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宇宙島へ6「バベルの塔は天に届くか」

前回はレンガの圧縮強度を用いて、何個積み重ねなれるかを計算しました。しかし、これでは計算の手間が少しかかりますから、これを均質な柱に近似して、やや簡略化した形で求めてみましょう。
以下様々な場面を考える上でも、その方が便利です。

錐体の限界高度

均質な塔

で求めることができます。前回のレンガの値を用いると、

均質なレンガ塔の高さ

となります。レンガ1つずつで考えた場合とほぼ同じような数字になりました。
前回はレンガをまっすぐに1つずつ積んでいく場合を想定していましたが、今回は密度で計算していますし、底面や断面の形状は高さには影響しませんから、円柱でも角柱でも同じことです。ここでは計算しやすいように角柱で考えてみましょう。
しかし、大体の超高層建築物は、バベルの塔から「ダッジ・タワー」に至るまで概ね先細りの格好になっています。これはその方が建築物を高くできるからです。
このことは小学校レベルの算数で導くことができます。
先ほど均質に近似したレンガの塔を角柱だと考えましたので、角錐と比較してみましょう。

ちゅうとすい

ここで、一辺2hの長さの立方体と、それから切り出した四角錐を考えます。
すると、体積は、

四角錐の体積

となります。
一方で、立方体を半分に切断して、高さがhの直方体にすると、その体積は、

半分の柱

つまり、

半分の柱と四角錐

またここで、底面積をSとするとS=4hですから、これを先の式に代入すると、

錐体の堆積公式

となります。錐体の体積の公式が導かれたわけです。
このことから、錐体は同じ底面積と高さを持つ柱の三分の一の体積であることがわかります。すると、底面にかかる重さも三分の一になっていますから、逆に考えれば、同じ底面積なら、高さは3倍にできることになります。

もう少し詳しく考えてみましょう。四角錐は描きにくいので、描きやすい円錐を用いることにします。

円錐

高さH、底面積の半径Rの円錐を、高さhで切ったとします。そのときの半径をr(h)とします。なおここではHとhは頂点を原点oをしてy軸方向に増加するものとして考えます。すると、ohr(h)とoHRは相似なので、高さhと半径r(h)の比は、常にHとRの比で表すことができます。
よって、

断見席は高さの二乗に反比例

となり、断面積は高さの2乗に比例することが分かります。すると、錐体の限界高度は、以下のように求められます。

錐体の限界高度

すると、レンガの場合の限界高度は約4.59kmとなりますが、当然ながら宇宙まではまったく足りません。

様々な素材の錐体

それでは、素材をコンクリートにすればどうでしょう。密度は2.0~2.5g/立方cmとレンガとあまり変わりませんが、圧縮強度は200MPaと一桁違います。これを密度2.5g/立方cmとして、錐を作ってみましょう。

コンクリートの限界高度

計算すると、24.5kmとなり、レンガの場合の5倍強になりました。しかしそれでもまったくたりません。

では、鉄の塊ならどうでしょうか。地面がもつかどうかというのは一旦おくとして計算してみましょう。鉄の密度は7.88g/立方cm、圧縮強度は3500MPaですから、

鉄の限界高度

約136kmに達しました。なんとか宇宙まではいけそうです。
しかし、実は身近な素材では木材が一番有望かもしれません。木材は鉄に比べると遥かに弱く軽いですが、それは密度が低いということを物語っています。たとえばスギ材は、圧縮強度は380MPaと鉄よりも1ケタ小さいですが、密度は0.4g/立方cmしかありません。同じ重さなら圧縮の強さは鉄の約2倍になります。
これを計算すると、

木材の限界高度

すると、なんと約290kmまで到達します。

圧縮高度を超えない塔

塔のすそを末広がりにした方がよいのなら、下に行くほど広がりが大きくなり圧縮強度を超えないような塔にしてみればよいのではないかという考えが成り立ちます。

そうすると、塔が自重で壊れることはなくなります。

密度が一定という条件を変えないで考えると、高さに対して半径が指数関数に比例するような塔を作れば、圧力は次第に一定の値に近づいていきます。この圧力が圧縮強度を超えないように設定すればいいわけです。

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そうすると、自重で壊れることはないわけですから、問題になるのは高さではなく、最下部がどこまで広がるかです。

詳細は省略しますが、塔の最上部と最下部の半径の比は、以下の式で求めることができます。

最上部と最下部の比

eは前にも出てきたネイピア数2.71828182845…です。先ほどの円錐もそうですが徐々に細くしていくことを、建築用語では「テーパーをかける」といいます。

それでは、一番高くできた木材で考えて見ましょう。

たとえば、100kmの塔を建てるとすると、 半径比は1.68倍となります。もともと290kmまでは円錐形で建てられただけあって、2倍にもなりません。これならいけそうな感じがしませんか?

それでは、静止衛星軌道、高度3万6000kmまで建てるとどうなるでしょうか?

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という数字になりました。億でも兆でも京でもなく、約4不可思議倍になります。これだと、最上部の半径が10mでも、最下部は4.38×10の78乗kmということになり、地球の赤道半径約6378kmをはるかに超えてしまいますから、まったく話になりません。

もちろん、「エッフェル塔」や「東京スカイツリー」のような軽量かつ強靭な構造にすることで、改善はできるでしょうが、この数値では数桁改善できたところで現実的な数字にはなりません。

やはり、ツィオルコフスキーが記したように、「素材的に建設は不可能である」ということになりそうです。

【参考】
・佐藤実 (2011)「宇宙エレベーターの物理学」オーム社
・石原藤夫・金子隆一(2009)「軌道エレベーター 宇宙へ架ける橋」早川NF文庫
・佐藤実(2016)「宇宙エレベーター その実現性を探る」祥伝社新書
・石川憲二(2010)「宇宙エレベーター−宇宙旅行を可能にする新技術」オーム社
・B・C・エドワーズ、F・レーガン、関根光宏(2013)「宇宙旅行はエレベーターで」オーム社
・青木義男(2012)「宇宙エレベーター 人類最大の建造物」季刊大林53,p26-29
・大林組プロジェクトチーム(2012)「『宇宙エレベーター』建築構想 地球と宇宙をつなぐ10万キロメートルのタワー」季刊大林53,p30-59
・石川洋二(2012)「2050年宇宙エレベーターの旅」季刊大林53,p60-61

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