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中国旅行の暗い展望を考える

 中国から本帰国してもうじき1週間経とうとする。日本という国の住みやすさを改めて実感し、つまるところ自分は西側市民なのだと思うと同時に、中国に対する一抹の郷愁が早くも出ているのだが、中国滞在を振り返ると、今後中国を旅行しようと思っても、もはや以前のような自由な旅行はできないのではないかと考えるようになった。実体験を基にその理由をいくつか考えていきたい。

①外国人に不相応な社会システム

このような市場の場合、かなりの割合で個人間送金で決済することが多い。

 中国の社会システム、特に決済手段などを中心にそれが外国人に向いていないことは多くのインフルエンサーや在中邦人の発信する通りだ。一方で最近は海外クレジットカードの紐付けなどが普及しつつあるという話もあり、これで少し明るい展望が見えているようにも感じる。
 しかし、微信支付や支付宝のクレカ紐付けはあることができない。それは個人間送金機能だ。しかも厄介なことに、この個人間送金機能は骨董市や小型商店、タクシーなどの分野では依然として使われており、都市にある程度停留してマニアックな観光地を見にいくなどの行動では不便に感じることも多いだろう。

②予約システムの一般化と煩雑な手順

中国共産党歴史展覧館。3日前に予約して審査を受けなければならない。

 従来、中国の観光地といえば予約する必要など殆どなかった(これは日本などもそうだが)。しかしコロナ禍で入場制限をしていたものが、コロナ明けで徐々に解禁された西側と異なり、中国では依然として多くの施設でその時に導入された予約システムが活用されている。
 しかもこの予約の多くは前日までの予約が求められ(外国人に人気な天安門広場でさえ例外ではないし、3日前予約もたまにある)、そして何より厄介なのが予約には微信が必要なケースがほとんどだということだ。
 在中邦人が忘れがちな視点に、多くの西側市民は中国当局の監視下にある微信をなるべくなら入れたくないというのがある。厄介なのが、仮に微信を登録して当該予約フォームまで達しても、中国の電番を求められることが多く、更に言えばそこまで用意してもパスポートでは身分証の代替にならず(在中邦人もここで予約を阻まれ嫌な思いをする)結局当日窓口まで行かなければならない(まあその場合は大体当日券で入れることが多いのだが、繁忙期は混むし入れるか確実ではない)。

③警察による監視体制の強化

国境地帯で現地警察に拘束される筆者(本当に詰んだと思った)。


 中国観光をする人の中には、少しマニアックな地域を訪れたいという方も非常に多いと思う。しかし今後それらは非常にリスクの伴う可能性があることを理解しなければならない。コロナ禍を経て中国の観光地は大きく様変わりした。とくにボーダーツーリズムと言える国境地帯観光のリスクは以前と比べ非常に跳ね上がった。
 もしこれを読んでいるあなたが、中国語にそこまで自信がなく、それでもボーダーツーリズムを楽しみたいのであれば、中国語に堪能な友人か、頑張って中国語のリスニングだけでも勉強した方がいい。なぜなら、筆者自身がボーダーツーリズムで現地警察に拘束された経験があるからだ。
 その拘束された場所(仔細は今時点では伏せるが)は、コロナ前はまだ外国人も物好きなら行くよね程度の地域で、外国人もそれなりに入りやすかった地域ではあった。しかしコロナ禍を経て、その開明的だった地域はすっかり閉鎖され、警察による監視能力をイヤというほど感じざるを得ない地域になってしまった。

④綺麗な観光地はお好きですか?

ゲーム世界のように綺麗だが、そこに歴史の血はもはや通っていない。

 先述の逆もまた然り。昔はバックパッカーの憧れだった土地も、コロナ禍を経てその良さは完全に唾棄されてしまった。
 新疆ウイグル自治区。かつてはシルクロード交易の中心であり、バックパッカーを惹きつけたオアシス都市はいつしか民族弾圧のイコンとなり、コロナ禍を経て遂に文化的ジェノサイドは完了してしまった。かつての薄汚くも熱気に包まれた都市は、整然と整備されたテーマパークに変わり、そこに歴史の血は通わない。
 残念ながら、今後中国の多くの地方都市はそのように変わっていってもおかしくない。かつての熱気と情熱、暖かみのある歴史はそのすべてが失われんとしている。

⑤今後の中国観光の展望を考える

 奇しくも私の帰国前、在日中国大阪総領事館が主催する新疆ツアーが開催され、参加者は新疆各地を巡った。私が思うに今後中国観光はこのような団体ツアーが優遇される国家になるのではないか。
 ビザなし往来が現実的でなくなり、先述の通り中国の社会システムが外国人に向かなくなり、諸々のリスクを外国人が背負うことになりつつある今、これらを解消するのは団体ツアーしか存在しない。そして何より団体ツアーなら中国の見せたいところなどを積極的に推せるという当局なりのメリットも大きい。
 (これは私の考えすぎだろうが)総領事館の新疆ツアーはコロナ禍を経て、そのような官製団体ツアーの試験運用に使われたのではないか。総領事館側が複数回のツアーを示唆していることからも、そのような気がしてならない。

 少なくとも中国はもはや開明的で、魅力あふれる玄人向けの観光国家ではなくなってしまった。今我々の横に存在する巨大な大陸の観光には竹のカーテンが静かに降ろされようとしている。

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