note歴8年
会社の公式ブログで書くほどのことでもない、日々何気なく感じたようなことを note に書いてみようと思った。アカウントはかなり前に作ってあり、「そのうち使うこともあるかなぁ」程度に思っていたのだが、そのまま放置。久しぶりにログインしてみると、登録後8年経過するともらえるバッジを貰えた。8年!
個人用に作っていたアカウントだったので、ID をブランド名に変更しようとしたのだが、すでに同じ名前で登録があるようで変更できない。
もしやと思い、法人の方のそれらしきアカウント情報でログインしてみると、なんと法人の方でもすでにアカウントが作られている。こちらのアカウントも作ってからすでに2年が経過。1つの記事もアップすることなく、2つのアカウントを所有していたわけだ。そんなこんなで今回は2年前に作ったアカウントの方をそのまま活かすことにした。(8年の方は削除)
公式のブログでは、スピーカーに関する細かい検証であったり、新製品の紹介や予約の告知、ここ4年くらいはできていないがイベントの告知などがメインになっている。
note では、それらと同列に掲載するには瑣末と言える内容や、自身の主観が強めの内容を記していくことにしたい。
スピーカーを作る仕事
最初なのでまずは自己紹介がてらお仕事のお話を…
私の仕事はスピーカーを作ることだ。
ただ私は有名なスピーカーメーカーに勤めているわけでも、工場で製造に携わっているわけでもない。マーケットに存在しないスピーカーを、お客様の求めに応じてカスタムメイドすることを主な仕事としている。
お客様に最高の音楽体験を提供するために、そのお客様専用に世の中にただ一つしかないスピーカーを作るというわけだ。(実際には左右2台のことが多いので二つだが…)
超ニッチ! 専門でやっている人はおそらく国内には数人くらいしかいないと思う。海外にも数は多くはいないが同様のお仕事の人はいるようだ。海外の同業者からは時々 SNS 経由でメッセージを頂いたり、メールでやり取りするようなこともあるのだが、国内ではお互いに牽制しあってか、交流はない。お互いの存在だけを認識しあっている人は多いと思う。
「どんな音が好きか」を共有する作業が難しく、そして楽しい
オーダーメイドで作り、それをもってお客様に満足して頂くためには、まず「お客様がどんな音が好きか」を把握しなければならない。
出来合いの商品を開発するのと大きく違うのは、自分自身が良いと思うとか、マーケットでできるだけ多くの人が気に入りそうだとかいったことは基準にならないということだ。購入するお客様が良いと感じ、実際に使用したときに感動させられるか否かが最も重要な基準となる。
「どんな音が好きか」ということを、普通の音楽好きの人が意識することは少ない。「どんな音」という言葉を聞くと、音楽好きの人であれば例えば「グルーブ感のある音」とか「透明感のある音」とか、音楽に関連づけて認識する。場合によっては音楽のジャンルのことだと思うかもしれない。
一方、いわゆる "オーディオ業界" では「どんな音」という言葉は、「スピード感のある音」「フラットな音」「原音に忠実な音」「ドンシャリ」「低音の量感が豊か」「高域が伸びている」「fレンジが広い」「ダイナミックレンジが広い」「ハイトランジェントな」など、音楽や音楽から感じられる ”何か” というよりは、「音」そのものの物理特性に関連する意味合いを持つようになる。
そんな違いを越えて、互いの認識をそろえながら、理解を深め目標に近づけていく作業は難しくもあり、また楽しくもある。そんな仕事だ。
音で感動を呼び起こす
普通の音楽好きの人でも、ある音楽で感動して、「自分はこんな音が好きだ」と認識することはある。それでも音そのものを分析的に考えることは多くはないだろう。「良いハコだったから」とか「良い機材だったから」といったことを漠然と考えるくらいではなかろうか。
例えばある場所で、あるブランドのスピーカーで、ある楽曲を聴いて感動したとする。それを自宅で再現しようとしたときにどうすれば良いのか。先ほどの例でいえばそのハコでないとそれは体験することはできないのだろうか。あるいはその機材でないと体験することはできないのだろうか。
ものすごく厳密にいえば、完全に同じ状態でないと同じ「音」を再現することはできない。ハコだけでも機材だけでも、あるいは両方が揃っていたとしても当日と同程度の観客がフロアにいなければ、同じ状態にはならない。(極端にいえば、電力の状態、温度や湿度、自分の体調… などもだがそこまで言及するのはやめておこう。)
ハコ、あるいは機材、どちらかが同一であればより近づくという単純なものでもない。組み合わせが大切なのであって、どちらかが同じであれば良いわけではない。
また、感動は音からだけ得られるわけでもない。音だけを同じにしても同じ感動が得られるわけではない。少しでもライブの高揚した感じを呼び起したいと願うのであれば、音はその時と同じにするのではなく、むしろ過剰に演出した方が良いことだってあるかもしれない。
自分だけのシステムによる最高の音楽体験を提供する
感動を呼び起こすものを、お客様の環境に合わせて考え、作り出す。そのためにはまず、お客様の過去の体験を掘り起こし、その感動が得られた要因は何だったのかをできる限り明らかにする必要がある。その過程で、お客様自身が「自分はこんな音が好きだったのか」と初めて認識することもある。
次に、その音を実現するためにどうすれば良いのかを考える。そこからがまさに仕事の本番だ。お客様の体験を、現実的な制約の中でできるだけ近い状態で再現できるように、さまざまな角度から検証し、設計していく。
お客様の生活環境を乱すことのない存在感と、お客様の美的感覚に沿ったものをデザインし、それら具現化するための製作過程を経て、世界にただ一つだけのスピーカーが出来上がる。
出来上がった後も、実際にお客様の環境でどのように鳴るのか、お客様と一緒にその音を聴き、それに対する所感を共有しながら最後の調整を施す。
そしてついに、出来上がったスピーカーがお客様の感動体験を呼び起こす瞬間が訪れる。
つまるところ、私の仕事の最終的な目標は「自分だけのシステムによる最高の音楽体験を提供する」ということになる。スピーカーは音を作る上で最も重要な要素の一つであり、目標達成のためにその部分に特に集中してカスタマイズを行うのが私の手法だ。既製品の組み合わせでも、そこに到達することは可能であろうから、決して私の手法だけが正解というわけではない。ゴールへの道筋が色々とある中で、私が出来る手法、最も得意な手法をもってアプローチしているに過ぎない。
というわけで最終的には仰々しくなってしまったが「私の仕事」についてのご紹介でした。興味のある方はウェブサイトの方も覗いてみてくださいね。
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