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芍薬が笑う(日記/cinemastaff)

「ねえ、どの道歩いて帰ってきたの?全身から悲しい香りがする。」

玄関を開けるやいなや、ミモザの大きな花束を抱えて春を祝いに来た僕に
君が言った言葉。
だって仕方ないよ、春の嵐のように大きな花びらをを振り撒いて駆けていく君が眩しすぎるからだって、僕は知ってる。
「一生大事にする、火事になったらこれだけもって逃げるね」
花束を抱えて、目を閉じる君に
思い出は燃えたりなんかしないから、そんな事より早く逃げてほしいって真剣に言うと
「でも形があるかぎりは有限だよ」
と芍薬の花が開いたように笑う。
有限なら、その限り枯らしたくはないのだけれど
それを言葉にしたらきっと枯れてしまうのだろうな。

日記というにはほど遠い、言葉が散らばった手帳を開くとこが少なくなった。
当たり前すぎて、書かなくてもいいことが多い毎日だけど
君が褒めてくれたジャケットを着た日とか、一緒になにを食べたとか
その日話した断片的な言葉をつづっていると
「私が死んだら、ここに行くといいよ。私の心臓の音がここで聞けるから。検索するときは、あのバンドの私が1番好きな曲のタイトルで検索したら出てくるようにしてある。」
そうやって歯を見せて笑う瞬間、嘘のない言葉と教えてくれる仕草がすきだった。
始まってもない未来の話より、なんで終わりの話をしてきたんだろう。
僕がその音を聞き行くことはあるのだろうか、なんてもうそれも聞けない。
手帳の隅には言えなかった言葉たちばかりが積み重なっていく。

なんだか旅みたい、と窓の外を眺めてばかりの君が
こちらを振り向くことは少なくて、僕は前ばかりを見てる。
「いつも1人で遠くに行くから、隣にいるの変な感じ」
「さみしくないの」
「でも、1人になるために遠くに行くんだよ?」
僕は遠くに行くのは好きじゃないから
君の放つ言葉は難解になる時がある。
だからどうして一緒にいるのかもあやふやになる時があって
そんな時はわからない言葉を反芻して、頭の辞書を開く
でも答えが載ってるなんて、そんなことはないから
辞書に言葉が増えてく一方だ。
「眠ったら置いて行っちゃうよ」
少し遠くで声が聞こえた。もっと本当は聞いていたかったのに。


僕の間違いなのか、僕らの間違いなのか、それさえもわからなくなる境界線
もう、誰かのせいにしてこの場所から立ち去ればいいことには気づいてた。
でもここにいるのはその季節を飛び越えていけるかがわからなくて、怖かったから。
13月を飛び越えて行けるのだろうか。たぶん僕には無理だ。
異性の親友に、深い酒を飲みながらもうだめだよね、なんて話してるほうがずっと楽だしずっと楽しい。
そのずっとは、それ以上に、という意味と、永遠に、の意味で
いつまでなんかの期間は考えてはいないのだけども。
でも期限なんか設けたくなかった、永遠とか運命だとか
どうにもならない言葉を形にしている貴方が好きだったし
そんな自分自身が好きだったんだよ。

今すぐどうにかなりたいとかではなくて
もし、この帰り道に自分が事故で死んでしまったら、この気持ちは知られることなく終わるのかとか
君が困ったときは1番に力になりたいとか
じゃあね、っていう「またね」の言葉を偽りなく言いたかっただけで
特別な約束をしなくても会えるような関係で居たかっただけだよ。
きっと気持ち半分も、それ以下も伝わってないのだろうけれども


生きててそんなこと思うなんて、人生こんなこともあるのかと
いつも指先ばかり見ていた。
関係に言葉を乗せるのがこんなにも心に鉛を落とすなんて
もうこの先こんな思いをするなら帰らなくていいよ。
どんな悲しい香りをまとったって、もう二度と同じ気持ちで同じ道を歩けないなら、ずっと悲しい香りのままでいい。
そうしたらまた笑って花束を受け取ってくれるのだろうか。

「どの道をたどって帰ったとしても、君のもとに帰るんだから大丈夫だよ」

「でもわたしは、貴方が雨の中け駆けていく後姿をずっと忘れない」

問うては返す、答えを1つで返さない難解な君が
悲しい香りを纏うことなく帰れるのであれば、1人で雨の中を走ることは容易い。
だからその後ろ姿は忘れないでいてほしい。

※この言葉と話たちはフィクションとノンフィクションです。
どこから何処までが誰と誰で私と君なのかは架空の場合もあります。たぶん。※

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