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映画『交換ウソ日記』レビュー(ネタバレあり)

恋愛だけでなく、高校生の人間関係の指南書にしていいレベル。

桜田ひよりちゃんが主演で、茅島みずきちゃんも出演。さらに『最愛』での好演が印象深い高橋文哉くんも出ているということで、すこし遅くなったけど映画館に観に行った。
やはり普段は、こういう映画は観るには観るけど、映画館より配信で観ることが多いので、ちょっと久しぶりに高校生向けの映画をスクリーンで鑑賞した。

ただこの映画はちょっと違う。ただキュンキュンするシーンを繋ぎ合わせた映画ではなく、きちんと恋愛の濃さがあったし、キャラクターの行動にきちんと理由があった。
近年のキュンキュン映画とは全然別物だと思わせてくれるものだった。

予告とか番宣とかで高橋文哉くんが「世代や性別に関係なく楽しめると思います」みたいなことを言ってたけど、マジでそうだった。
「なんでゴゴスマで宣伝してんの?」とか思ってたけど、これはゴゴスマの視聴者層でも刺さるところがあると思う。





(C)2023「交換ウソ日記」製作委員会

まず主人公の黒田ちゃん(桜田ひよりちゃん)の性格と、その性格に瀬戸山(高橋文哉くん)が向き合う展開がとてもいい。
(※個人的に名前より「黒田」の方が印象に残ったので黒田ちゃん呼びで統一する)

普通のキュンキュン映画だったら、「そんなこと気にすんな」とか言って、イケメンパワーで無理やり解決されるところだけど、ちゃんと理屈の上で彼女を肯定した。

しかもすんなり肯定したのではなく、一度否定してしまい、その後瀬戸山は反省して、黒田ちゃんの口癖の「なんでもいい」は「なんでも受け入れられる強さがある」みたいなちゃんとした肯定をしていたところが良い。
この肯定の仕方は人間関係において凄く大事なことだと思うので、世の男子高校生はマジでこれ出来るようになった方がいい。
「でも、それがお前のいいところだよな」みたいな、秒で思いついたような薄っぺらい言葉ではなかったのがとてもいいと思った。
さらに脚本的に言えば、この瀬戸山が反省して、この言葉が出たことにも「日記の相手が黒田だと気づいていた」という理由が最後に判明し、見事に行動原理の裏付けがなされた。これがなかなか素晴らしいと思った。



(C)2023「交換ウソ日記」製作委員会

そして個人的にもう一つ特筆したいのは、終盤の方で瀬戸山が勢いで黒田ちゃんにキスしてしまったとき。
このときの黒田ちゃんの表情が、まるで知らない男からキスされたかのような、痴漢やストーカーにでも遭ったような、ドン引きの表情なのがとてもよかった。
普通のキュンキュン映画だったら、驚きはしてもあの表情は出ない。照れるか呆然とするかのどっちかだが、黒田ちゃんはただの呆然に加えてドン引きをしていた。アレは桜田ひよりちゃんの名演だと思う(ホントにドン引きの演技なのかは定かではない)。
いくらイケメンで好きな相手でも、脈絡なくキスされたらドン引きするという、しかもイケメン(瀬戸山)も後悔するという、ちゃんとした展開なのが良かった。
キュンキュンじゃなくて「えっ?(真顔)」な展開にしたのがとてもいい。


(C)2023「交換ウソ日記」製作委員会

そもそも、普通のこの手の映画のイケメン主人公といえば、強気なのか何なのか知らないけど、距離感がバグってて、いきなりヒロインに馴れ馴れしいけど、今回は最後に意図的であったことが判明するので、ちょっと思わず唸ってしまった。
普通は「そういうキャラだから」という浅い理由しかないんだけど、この映画は狙ってやっていた納得の理由がちゃんと描かれるので、それが凄くいいなと思った。
男性側(イケメン)のリアルな感情を描くのも大事。
一番最初の口をムギュっとするのは謎だけど、童顔のために妹のように見えたのかもしれない。

それから小さいところで言うと、優子ちゃん(齊藤なぎさちゃん)が米田(曽田陵介くん)に告白したものの勘違いされるのが地味に面白かった。高校生でLGBTQをあんなにすんなり受け入れるのはさすがの現代でも珍しいはず。
そしてちょいちょい出てくる、数学の先生の言ってることが黒田ちゃんの状況とリンクしている遊び心も嫌いじゃなかった。


(C)2023「交換ウソ日記」製作委員会

あとは、黒田ちゃんが江里乃ちゃん(茅島みずきちゃん)の名前を語って交換日記をしていたことが本人にバレて、仲直りするシーンもよかった。

というか江里乃ちゃんはめちゃくちゃしっかりしている。
黒田ちゃん、江里乃ちゃん、優子ちゃんの3人がケンカをしたとき。大人からすれば「なんてバカバカしいケンカだ」となるところだが、たしかに学生時代って多感だから、細かいところで勘違いが起きるし、くだらない理由でケンカしたりする。
そして優子ちゃんのような子はたしかにいるし、
江里乃ちゃんの言葉にも深いものがあるし、逆にその正論を、幼さが故に簡単に受け入れきれない優子もとてもリアルだと思った。
ここでの人間関係の崩壊の過程、そして仲直りという再構築の過程は、高校生は勉強になると思う。
マジでこんな感じが一番いい。自分の成長にも繋がる。

さらに、エンドロールが終わったあとのシーンも凄くいい
ちゃんと大人になっても付き合っていて、結婚の話も出ている。
作品で描かれた恋愛が本気のものであると、ちゃんと成就したのだと証明する、とても素晴らしいシーンだと思う。
普通のキュンキュン映画なら学生時代のことだけ描くか、結婚してもここまでの丁寧な展開はないけど、この作品は丁寧な展開の上にこれを付け加えてきた
やはり学生時代の恋愛は「彼氏・彼女がいることがステータス」となっていて、先のことは何も考えていない無責任な形になる人も少なくない。もちろんちゃんと考えてる人もいるけど。
この映画はその無責任さを捨てて、ちゃんと本気で好きだったのだと、恋愛をするというのはこういうことだと、最後に学生たちに教えているようにも思える。

褒めてばかりだけど、引っかかるところも無い訳ではない。元カレの存在感の無さというか、元カレであった意味がちょっと分かんないのと(別にいいんだけど)、黒田ちゃんが瀬戸山を好きな理由が、ちょっとボンヤリしたものでしか見えなかったような気もした。結局最初から最後まで顔だけで好きになってるような気がしなくもない。まあ高校生なんてこんなもんだと思うけど。



(C)2023「交換ウソ日記」製作委員会

そして最後に役者陣。先述の通り、桜田ひよりちゃんの表情の演技は、作品の質を上げる大きな効果をもたらしていると思う。
ただその前に、シンプルに「乙女な感じがたまらない」のが大きい。つまり可愛いということだ。
そんじょそこらのヒロインよりもヒロインだったと思う。
そして茅島みずきちゃんは大人っぽい見た目を活かして、ちょっと大人な考えの女子高生を好演していた。
高橋文哉くんも、仮面ライダーから始まり、最愛での悲しき努力の弟と来て、ついにポテンシャルを最大限に活かすイケメン役をまっとうしたなと感じた。
齊藤なぎさちゃんも思ったより、嫉妬で怒ったシーンとかよかったし、曽田陵介くんもこの手の映画によくいるムードメーカーな親友役を、自然だけど存在感を大きく残したと思う。

思わず長くなってしまったけど、とにかく久しぶりにいい恋愛映画を観た。

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