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ハードすぎるサバイバル。『ペリリュー 楽園のゲルニカ』武田一義


久保ミツロウさんと能町みね子さんおすすめ漫画第二弾。GWなのに、どこにも行けないし、天気も悪いので漫画三昧です。

かわいらしい表紙の絵をひと目見て、思い出したのは武田一義さんのデビュー作『さよならタマちゃん』。武田さんが奥浩哉さんのアシスタント時代、ガンになって闘病生活を綴った、ユーモラスでためになる漫画。じんわりくるいいお話でしたが、まさかその方がいま戦争漫画を描いているとは知りませんでした。

舞台は南太平洋のパラオ諸島南部のペリリュー島。サンゴ礁の海に囲まれ、熱帯雨林の豊かな森に覆われた小さな楽園。戦争末期、そこに建設された飛行場をめぐって、アメリカ軍と日本軍が死闘をくりひろげるお話。

死闘といえば死闘ですが、その実際は圧倒的戦力差のある中で、降伏することを許されなかった日本軍の悲劇。でも、こういう言い方は失礼かもしれないですが、人間味に溢れていて、おもしろくて続きが気になってとまらない作品です。

主人公は、漫画家志望だった田丸一等兵。絵を描いたり創作したりするのが得意な彼が任されたのは、戦績係。遺族が悲しまないように、隊員たちの最後を連絡するのが仕事。例えば、「雨の中、裸で体を洗っていたときに米軍の飛行機に驚いて、頭を打って死にました」とは正直に報告できないので、かっこいいことを創作するのです。

日頃からぼーっと景色を観察したり、人の動きを描写したりするのが得意で、戦争では全然役にたたない彼が、米軍の猛攻撃の中、どうやってサバイバルしていくのかが見どころ。敵は米軍だけでなく、食料がなくなったら同じ日本兵同士で殺し合いをするし、盗みもします。中には頭の切れる兵隊もいて、戦死したように見せかけて、軍隊と付かず離れずの距離をとって食料をくすねてちゃっかりサバイバル。

この『ペリリュー』は、実際にペリリューの攻防戦であったことを基本にしつつ、戦争中にあった別の場所での逸話をもりこんだ創作だそうです。南太平洋や沖縄での集団自決はよく知られていますが、それ以外にも死んだ仲間の肉を食べて生き残ったり、夜中に米軍キャンプから食料を盗んだり。エピソードだけ聞くと悲惨きわまりないですが、絵柄がかわいいので抵抗なく、ハラハラ・ドキドキのサバイバルものとして読めるんです。

ちょうど最近連載が終わって、しかもフランスなどで海外版とかも出版されていて、アニメ化も決定したそうです。そんな高い評価は、巻末の凄まじい量の参考文献を見れば納得。コミックスはまだ完結していないので、単行本派はGWに既刊をまとめ&一気読みしつつ、最終巻を待つことにします。



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