見出し画像

終わらない懲役

損害賠償請求の強制執行のために財産目録の開示を裁判所に申し立てようと思い、判決文をもって市役所で加害者の現時点での住民票を取得してきた。

「令和〇年〇月〇日 死亡 令和〇年〇月〇日 通知」
除籍の住民票だった。
出所して1年も立たないうちに、自殺したようだった。

私は、公判の際の意見陳述でこう言った。

「人生は一度しかありません。あなたは私を一度殺しました。私の心です。心を殺して、身体を傷つけたという現実を忘れないでください、私は、あなたを許すことは一生ないでしょう。どのように、これから失ったものを償っていってくれるのでしょうか?一人で考えて答えが出ないのであれば、家族や専門家に相談してできる限りのことをしてください。判決が出たから、懲役が終わったから終わりではありません。寧ろ、あなたが社会復帰した時にはさらに厳しい現実が待っていると思っています。その時に、また社会や家庭のストレスを言い訳にして、あなたがまた罪を犯さないことを心から願います。」

彼は、現実を見たのかもしれない。この世の中の大きくて深い現実を。

「あなたは更生という文字がこれほどまでに相応しくない人間であると、私に思われていることを忘れないでほしいです。」

その現実だったのかもしれない。

そうなんだよ、そう。

あなたみたいな人間を世の中が受け入れられるほどに心が広くないんだよ。

一体、最期に何を思って、何を見たのだろう。

そのうえ、誰が幸せになったんだろう。犯罪は起きた時点でみんなが負けてしまう。幸せになる人なんて誰一人もいない。いないんだよ。

怒りをアドバンテージにして生きてきた私は一体なにと戦っていたんだろうか。不条理な世の中か、果たして絶望か諦めで死を選んだあなたなのか。はたまた、自分自身となのか。

私は、1から10まで分かってほしいなんて願ってなかったんだよ。1から5まで分かって、しっかり償いきってくれさえすればよかったんだよ。

言い方を変えようか?きっと、遠くて終わりのない六道の迷いに落ちたあなたに。前科何犯ありましたか、恐喝、強制わいせつ、罰金刑に余罪の性犯罪。そんなことを起こす前に、死ねばよかったんじゃないの。それとも、まだ世の中のせいにするか?死ぬことにしたのは、あなたを受け入れなかったあなたの世界では狭小な社会が悪いのか?答えを教えてよ。

どうせ、公判の求刑が7年で八掛けして4、5年くらいだって思ったでしょう。だから、判決8年と言い渡されたとき泣いたんじゃないのか。泣きたいのはこっちなんだよ、何もかも地位も名誉も何もかもを一瞬にして壊し去って積み上げることすらできない世界に落とされた、こっちなんだよ。

あなたの生きた35年間の人生の辛さって、誰もが感じてることなんだよ。それ以上に悲惨であっても、憎しみや苦しみを持つことを横に置きながら、皆優しさをもって生きているんだよ。そうやって、生きてきてるんだよ。あなたの並べた犯行理由って、一つも理由になってないわけ。皆がどれだけ欠落していても超えない線をくだらない理由で超えていっただけなんだよ。その果てに、死を選ぶって何なんだ。

子どももいて、遠くからでも子どもの成長を見たかったんじゃないの。出所して、働いて損害賠償全部支払うって言っていたけれど、全額払えるなんて思ってないよそもそも。この世の終わりくらいに欠落しきった人間が払える額なわけないんだから。どうせ、出所したらくだらない御託を並べて同じような犯罪を繰り返すんだろうなくらいにしか思ってなかった、きっと世界一私に絶望されてる人間だったと思う。

世の中、名を捨てて実を取る人間ばかりじゃないって分かっただろ?あなたが供託した金員も受け取り拒否して謝罪も受け入れないで、つけなくてもいい弁護士をつけて戦う人間がこの世にいないとでも思ってたのか?金ってね、あとからいくらでも稼げるんだわ。ちっぽけな理由であきらめない人間がいるんだよ、事件発生した日から「求刑越え」を目指して戦うくらい、狂った性犯罪被害者がこの世に存在しないとでも思ったか。想像力の欠如っていうことだよ、あなたの人生の始まりから終わりまでが。くだらないほどに無様で、力でねじ伏せようとしたあなたに対抗するには司法しかないわけで、世論をどれだけ味方にできるかそういうことだと思うよ。衝動性が悪いとかそういう話をあなたはしていたけど、シフトチェンジしたら全然違うことに使えたって思わないかな。妻も子どももいて、前科を隠して自分を偽って生きることは辛いかもしれないが、一つも共感できない上に、全てが自分の足で歩いて選んだ結果でしかない自己責任。

全ての訴訟は、一矢報いるためのことだったんだよ。それに耐えられないで、死ぬような人間が初めから力でねじ伏せるような真似をするな。この事件に登場した関わった人物が全員不幸になっているということ。それが現実でそれが全て。

どんな気持ちで今日、住民票を受け取ったと思う。弁護士から、息子に損害賠償の相続をするかしないか内容証明が届くんだぞ?ふつうは放棄するだろうよ、息子が放棄したら次は、あなたの両親だよ、次は兄だよ。誰も相続しないって分かり切って今日、弁護士と契約してきたんだよ。私の中で、葬式のようなもので無駄な金だって分かりきっているし、無駄な時間をまた過ごすんだな、精神的にきついんだろうなって想像できてることを今日してきたんだよ。

心の底から、私の人生を返せって思っているし、殺してやりたいと思った。

けれど、自分から死ぬのはルールに反してないかな。死ねとは言ってない、ただ精神的に「令和〇年〇月〇日 死亡 令和〇年〇月〇日 通知」

そんな一行を何十行にも思うような気持で見て、この記載の仕方は病院で死んだとかそういうのではなくて、いつ死んだかも定かではない異常な死に方だって分かるからこそ、あなたが見たものが思ったものが、せめて色はなくとも絶望のパダライムシフトでも起きてないかって。

また、新しくこの世から消え去ったあなたと戦わなきゃいけないんだよ。人には面目というものがあるし、なくてはならない。加害者の一分があるならば、被害者の一分というものもある。

それとも、あなたは自分の情けなさやこの世の絶望を8年ぶりに見て、自分で死刑をしたのかな。

私には、何一つとして分かることはないけれど

もしも、分かるとしたら、これだけ広い地球なら生きる場所くらいあっただろうって思うけれどね。

遠い、遠い、六道の輪廻をぐるぐる巡る長い懲役へいってらっしゃい。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?