柔らかいしあたたかい
深夜、水を飲みに2階から1階へと降りた小畑(こばた)さん。
彼女は真っ暗な中、スマートフォンの明かりを頼りにキッチンへ向かった。
途中、玄関前を通り過ぎた時。
――――キィ。
ドアノブが回る音がしたという。
音のした方を見ると、今まさにゆっくりとレバー状のノブが下向きに動いている最中だった。
「……ん?ん?」
それは小畑さんの前でゆっくりと下がり、もう一度あがった。
不審者か、泥棒が入ろうとしている……と、そう思い身構えた。
ただ、もちろん玄関に鍵はかかっているから人が入ってくる事はない。
上に戻ったノブが、またゆっくりと降りていく。
咄嗟にドアスコープに駆け寄った。
どこのどいつだ?
見てやらなければ!
咄嗟に玄関ドアのスコープに齧り付いた時、向こうに人は見えなかった。
「……逃げられた……?」
スコープから見える景色を食い入るように見つめていた時。
ゆっくりとドアノブが動いたのを身体で感じた。
誰も居ないはずなのに、触れても居ないドアノブが動いてゆく。
「……んっ?え?なに?」
呟いた時、ドン!と背中に何かがぶつかった。
柔らかく、温かい。
〈ふぅふぅふぅふぅ〉
それは荒く息をしている。
振り向いたが誰もいない。
家族の悪戯ではなかった。
未だ、背中には温かな温もりのある人の気配がする。
「えっ、誰……誰?なに……なに!?」
暖かい。やわらかい。息遣いもする。
小畑さんはパニックになりながら背中を見たが、
〈ふぅふぅふぅふぅ、ふふふふふふふふ〉
息遣いは聞こえる。
姿形は見えない。
確実にいる事だけはわかる。
人肌のぬくもりと含み笑いが背中に貼り付いている。
「……怖い怖いと思いながら部屋に戻って、布団に寝転んだけどその気配が消えなくて……朝になってもまだ柔らかくて暖かくて……でも何も見えないし……」
彼女の背中にはまだ何かが張りついている、らしい。
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