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【つの版】度量衡比較・長さ編04:投擲武器

ドーモ、三宅つのです。前回の続きです。今回は投擲武器の間合、射程距離についてです。

長さ編:01(身体尺) 02(身長比較) 03(近接武器)

▼投擲概論

ヒトの最大の武器は「投擲」です。離れた場所から一方的に攻撃出来ます。直立二足歩行や腕や手首の構造の変化により、チンパンジーより遥かに巧みに投げることが可能になりました。投石が別の石に当たれば欠けて鋭く尖ったでしょうし、火花を散らして近くの草むらに火がついたかも知れません。火を管理するには長い時間がかかりましたが、投石は石器の発明より古いと思われ、脳の発達にも寄与したのではないかと言われています。

やがてヒトは石と枝を組み合わせて斧や槍を作り、投石器や投槍器、弓矢と言った恐るべき武器を生み出しました。ヒトは群れをなしてこれらを用い、巨大なマンモスやナウマンゾウを殺し、あまねく地上を支配しました。そしてヒトの最大の敵は、同じく武器を装備したヒトになっていったのです。

投擲や射撃の威力に関しては、上の記事をご参照下さい。

▼投石

石を拾って投げるだけでも相当な脅威です。PROが投球すれば、硬式野球ボールでも弱めの銃弾並みの威力があります。当たれば骨肉が破壊され、打ちどころによっては即死します。砂地や舗装道路でもなければ小石はそこら中にありますし、砂を投げるだけでも目潰しになります。このため戦争では大いに投石が活用されました。宮本武蔵も投石で負傷したのは有名です。人は集団で犯罪者に石を投げつけ、追放したり殺したりしてきました。

誰でも投石は可能ですが、訓練を受ければさらに強力です。『水滸伝』には投石(飛礫術)の名手で「没羽箭」の異名を持つ張清が登場しますが、野村胡堂は彼から銭形平次の銭投げを思いついたといいます。『封神演義』にも竜鬚虎や鄧嬋玉ら投石の名手がいます(前者は妖術ですが)。

飛距離はどうでしょうか。野球の投手は、マウンド上の投手板から本塁まで60.5フィート(18.44m)の距離を投球します。ほぼタタミ10枚分です。野球ボール遠投の世界記録は160mで、イチローは130m。高校球児なら70mから80mのようです。手榴弾は野球ボールの3倍は重く、遠投は一般的な兵士で30mほどですが、沢村栄治は80mも投げたそうです。

投石器(投弾帯、スリング)は石を革紐で挟み、振り回して離し、遠心力で投げるものです。手で直接投げるよりも飛距離や威力が増し、ダビデのように猛獣や巨人を仕留めることも可能です。投弾帯を杖の先に括り付けてさらに飛距離と威力を伸ばしたスタッフスリング、弓矢と同じくバネの原理で石を飛ばすスリングショット(パチンコ、弾弓)などもあります。

古代、ロドス島やバレアレス諸島の住民は投石術を鍛錬し、投石専門の傭兵として雇われました。飛距離は400mにも及び、弓矢より遠くまで飛んだといいます。投石用に加工した石弾や、鉛で作った弾丸も使用しました。日本でも職能民として投石を行う「印地の党」が存在したそうです。

▼投げ棍棒

有名なのはブーメランですが、手元に戻って来るものは軽くて威力がない牽制用のもので、カイリーやキラースティックと呼ばれる大型のものはカンガルーを気絶させるほどの威力があるそうです。飛距離は様々です。オーストラリア先住民のみならず、古代アッシリアでも使用されたといい、インドやアフリカ、オセアニアでも広く使われています。回転して衝撃を与えるため意外に強力です。

▼投斧

は棍棒やナイフより重く、威力も高いのですが、投擲した場合の飛距離は短くなります。フランク族が使用したフランキスカは射程が15mほどでしたが、集団で投げればどれかは当たりますし、向かってくる敵の勢いを削ぐ程度には使えます。フランク族は雑多な部族集団の連合体で、この武器を使って共に戦う者を仲間として数を増やしました。邪悪なスリケンめいたアフリカ投げナイフは地域により様々な大きさをしていますが、おおよそフランキスカめいた効果があると思われます。トマホーク、ハチェット、マチェーテや鉈も投擲でき、命中すれば重傷を与えられます。

▼投縄

輪縄を投げかけるものと、縄の先端に鈎や錘、刃をつけたものがあります。縄の長さは様々ですが、3mから10mにも及びます。当たれば敵に絡みつきますが、扱うのはワザマエが必要です。縄ではなく鎖にすれば切れにくくなりますが、重くて音がします。鈎縄は移動に用いることも出来ます。

縄に複数の石を括り付けて投げつけるボーラという狩猟具もあります。射程距離は30~40mに及びますが、うまく投げるには訓練が必要です。殴りつけるのにも使え、敵を木っ端微塵にすることから「微塵」とも言います。

▼投槍

槍を投げて命中させれば、大型の動物にも大きなダメージを与えられます。石器時代から人類はこれでゾウやガゼルを狩ってきましたし、クジラすら銛を急所に突き刺せば弱らせることが出来ます。有効射程距離は15mから20mほど、遠投なら3倍ほどでしょう。現代競技としての「やり投」の最高記録でも100m弱です。しかしある時、人類は「投槍器」を発明しました。

単なるくぼみがついた棒に過ぎませんが、これに槍の末端を引っ掛けて投げるだけで、テコの原理で射程距離が二倍になるのです。これは人類最大の発明の一つですが、大型動物の絶滅と弓矢の出現によって、いつしか消え去ってしまいました。しかしコロンブス以前のメキシコでは弓矢の普及が遅く、投槍器はアステカ帝国の時代まで長く使われ続けました。

人間同士の殺し合いでも投槍は重要です。古代の集団戦ではまず遠くから弓矢や投石器、投槍で攻撃し、盾を構え槍衾を作って接近し、最接近してから刀剣で刺したり斬ったりしました。

投槍は何本も持ち運ぶには重く、射程距離も弓矢よりは短く、次の槍を投げるまでに時間がかかり、相手に拾われると投げ返されるという多くの弱点があります。そこで古代人は投槍の穂先を細くして貫通力を高めると共に脆くし、一度投げたら穂先が曲がって再利用出来ないようにしました。相手は通常盾で投槍を防ぎますが、これが刺さって曲がったら盾が使えなくなり、捨てざるを得ません。そこへ攻めかかるという戦法なのです。

しかし投槍は数を揃えるのにカネがかかりますし、集団戦以外ではあまり使えません。投斧や弓矢の方が運びやすく手軽ですし、騎士は槍を投げるより突撃する役です。そんなこんなで投槍戦法は廃れていったようです。

▼手裏剣

スリケンやクナイ・ダート、エメイシ(峨嵋刺)、匕首、スローイング・ナイフの類は、手の裏(内側)に隠せることから「手裏剣」、寸で数えることから「寸鉄」と言います。小型なので隠して持ち込みやすく、素手よりも殺傷力は高まりますが、間合いは素手とさほど変わりません。しかしこれらは投擲することが出来ます。これこそが最大の攻撃です。

では、手裏剣の射程距離はどのぐらいでしょうか。

伝統的な棒手裏剣です。直打法では一間半(2.7m)、一回転打法では三間から四間(5.4-7.2m)の間合があります。さらに大型の手裏剣を使用すれば六間から七間(10.8-12.6m)は届くそうです。古事記に記された神話級ニンジャはドサンコと岡山県の間でスリケンを投げ合ったといいます。

今回は以上です。次回は射撃武器をやります。

【続く】

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