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【つの版】度量衡比較・長さ編05:射撃武器

ドーモ、三宅つのです。前回の続きです。今回は射撃武器の間合、射程距離についてです。火器は別扱いにしますので、弓矢や弩、投石機です。

長さ編:01(身体尺)02(身長比較)03(近接武器)04(投擲武器)

▼射撃概論

投擲にも投石器や投槍器などの道具を用いますが、射撃は遠心力やテコの原理ではなく、主にバネの原理によって武器を射出するものです。ただ投石機(マンゴネルやトレビュシェット)は投石器の延長線上にあり、テコの原理によって動きますが、便宜上ここに含めます。

▼弓矢

投槍の発展形が弓矢です。湾曲した棒(弓)と弦の弾力を利用して小型の槍(矢)を飛ばす武器です。威力は投槍より小さく、マンモスやナウマンゾウを狩るには不足でしょうが、氷河期の終わりに伴う気候変動や人類による狩猟圧でそれらが絶滅してしまうと、すばしこい鹿や兎を狩るには数本の投槍では難しくなります。弓は何本もの矢を「矢継ぎ早に」射ることができ、投槍器や投石器と違い身を伏せたまま狙いをつけて発射できるため、中型や小型の動物を狩るには最適です。何本も刺されば大概の動物は動けなくなり、毒を塗れば殺傷力もアップしますし、改良すれば投槍器を用いた投槍よりも遠くまで届き、威力も強くなります。かくて世界中に弓矢は普及しました。

弓矢の発明は2万年ほど前と考えられています。ラスコーやアルタミラの洞窟壁画には、弓矢で野牛や鹿を狩る様子が描かれているのです。オーストラリア大陸には伝来せず、南北アメリカ大陸でも普及が遅かったので、アフリカかユーラシアのどこかで発生したのでしょう。

最も原始的な弓は単弓(セルフボウ)、すなわち一本の木材を素材にした丸木弓です。弾力がある木が選ばれ、曲げるなどの加工が施されました。威力や飛距離は弓そのものが長いほど強くなりますが、長すぎると扱いにくく、弦を引く力も強くなければならなくなります。有名な英国のロングボウ(長弓)はイチイ材の単弓で、長さ6フィート(180㎝)以上、引く力は100ポンド(45kg)にも達し、射程距離は200m、時には500mを超えたといいます。狩猟用の弓はそれほどではなく、射程距離は100mもあれば充分でした。ポープの実験的研究があります。

やがて木の芯材に動物の角や腱を膠で貼り合わせ、弾性や靭性を強めた弓が発明されました。これを合成弓(ホーンボウ、コンポジットボウ)といいます。別の改良法として、弓を逆に反らせる方式も開発され、両者が組み合わさって「逆反り合成弓」という最強の弓になりました。これならば弓自体を長くせずともロングボウ並の威力が発揮でき、取り扱いも楽です。特に紀元前1000年紀に騎馬遊牧民が出現すると、馬上で矢を射る「騎射」の技術が発達し、合成弓や逆反り弓が活躍するようになります。日本では騎馬武者が長い合成弓(重藤弓)を扱いますが、世界的には珍しい現象です。弓矢について素人がウカツなことを言うとキュードー・マッポに針鼠にされるそうですので、下の記事とかを参照して下さい。

▼弩

弓矢は強力な武器ですが、欠点があります。弦を引っ張る力が強いほど威力と飛距離は増すとしても、人間の腕力では限界があります。また弓矢は投石器ほどではないにしろ訓練が必要で、素人が急に弓矢のタツジンにはなれません。そこで登場したのが(ど、クロスボウ)です。チャイナが起源ともギリシアが起源とも言いますが、双方でほぼ同時期に出現することから、ペルシアや中央ユーラシアとかに淵源があるのかも知れません。

これは弓を横倒しにして台座の上に載せ、弦をあらかじめ引いて鈎に引っ掛け、引き金を引くことで矢を発射する武器です。装填に時間こそかかりますが、体重をかけて思いきり引っ張れば通常の弓より強い威力で矢を発射できます。矢が重いために射程距離自体は弓矢と変わりませんが、ついに人類は機械を組み合わせてものを発射する域に達したのです。そしてクロスボウの構造は、火薬を用いた銃の原型ともなりました。

▼投石機

人類は都市の周りに城壁を巡らし、外敵から身を守って来ましたが、それを破壊するために攻城兵器が造られました。初期の攻城兵器は梯子や破城槌ですが、やがて物体を発射して城壁を遠隔地から攻撃する兵器が登場します。

まず、人間の投石の動きを真似て、シーソーによってテコの原理で石を飛ばす兵器が造られました。漢字の「砲」とは本来文字通り「石を包んで」投げ飛ばすことを意味します。シーソーの片方に投弾帯、もう片方に綱を括り付け、人間が綱を引っ張ることで発射されます。大型になると人間が高い場所から飛び降りて全体重で引っ張ったり、複数の人間が必要になったりしました。曹操と袁紹が天下の覇権を争った官渡の戦いで用いられた発石車(霹靂車)が有名で、曹操はこれを用いて相手の物見櫓を破壊しています。石だけでなく、火炎瓶や死体(疫病のもとです)を投げ込むことも可能です。

ギリシア・ローマではクロスボウを巨大化したバリスタ(弩砲、床弩)が発達し、スコルピオン(蠍)と呼ばれました。人力で引っ張ることは困難で、歯車や滑車の力を借りますが、最大射程距離は400mに及びました。4世紀になるとオナガー(ロバ)という投石器が現れましたが、これはねじった縄の反発力を利用したものです。中世にはチャイナから「砲」が伝わり、マンゴネルとなりました。さらに人力ではなく錘によって動くようになり、トレビュシェット(平衡錘投石機)となりました。イスラーム世界ではマンゴネルが訛ってマンジャニークと呼ばれ、モンゴル帝国が採用して襄樊の戦いに用いました。その射程は400m、石弾の重さは90kgに及びました。

◆投◆

◆石◆

今回は以上です。次回は火器です。ようやく武器編も終わりそうです。

【続く】

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