼球がだえんを体現して浮きでている……既に右足の腿より下は切り落とされていた……けんけんっぱっけんけんっぱっ……竹林の足元は柔かい……笹の葉のクッションに未だ残る肉についた片足が沈む。
 〈ヨシタケ〉は下半身に集中する痛みに耐えられなくなっていた……痛覚から逃れるために執劫に左足がけんけんぱっけんけんぱっと跳ねては沈みをくりかえしている……足のつけ根に生やしていた〈ヨシタケ〉の〈ヨシタケ〉は〈冴羽䝤〉の〈冴羽䝤〉ほどでもない勢りたちを持ち合わせていたが、今や見るも無惨、押し潰れて裂けて中身をぶちまけている……車内に居る間に〈発狂チャンネル〉くんによって踏み潰されたのだ……丘の社まで最寄りの青山駅まで徒歩では10分以上かかるが〈ヨシタケ〉は下車して改札をくぐりぬけてすぐロターリーに待ちわびるバスに転がりこんだ車内には苦しくも嬉しくも〈フィネガンズ・ウェイク〉くんが乗車をしており坐席に溺れかけていた泣く子も黙る優先席であった〈ヨシタケ〉は優先席に誤った責任感と常識を持ち合わせており〈フィネガンズ・ウェイク〉くんに席をゆずるよう半ば強引に要求した〈フィネガンズ・ウェイク〉くんは発車間際に転がりこんできた与太者に席をゆずるほどの器の狭さを持ち合わせていないので優先席に沈みこむ彼には半ば〈カート・コバーン〉になるという夢が薄いでいたくりかえし席をゆずるよう〈ヨシタケ〉は嘆いた乗客たちは至極迷惑そうに〈ヨシタケ〉を見ていたが彼の股の悲劇を見るや否や誰もが唖になった〈フィネガンズ・ウェイク〉はおもむろに懐の携帯バッテリーをピンクの詰襟から取り出し手にしていた学生鞄からコードと丸ノコを取り出すと軽快な金切り声を轟かせた〈ヨシタケ〉は呻くとバスは走り出した一心不乱に奔馬の如く進むバスは道をかき切り車や人や民家の間々を縫うように進んだ最初の衝撃で〈ヨシタケ〉はよろけ向かい合う坐席の間の通路にうつぶせで転倒したその上から丁度良いところに〈フィネガンズ・ウェイク〉くんの筆記具こと丸ノコが舞い下りて右足の腿下を切断した。残るは殴打の数々だがこれは丘の社に辿り着いてからの描写であってそれには〈俺たち〉のメインヒロイン〈抄訳銀河鉄道の夜〉ちゃんと〈デイリー山崎〉の交接シーンを挟まないといけないがまた〈冴羽䝤〉だとか〈舘ひろし〉だとか〈NHK〉だとか登場させないといけないし〈部屋〉にまた誰か来てしまうのでそのような行為があったことだけを記しておくことにしよう。……
ピンポーン……おっと、誰かまた来たらしい……
―まず何故、〈ヨシタケ〉と〈発狂チャンネル〉くんがたまたま名鉄河和線急行内海行きに乗り合わせて〈ヨシタケ〉の〈ヨシタケ〉を〈発狂チャンネル〉が踏み潰さなくてはならなくなったかと云えば、云うまでもなく放課後お帰りタイムを狙った中年賢者タイムに起因する。 ―つまり〈ヨシタケ〉は〈ヨシタケ〉の〈ヨシタケ〉をジャーナリスティックにスティックをジャーナルすることで〈ヨシタケ〉する、常習犯であったのだ……― 〈デイリー山崎〉は竹藪での非人道的活動の末、たぎった頭に上った血を持ちえたままに〈ヨシタケ〉に遭遇したのだ。

 真っ赤に染った〈チャーリー・ブラウン〉はそのころ社の中に立て篭り〈ひとり浅間山荘ごっこ〉をしていた……つまるところ〈ヨシタケ〉が〈抄訳銀河鉄道の夜〉ちゃんを肴にした日の翌日ということになる、もっと正確に云えばその日の夕暮れ……報復は新鮮なうちが美味しいらしい…… ―おい、おどれ昨日の変態やないの。そないどごでだにじどる。〈デイリー山崎〉は濁声で痙攣する中年童貞を脅す―その股どないじだ、絶倫すぎて破裂じだが?
〈ヨシタケ〉の股にはくっきりと〈発狂チャンネル〉の靴底の痕がついていた……もちろん〈ヨシタケ〉はうんともすんとも云えない……唖だった…… ―おー、なんが云うでみーや変態!
〈デイリー山崎〉はへたりこむ中年童貞の額にかかとを押しあてて力いっぱい跳ねとばした。 ―私は女子高性だいすきな変態です云うてみ。
公共の場でオカズにするの好きですて云うてみや。右アッパー、腹へインファイト、左カウンター、右ストレート、ラリアット、裏挙、飛び蹴り。一発。二発。三発。四発。五発。六発……〈寺山修司〉とちがって途中から誰も回数なんてこった忘れてしまった……〈ヨシタケ〉はべこべこ人間になってもうた。
 凌辱の味を残したまま制服を汚した〈抄訳銀河鉄道の夜〉ちゃんは竹藪をさまよう気力もなく、へたりこんでいた……入ってすぐのところにまで辿り着いていたが、それ以上進めないらしい……その無惨な姿を目にした〈俺たち〉の〈フィネガンズ・ウェイク〉と〈発狂チャンネル〉は〈ヨシタケ〉を追いかけてたがためにこの蛮行は〈ヨシタケ〉の仕業だと思いこんだ……― 
〈チャーリー・ブラウン〉のひとり〈浅間山荘ごっこ〉は長期戦になると見込まれた。
真っ赤な〈チャーリー・ブラウン〉には社の外、竹藪はみっしりと銀世界が広がってみえた。向こうの公道の方に停まる何台かの機動隊の装甲車とその隊員らが突入のときを待っているのが見えた。プラスチックフォークで〈日清カップヌードル〉を食べている防服姿の隊員もちらほら見えた。真っ赤な〈チャーリー・ブラウン〉が空を見上げると四、五台ばかりのヘリコプターが飛んでいるのが見える。報道関係の機体とすぐ見てとれた。〈読売テレビ〉〈日本テレビ〉〈フジテレビ〉〈テレビ朝日〉〈NHK〉…………
真っ赤な〈チャーリー・ブラウン〉は―粛済!と彼ら観衆に叫んだ!……―…
… ―ところで、どうして〈ヨシタケ〉は、その丘の社へ向かったんだい?

 鷹山刑事は〈俺たち〉の側頭部の方で拳銃をちらつかせていた。〈部屋〉は彼の放ったマグナムで呆気なく口を開いた。すごく、すごくエッチだった……―〈俺たち〉のひとりが〈フロイト狂〉で、すぐにこれは〈冴羽䝤〉の〈冴羽䝤〉だって云うから―馬鹿野郎!こりゃタカさんだよ!どっかの都会のスイーパーよりも高尚なんだよ!と中年NHKマンは怒鳴った。すると〈部屋〉の窓枠に〈冴羽䝤〉の〈冴羽䝤〉をひっかけてぶらさがっていた〈冴羽䝤〉が窓をかち割って―なんだと?てめえいまなんつった!と這入りこんできた

 ……ああ、もう〈俺たち〉の〈部屋〉はめちゃくちゃだ!鷹山刑事は突如現れた輩に―なにもんだおたくは。と左手を胸元にそえ、右手のみで拳銃を〈冴羽䝤〉に向けた―と〈冴羽䝤〉が口を開こうとする間に鷹山刑事の拳銃が火を吹いた!

 途端!
〈冴羽䝤〉は手近な机を転がしてそこに潜りこみ、陰からいつの間にかに抜いた44マグナムをぎらぎらな鷹山刑事に向けて放った! ―すかさず〈部屋〉は銃撃戦の舞台となった……
〈俺たち〉の持ちだした〈論理哲学論考〉も〈精神分析入門〉も〈南回帰線〉も〈嘔吐〉も粉々になってしまった……三体の〈野間宏〉もそれぞれ頭部腹部陰部を貫ぬかれて壁にのめりこむなり床につっ伏すなりベランダへ弾かれるなりして……五体もの〈マリリン・マンソン〉は〈悪魔の使者〉と云えど修羅のなかでは〈Beautiful People 〉でもなければ〈Coma White 〉でもなかった……
〈俺たち〉に向けて〈Fight Song 〉を奏で、十字架になって動かなくなった……十字架が五つ重なりくさび形の紋様ができると〈金子光晴〉が〈部屋〉の外に現れておもむろに〈部屋〉を燻し始めた……〈冴羽䝤〉と鷹山刑事は星の子みたいに突び出して並走しながら撃ち合い、地平線へ消えていく……―冷たい太陽。〈俺たち〉は煙に巻かれる〈部屋〉のなかで必死にたぐりよせながら〈彼ら〉を探す……4年前を……〈フィネガンズ・ウェイク〉くんを、〈発狂チャンネル〉を、〈抄訳銀河鉄道の夜〉ちゃんを、〈デイリー山崎〉を、真っ赤な〈チャーリー・ブラウン〉を!
 あゝ、真っ赤な〈チャーリー・ブラウン〉の立て篭る社に煙幕弾が今、打ちこまれた!――真っ赤な〈チャーリー・ブラウン〉!
 彼に届くか?否、届かぬか!〈部屋〉と社ではつながらないのか? あゝ、かなしみ。
〈発狂チャンネル〉の手には鍬が握られた背をそり、腕をかかげ、さっくさっくさっくと中年童貞を〈耕していく〉……あゝ、あゝあゝ……――土にお帰り……
 〈発狂チャンネル〉はくりかえしている……夜明けは何処。
 これでは〈俺たち〉も〈彼ら〉も誰も幸せに終われない……
〈金子光晴〉は〈反抗〉の精神で〈俺たち〉を燻しつづける……

 真っ赤な〈チャーリー・ブラウン〉は社の地下室に眠っていたダイナマイトの束を頭に巻いた……そのとき、投げこまれた花火の束と理科室からくすねたアルコールランプを詰めた紙袋が思い出したように投げこまれる……
〈俺たち〉まで真っ赤な〈チャーリー・ブラウン〉の炸裂する魂の響きが届く……
 赤は残らない……  
  只、淫乱な真っ黄色となって
  〈君に届く〉
   ……この小さな、
        小さな、
 せまいせまい〈部屋の中=イン・ユーテロ〉まで
……― 

(了)

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