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【絶鬼パロ】鬼隠しルング・ワンダルング

今は……何時だ。午前なのか、午後なのか。何月何日の何曜日か。空は赤いが、暗くも明るくもない。通常の天候でもなく、時々火花が散る。

ただ困惑する他ない。ここはどこだ。親の役を増やした『鬼ごっこ』とは。他の参加者はどこだ。自分の役は。『お守り』の説明書と周辺のビラ以外に、あまりにも説明が不足している。苛立ちが募る。いや、周囲を見ればわかる。まともなものではない。ろくなものではない。

付近の民家を覗く。鍵は……かかっていない。住人はいない。一斉に旅行に出たわけでもなかろう。殺されたか。いや、死体や血痕は見当たらない。強制的に退去させられた、というのが近いか。……鬼ごっこのために? どういうことだろう。時計は……止まっている。カレンダーもない。

とにかく、他の参加者を探すしかない。ただの鬼ごっこなら、殺し合いとか暴力沙汰にはならないはずだ。ただの、ならば。……空から、飛行機から、パラシュートで人間が投下されている。ひとまず、あれを追って行ってみよう。何かの手がかりになるかも知れない。

「ふーむ……?」

男……『稗田礼二郎』は、自分のデイパックに入っていた二つの物品を前に、首をひねっていた。

ひとつはよく分かる。日本古来の投擲武器『手裏剣』。鉄製で十字型、鋭利な四つの刃を持ち、うまく命中すればかなりのダメージが与えられるだろう。ナイフ代わりにも使える。それになんというか、言い知れないパワーを感じる。見ているだけで畏怖と高揚をもたらすような、禍々しい呪術的な力を。

もうひとつは……『鉄球』としか言いようがないものだ。大きさは掌に乗るほどで、六角形の意匠が表面の二箇所に彫り込まれ、その間に六本の溝がある。何に使うのか。投げて当たれば、それはそれで痛烈だろうが。あるいはなにか魔術的なアイテムかも知れない。

木々を飛び渡り、彼は鬼や人間の臭いを探す。微かに臭うが、森の中の奇妙な霧が視覚や嗅覚、聴覚を遮り、惑わす。これも鬼の仕業か。

彼は激怒していた。文字こそ読めないが高い知性を持つ彼は、機内で聞かされたこの状況を把握していた。鬼ごっこ。『』が他者を追い襲う、狩猟の真似事。強者が弱者の、生者が死者の肉を食べて生存する、厳しい自然の理ではなく。無意味な殺し。遊びでの殺し。親を殺したのような、力試しでさえない、一方的な蹂躙。生かして捕獲されても、敗北の結果は死。

赦さない。許さない。鬼を、鬼を殺す。そして、この島にバラまかれた弱い者たちを……守護らねばならぬ。たとえ他者から『鬼』と見られ、夜叉と見られようと。行動で示す! 自らが『鬼』ではないことをッ!

稗田は、遠くにチラリと見えた少女を追って、森に分け入った。声をかけようとしたが、すぐに見失ってしまった。何がいるのか分からない現状、あまり大声を出すと危険かもしれない。途中の標識には『この先、菅原神社』とあった。しばらく山道を進んでいくが、一向に神社も少女も見当たらない。

追い抜いてしまったのだろうか。あるいは、どこかで違う道に踏み込んだのか。というか、まず民家で何か漁っておけば良かった……人里の方が、情報や他の参加者も多く集まるだろうに。なぜ自分はフラフラと、彼女を追ってしまったのか。あれはなにか、人を惑わす存在だったのではないか? 稗田はとりとめもない考えに耽りながら、山道をどんどん進んでいく。

次第に霧が深くなって行き……ふと気がつくと、彼は大きな建物を発見した。
「ホテル……の廃墟か」
ここは島らしい。高いところから見回せば、全体像が掴めるか。他の人や有用な道具も見つかるかもしれない。
そう思い、稗田は廃ホテルの中へ足を踏み入れる……。

【E-04(ホテル跡)/00時30分】
【稗田礼二郎@妖怪ハンター】
[役]:親
[状態]:健康、やや疲労
[装備]:スリケン@ニンジャスレイヤー、ジャイロの鉄球@SBR
[道具]:デイパック
[思考・行動]
基本方針:生き残り、現世へ帰還する。
1:廃ホテルで他の人や道具、情報を探す。
※その他
自分の役・各役の勝利条件・制限時間を把握。

同時刻。島の西部、『菅原神社』の境内。木に引っかかっているパラシュートには、人間も荷物もない……。急いでこの場を離れたのだろうか。まだ近くにいるかも知れない。そう思った時。

霧の漂う森の木々の間から、獣臭が漂ってきた。熊か。イノシシか。いや―――なんだ、あれは。静かに姿を現したそれに、少女『竜宮レナ』は驚愕し、恐怖する。どうする。何が起きている。

身長は、少なくとも2m以上。筋骨隆々で毛むくじゃら。人間ではない。大きな猿だ。類人猿? ゴリラ? 直立二足歩行する? 大きな牙が生え、見るからに凶暴そうだ。まさか、これが『鬼』だというのか。

落ち着け。とりあえず、熊のようなものだろう。山の中で大型の熊と出会う。極めて危険だ。意思が通じるはずもない。目が合った。じり、じり、と後じさりする。手元に武器はない。一応『お守り』はあるが、投げて当たるとは思えない。いきなり走って逃げては危ない。大声も出すべきではない。ゆっくりと、距離を取る……。

やがて、それは―――その大猿は、近くに咲いていた花を摘んだ。そして……おずおずと少女に向けて差し出したのだ。

【E-02(菅原神社)/00時30分】
【竜宮レナ@ひぐらしのなく頃に】
[役]:子
[状態]:健康、困惑
[装備]:
[道具]:お守り
[思考・行動]
基本方針:帰還する。子や親と合流し、共に脱出を目指す。敵対する者には容赦しない。
1:付近にパラシュートで降下したであろう人間を探す。
2:目の前の大猿に困惑。とりあえず敵意はないようだが……?
※その他
各役の人数・会場の地図・制限時間の詳細は未把握。自分の役を子であると推測。
夜叉猿Jr.@刃牙シリーズ】
[役]:親
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:不明(支給品の入ったデイパックはどこかにある)
[思考・行動]
基本方針:鬼は殺す。子を守護る。
1:目の前の人間は、鬼ではなさそうだ。友好的に接する。
※その他
自分の役・各役の人数・各役の勝利条件・会場の地図・制限時間は全て未把握。鬼ではないと自認。
人語は多少解するが話せないし、文字の読み書きも出来ない。ノンバーバル・コミュニケーションは可能。

えらいものが来ていた。夜叉だが鬼ではなく親で、鬼(オーガ)とも因縁がある。たぶんカラテビーストのたぐいだと思うが黒帯は締めていない。少なくともヒグマより強く、知性もあるが言葉は話せない。鬼だと間違われたら討伐対象になるかも知れないので、ひとまず仲間を作ることにした。

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