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炎と水の支配者

サウナハットを突き破って角が生えてきそうな、海賊のような男が部屋の隅からこちらを睨み、フィンランド語で何か言っている。英語は通じない。でも言っていることはわかる。しゃべるな、耐えろ。直後、地獄の蓋を開けたような音がして視界が高熱の蒸気に覆われた。正面に座った裸の婦人が喉の奥から声にならない声を上げ、膝に顔を埋めた。猛烈な熱さが肌を襲う。怒れる蜂の大群が耳や鼻に噛みついているようだ。

男は誰かを鞭で打つかのような厳しさで、石に水をかけ続けている。熱に包囲されて、俺は立ち上がる機会を逃した。まぶたの奥、わずかに機能する心で考えを巡らせる。次にあの男が石に水をかけたら…殺されてでもここを飛び出そう。男が杓に手を伸ばすのが視界の隅に見えた瞬間、アンテクシ、とつぶやいて腰を上げ、重い木のドアを開けた。

ぼんやりとした暗がりの中、目の前に氷結した海が広がっている。寒いとは感じない。肌と外気の間に真空の薄い膜が出来ている気がする。ふらふらと凍った砂利道を歩いて、階段の先に四角くくり抜かれたバルト海を見つけ、気がつくと足先から水に浸かっていた。

氷水から這い出て身体をタオルで拭いていると、だんだんと頭の芯に考えが戻ってきた。目の前で煙を上げ続けるサウナ小屋、外にあの男の姿はまだ見えない。まだ彼は炎と水の支配者となって中に君臨しているだろうか。

もう少ししたら、と俺は思った。もう少ししたら中に戻って、次はあいつの隣に座ってやるぞ。

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