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【絶鬼パロ】黒い探求者

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沖木島の中部、座標E-04、ホテル跡。と言うか、廃ホテル。

おそらくはバブル期、リゾート誘致のために建設され、バブル崩壊と共に放棄されたと思しい。日本中にいくらでもあるような廃墟だ。電気や水は期待できないが……。

「香川県の沖木島、か……」

残っていた標識や看板から、それは読み取れた。知らない島だが、ではここは、地獄や常世ではなく、現世なのか。いや、現世に存在した島が、異界に移された……もしくは、写された、のだろうか。長髪の男、『稗田礼二郎』は、ブツブツと呟きながら腕組みをし、顎を撫でる。無用な考察のようだが、何か脱出のヒントになるかも知れない。

そもそも、なぜ自分のような者が、こんなところで異様な『鬼ごっこ』に参加させられているのか。借金をした覚えも、ヤクザの恨みを買った覚えもない。突然目の前が真っ暗になって、こうなった。何者かに無作為に選ばれてしまったのか。

支給された手裏剣と鉄球は、武器と言えば武器だが、銃ほどの殺傷力はない。とすれば少なくとも殺人ゲームではなかろうが、殺人ゲームに発展するようにしているか……。

ザク、ザク、と砂利を踏みしめ、廃ホテルに足を踏み入れる。中は暗いが、薄っすらと外の光が漏れ入る。

「ん? これは……足跡だ。二人ぶん……新しいぞ」

床を覆う埃の上に、足跡がついている。自分が来る以前に、誰かが連れ立ってここへ入って来たようだ。おそらく、鬼から逃げて来た子や親だろう。ならば合流して、情報を共有するとしよう。

稗田は足跡を追い、ホテルの奥へ進んでいく。

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ………」

どこをどう走って来たか、もう覚えていない。恐怖の余りパニック状態になった超能力少女『名波翠(なは・みどり)』は、モブ少年『中沢』の手を引っ張って山道をひた走り、気がついたらここにいた。廃ホテルの一室、だろう。パニック・ホラー映画だと、怪物とか狂人とかゾンビがドアをぶち破って襲ってきて、『Here's Johnny!』とか言う感じの。男の子と二人でホテルに来るとは思わなかったが、そんなロマンチックな事態ではまったくない。いちゃついたヤツらから死ぬ。それが流儀。

「あの……大丈夫?」
「大丈夫に見える?」
「いえ、その……」
「オーケー、大丈夫、オーライ。ビックリし過ぎて、パニクっただけ。ごめんね」
「ああいえ、こっちこそ……無理も無いよ、なんか怖い人っぽかったし」

中沢は割と冷静だが、こっちは猫を被ってる余裕もクソもなかった。感受性が強すぎるのも問題だ。いや、アレはマジでヤバかった。神にも匹敵する凄まじいオーラ。只者であるはずがない。あのオーラが出てる時点で確定的に只者じゃない。追っては来ないか。来たら来たで逃げるしかない。中沢を犠牲にする、のはまあ倫理的にアレとして。こっちだってお前、超能力少女様やぞ。多少のお前、チンピラとかならお前、スーッ、ハーッ。

スカム映画脳か銀魂じみた支離滅裂な思考をやめ、ゆっくりと呼吸を整える。周囲を確認する。埃があたりに舞い散っている。口と鼻を覆う。だいぶバタバタしたせいで、このへんの埃に足跡がついてしまった。やつがこれを追ってきたら。いや、『バックトラック』とか仕掛けてみるか。逆に。

「……あの……なんか、足音が」
「ひっ!?」

急に中沢に話しかけられ、心臓が喉から飛び出そうになる。こんなモブ野郎と吊り橋効果でラブデスターしてどないすんねん。あの鬼が追って来たか。部屋の中へ隠れるか。いや、逃げ場がない。玄関ホールの方から男の声。

「おーい、誰かいるのか? 私は親の役だ! 安心してくれ!」

名波さんに言われて、僕が様子を見に出る。玄関ホール近くにいたのは、長身痩躯で黒尽くめの男性。さっきの、なんか音を出していた、あの男ではないようだ。黒髪で長髪、年齢はわかりにくいが、子どもではない。

「あ、あの……、そちらのお名前、は」
「ああ、『稗田礼二郎』だ。稗田でいい。君は?」
「な、『中沢』と言います……。子の役、だと、思いますけど」

距離を保ち、学生鞄で胸元を守りながら、おずおずと名乗る。殺気や悪意は感じない。

「君だけかね? 足跡は二人ぶんだが、奥に隠れているのか?」
「えと、あの。ほんとに、鬼じゃないんですね」
「そうだ。少なくとも、無害な子どもに危害を加えるような人間じゃないよ。安心してくれ」

稗田、という男は両手を挙げ、敵意がないことをアピールする。狡猾な鬼かも知れないが、かと言って見分ける方法も……。あ、そうだ。『お守り』を鬼にぶつければ死ぬ、と書いてあった。いざという時はそれがある。

「ええと、じゃあ、その、奥にもうひとりいます。さっき鬼っぽい人に出くわして、パニックになって。―――その、女の子なんで、僕が様子を見に」

包み隠さず話す。対応者として、ここは素直に話した方がいいと思った。それだけだ。男は頷き、頬を緩める。

「そうか。偉いな、中沢くん」

褒められた。言われてみれば、褒められてもいい行動かも、知れない。警戒心が緩む。

「……私は別に喧嘩が強いわけでもなく、超能力者でもないし、大した武器もない。だが私は、与えられた役目以前に、教育者であり年長者だ。君たちを守ろう。約束する」
「あ、ありがとうございます!」

【E-04(ホテル跡)/00時40分】
【稗田礼二郎@妖怪ハンター】
[役]:親
[状態]:健康、やや疲労
[装備]:スリケン@ニンジャスレイヤー、ジャイロの鉄球@SBR
[道具]:デイパック
[思考・行動]
基本方針:生き残り、現世へ帰還する。
1:廃ホテルで他の人や道具、情報を探す。
2:中沢くんを信頼し、もうひとりの子と会って、情報を共有する。
※その他
自分の役・各役の勝利条件・制限時間を把握。
【名波翠@テレパシー少女蘭】
[役]:子
[状態]:疲労(小)、恐怖
[装備]:『お守り』
[道具]:
[思考・行動]
基本方針:こんなアホなことをしでかした奴に一発焼き入れて帰る。
1:外へ出るのが怖い。
※その他
各役の人数・各役の勝利条件・会場の地図・制限時間は全て未把握。自分の役を子と推測。
テレパシーなどの超能力が使えるが、普段よりは疲れやすい。
【中沢@魔法少女まどか☆マギカ】
[役]:子
[状態]:健康
[装備]:『お守り』
[道具]:学生鞄(中身は教科書とかノートとか筆記用具とか)
[思考・行動]
基本方針:とりあえず人を探す。知り合いがいたら合流したい。
1:名波さんに着いていく。
2:稗田さんをとりあえず信用し、名波さんに紹介する。
※その他
各役の人数・各役の勝利条件・会場の地図・制限時間は全て未把握。自分の役を子と推測。

たまたま近くにいたので合流させたが、稗田以外は知らない連中だ。誰かに遭遇し、パニクって逃げ出してきたらしい。タイトルは妖怪ハンター第一話のだが、歌ではないのでテレパシー少女蘭のEDソングを探して持ってきた。

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