クローム・ヘルブレード
カラオケ・ボックスから下卑た笑い声が聴こえてくる。酒とタバコとドラッグのにおい。私は右腕のブレードを展開し、ドアを縦に切り裂いた。
シュパン!
「べっ」
壁に寄りかかっていた男が、冠状面切断されて即死。蹴り倒し、室内をスキャン。生体反応は真正面に三つ。怯えた顔の女を挟んだ二人の屈強な男が、同時に立って銃を抜いた。
「「管理局のクソが!死ねーッ!」」BRATATATA!
なかなかの反応速度と、息のあった射撃。脳内CPUによる同期だ。問題ない。銃弾は欠伸が出るほど遅い。ゼラチンのように空気を引き裂きながら、ゆっくりと螺旋運動して進むのが視える。この程度の弾速と弾幕密度では、私にかすりもしない。
弾丸を二つ、ブレードで弾き、それぞれを別の弾丸へ当てる。別の回転とベクトルが加わって、ビリヤードの球のように弾丸を弾き、逸し、空気を引き裂いて明後日の方向へ。大きく開けた空間を歩くと、三つの首が仲良く飛んだ。三つの首なし死体が踊り、血を噴き上げ、痙攣して斃れる。
残り生体反応ゼロ。目的物は女の首だ。落下予測地点に右手を伸ばすと、それは目の前で消えた。いや、かっさらわれたのだ。生体反応なし。
パチ、パチ、パチ。部屋の右上隅から拍手。欺瞞だ。そちらへは構わず、背後へとブレードを振り抜く。右手首を掴まれた。生体反応なし。
「お見事、お見事。鮮やかな殺しぶりだ、美しいお嬢さん」
金属の手と電子音声。掴まれた手首からハッキングを仕掛ける。
「おっとっと!」
バチュン!
敵は私の手首を引きちぎり、回路を切断した。全身クローム、顔は笑った髑髏。生体反応なし、管理局にデータなし。女の首はやつの左手の上だ。厄介な。全身義体のAIか、脳なしのチッパーか、遠隔操作の傀儡か。迂闊に攻撃すればヤバい相手だ。
「返して貰おうか。それは私の獲物だ。右手もな」
「私は取引をしに来たのだよ、《黒刃(クロハ)》殿」
「名乗ってから言え、亡者め」
「死神さ」
【続く/800字】
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