納涼!真夏の怪談師だらけの夜!txt.

以下は、2022年8月に行われた「怪談師Tami」主催による怪談を語るライブ配信のアーカイブ(現在は削除済み)の文字起こしである。
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 古い民家を借り、怪談師が五名ほど浴衣を着て思い思いに座布団の上に座っている。
 主催のTami氏が画面向かって左側の男性の方を向く。
「それじゃぁ、満を持して! ヨルオウさんお願いします!」
「いや、まさか僕がオチとか……いいんですか? チャンネルすら持ってないのに」
 金髪サングラスのTami氏と打って代わり、一見冴えない中年男性がクローズアップされる。
「何言ってるんですか! 怪談nightでヨルオウさんの話聞いてから、もうボクすっかりファンになっちゃったんすから!」
「え~……そんなそんな、言い過ぎですよ」
 照れ笑いをしながらも、ヨルオウと呼ばれた男性はロウソクを自分の座布団の前へ持ってきた。
「今日の話ってまだどこにも話してないんですよね?」
「えぇ、まぁ、はい。それじゃぁ、話し始めましょうか……」
 ヨルオウ氏が、ロウソクを吹き消すと同時に、照明が暗転する。出演者の顔が、青白いライトに照らし出された。

 皆さん聞いた事ないですか? 「呪い探し」って言葉。
 あー……なんかその雰囲気だと誰も聞いた事なさそうですね。
 これね、ダブルミーニングみたいになってて結構面白いネットミームなんですよ。ネットの都市伝説みたいな。
 一部の界隈で流行った時期もあったんですが、語る人がね、誰もいなくなっちゃったから。だから廃れちゃったって言うか。なので、皆さんが知らなくても当然て言うか。
 で、ダブルミーニングていうのはですね。
「呪いが呪う対象を探す」
 ていう意味と、
「対象が呪いを探す」
 て意味があって。
 前者はほら、怖い話によくあるじゃないですか。例えば八尺様とか。子供や若い男性を標的にする、みたいな。コトリバコなんかも女性狙いますよね?
 怪異が「標的を探す」ってよくある話でしょ?
 ただね、呪い探しはちょっと違うって言うか。
 怪異とそれを探す人がね、惹かれ合っちゃうんですよ。波長のチャンネルが合う、みたいなね。
 民俗学の観点から話すなら、ほら「冥婚」てあるじゃないですか。なんだろう、それに近いのかな? でもねぇ、如何せん向こうも選別するんですよ。だからきっと、チャンネルが合わない人は絶対その怪異に出会えないって言うか。
 だからね、僕、探そうと思って。チャンネル合う人を。だから、この話はこの配信まで大事に温めてたんです。
 今、何人でしたっけ? あぁ、もう二千人弱この配信を見に来ていらっしゃる。
 いいですね、皆さん、チャンネルが合うといいですよね。
 え? 自己責任系? 違います違います。ただちょっとした実験て言うか。ほら、僕もね、探していたので。探して、探す様になったんです。え、何言ってるか分からない? 最初に言ったでしょ、ダブルミーニングだって。だから、探して、探す様になったんだって。まだ分からないんですか? 探してるんですよ。探してるんです。だってこちらにも選ぶ権利ってあるじゃないですか。だから探してるんですよ。探したっていいじゃないですか、だってこういう場で。選び放題だと思って。探してるんです探してるんです探してるんです探してるんです探してるんです探してるんです探してるんです探してるんです探してるんです探してるんです探してるんです探してるんです。

 映像の乱れ。
 一瞬映りこんだ白黒写真の様なもの。
 バタバタという音と、慌てるスタッフの声と、焦りが感じられるTami氏の声が聞こえる。

「すいません、ヨルオウさんちょっと休憩させてます。いやー、あの……怖かったですね、ちょっと、予定にない演出で焦っちゃいました。あ、配信見られてる方々はきっと大丈夫だと思うんですが……何か気持ち悪いなーとか感じられた方はブラウザバック──みつけた。みつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけた」

 スタッフからの「配信中止します!」の怒号に似た声。
 出演者全員から「いるいるいるいるいる」と合唱にも似た声が遠くの方から聞こえる。
 配信が強制終了される。


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