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学ぶやる気の処方箋

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学習塾での実戦経験を踏まえつつ、学習心理などの理論に基づいて解説。ここから逆に仕事の方へのスピンオフも発生しました。
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2014年12月の記事一覧

13 PDCA-2-2 「整理」〜花緑師匠の台本〜

 「整理」は情報をまとめること。ノートにまとめるだけではなく、テキストへの書き込みなどもこれに当たる場合があります。  特に暗記・記憶においては内容をまとめるというのが基本になります。  ここでもまず、落語家さんの例を見てみましょう。人間国宝であった故・五代目柳家小さんの孫に当たる柳家花緑師匠は、ネタをノートに書き写して台本を作って覚えるそうです。  落語の稽古というのは、師匠からの口伝え、メモを取ってはいけないのがルールです。  しかも、一人で演じる芸で、基本的に座布団の

14 PDCA-2-3 「関係」〜合成と分解〜

 「動機をコントロールするPDCAサイクル」のところで、「興味のあることと結びつける」というお話をしましたが、あの時に学習効率の上げるためにも使える側面があるとご紹介しました。例としてオームの法則をシャッター速度と絞りの関係で考えるというをとりあげました。あれが、ここでいう「関係」です。  「関係」というのは、大雑把に言うと、勉強している内容と他の知識を結びつける、ということです。  私が中学生を対象に調査したところでは、この「関係」という「技」を使いこなせている生徒は多く

15 PDCA-2-4「確認」~過程を振り返り、教訓を引き出す~

 「できた」ことが実感され、評価されることが「やる気」に繋がります。「やる気」があれば、次の学習が自然と促され、それが「できた」ならば、次も「できる」はずだという自信が湧いてきます。そうすると「やる気」を高めるいい循環が生まれます。  上手くいかなかったら、問題点を発見し、改善することが必要ですが、これがなかなか難しんです。それはなぜかというと、学習が上手くいっていない子どもは、上手くいかなかったところまで戻ることができない、あるいは上手くいかなくなるまでの流れを再現できない

16 PDCA-2-5 助けを借りる

 助けを求める行為、要するに人に質問をして教えてもらうということですが、これには二つの側面があります。  一つは「学習動機をコントロールする」という側面です。  自分ひとりでは解決できない状態が長く続けば、当然ストレスがたまり、「やる気」が失われていきます。そこに救いの手を差し伸べてもらうことで、問題が解決されてストレスが軽減されて、「やる気」が回復されるのです。  そういう意味では、「学習動機をコントロールする」という面でも非常に有効な手段であることは確かです。  でも、

17 PDCAを回すために

 いままで、「PDCA」の中身になる二つの分野の「技」を紹介してきました。学習におけるこうした「PDCA」のような自己マネージメントの理論は、実は1980年代にアメリカですでに提唱され、現在盛んに実践・研究されています。  その一つが、B・J・ジマーマンらによって提唱された「自己調整学習」です。  細かいことを言えば、「自己調整学習」は、とても大きな理論の集合体なので、一言でそのすべてを言い表すことは難しいのですが、簡単にその基本的な学習手法だけを述べますと、だいたい次のよう

18 保護者のためのメソッド-1 絶対評価で褒める

 熟達目標・絶対評価がやる気には大切だというのは、前にもお話ししました。  ここでは、この絶対評価について、もう少し考えてみたいと思います。  何度もお話ししているように、「できた/できる」という自信があれば、より自ら進んでやろうという気になりますし、自信が弱いものであれば強いられなければやらないようになる傾向があるのです。  このことは、昔の人も分かっていました。  「やってみせ、言って聞かせてさせてみて、褒めてやらねば人は動かじ」  これは、連合艦隊司令長官・山本五十六

19 保護者のためのメソッド2 情報を操作して選択を操作する①「マジシャンズ・セレクト」

 まず、ちょっと実験をしてみましょう。  あなたは、今とあるパーティーに参加しています。 そこで一人の女性客と話しています。傍らのテーブルの上には、ワイングラスが二つ。仮にAとBとしておきましょう。  そこで、女性客が「ねえ、グラスを取って。乾杯しましょう」と言ったら、あなたはどちらを取りますか? Aですか?  すると、女性客はあなたに「ありがとう」と言います。  あなたはどうします?  きっと、手にしたグラスを手渡すでしょうね。そして、あらためて、Bのグラスを手に取るで

20 保護者のためのメソッド2 情報を操作して選択を操作する②「フレーミング」

 ここに、部位も大きさも同じ二枚のステーキ肉があったとします。一枚には「脂身2割」と札がついています。もう一方の札には「赤身80%」と書かれています。  あなたは、どちらをおいしそうだと思いますか?  実はどちらでも同じですよね。  でも、実際に行なわれた調査では、「赤身80%」の方がおいしそうだと感じて、選んだ人の方が圧倒的に多いそうです。  つまり、提示する情報の切り取り方で、判断が変わってしまうんです。  こうした現象は「フレーミング効果」と呼ばれています。  

21 保護者のためのメソッド3 子どもの個性に合わせる①「学齢と誕生月」

●学齢と目標設定 目標を持つことが大切だというのは、何度もお話していますが、ここで子ども達の発達段階に合わせて考えてみたいと思います。  まず、発達段階による欲求の変化を見ておきたいと思います。欲求は目標の持ち方に大きな影響を与えるからです。  小学生の段階では、「新しいことを知りたい」という好奇心が一番強くなっています。  それが中学生では、自分の能力への欲求が高くなり、社会的な面にも目が向いてきます。  高校生になると、この三つが互いに関係性を強くしていきます。  

22 保護者のためのメソッド3 子どもの個性に合わせる②「前向きと後ろ向き」

●鶏口と牛後 子どもの性格について考えてみたいと思います。  あなたのお子さんは、負けず嫌いでチャレンジ精神旺盛でしょうか?  もしそうなら、無理をしてでも自分よりも優秀な子どもたちと競える環境を与えてあげた方がいいでしょう。  そうでないなら、「鶏口となるも牛後となるなかれ」。上位で楽しく学習できる環境の方が向いている可能性が高いです。  どうしてそう言えるのか。  それは、一般的に、学業レベルの高い学校では個人の自信が弱くなり、低い学校では逆に強くなるという現象

23 保護者のためのメソッド4 家庭の文化にする①「環境と遺伝」

 子どもたちが動機をコントロールする「技」として、「環境を整える」というものをご紹介したところで、自分だけがしているのではない、という思いが大切だということをお話しました。  家庭で学習するのではなく自習室などを利用するのは、下に小さい弟や妹がいて集中できる環境じゃない場合もありますが、多くの場合は、家庭だと「自分だけ」という疎外感を感じてしまうからです。  だったら、親も勉強をして、家庭環境を勉強する雰囲気にしてしまえばいいということになりますよね。 ●遺伝と環境は半分

24 保護者のためのメソッド4 家庭の文化にする②「文化とは家族」

●家庭の文化 報告書では、「家庭の文化が学校の文化に近いほど、子供の学力も高い」としていますが、これはかなり遠慮した言い方でしょう。  学校の文化を凌駕する高水準の文化を有する家庭だって実際にはあるでしょうし、そうした家庭は学校の文化とかけ離れているから子供の学力が低くなるということは考えにくいことです。  分析の表現は、学校の文化を理想化し、目指すべき対象として一元化することで、家庭間の優劣を問題にしないように配慮している、と考えるべきでしょう。  ですから、誤解を恐れずに

25 保護者のためのメソッド5 身体面も考えてみる①「体調不良」

 やる気がないときって、不調であることもありますよね。そうした不調を訴えること、つまり愁訴の原因は身体的な要因であることもすくなくありません。  不定愁訴、というのはどこが悪いというような原因がはっきりとはしていない不調で、たとえば、倦怠感や疲労感、微熱、頭痛、のぼせなど様々な症状があります。こうしたことがやる気を妨げてしまいます。  その他にも、やる気を妨げるものとしては、明確な身体的な要因があります。まずはこちらから考えてみたいと思います。 ●身体の不調がやる気をそぐ 

26 保護者のためのメソッド5 身体面も考えてみる②「栄養素の過多と欠乏」

●砂糖の功罪 その他の身体的な問題としては、栄養分の過剰や不足ということが考えられます。  たとえば、「Journal of Physiology」2012年5月15日号掲載のカリフォルニア大学ロサンゼルス校の神経科学者フェルナンド・ゴメス・ピニーリャ氏率いる研究チームの論文によると、6週間にわたって、水の代わりに15%の果糖溶液を与えたラットは、迷路の通り抜けが遅くなり、脳の内部では、学習のカギを握るシナプスの可塑性が抑えられ、記憶の形成に重要な海馬で、糖分を調整するイン