マガジンのカバー画像

36
運営しているクリエイター

2020年9月の記事一覧

放流

立っているふりのバス停の標識が
長い朝の長い眠りから
起こさないように
首をもたれかけていた

私の知らない色が午後2時の中に塗られている
微笑みにならない手を開きながら
草に覆われていく様子を
見るともなく見る
頭上を通る飛行機の腹を
魚のように見ながら
わたしたちも魚になって
水位を上げて口を閉じる

空港の擦りガラスが
透明な夏を連れてくる
早朝のまどろみの中で
コーヒーカップを包む手が

もっとみる

針の鳴き声

薄い帆布を濡らしてすぐ森になる
道路に塗り直された白線の裏からページを繰る手によって
涙はまとまらず 足もたわんで
やすやすと明後日まで追い越した
走っている間だけ読むことができる文字と
既に伴走した光とを纏って
初めて街に立っている