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H&Mがちょっとリッチな「サステナブルファッション」を推す理由を考えてみた

H&Mが、サステナブルな素材を使ったコレクション「CONSCIOUS EXCLUSIVE(コンシャス・エクスクルーシブ)」のオンライン発売と神宮前でのポップアップショップを発表したとWWDが報じています。コレクションの発売は3月28日(土)、ポップアップショップは28日(土)29日(日)の2日間限定となるようです。

詩的な美しさと循環する革新」をテーマに、11回目をむかえたコンシャス・エクスクルーシブ。サステナブルな素材として、ワイン製造時に副産物として生まれたブドウの皮や茎・種を利用した人工のヴィーガンレザー、オフィスで2度淹れたコーヒー粉による染色、海に投棄された漁業用網で作ったナイロンなどを採用しています。漁業網のバンドゥビキニ、デザインも可愛くて、すごく気になる…。

H&Mにしてはちょっと高い?けど、これが鍵

もうひとつ気になるのが、こちらのコレクションの価格です。例えば、ワンピースが15,999円、リサイクルメタルを使ったサンゴモチーフのオンライン限定イヤリングが4,999円と、25組で1,300円のピアスセットを販売するブランドにしては、ややお高め。ですが、もしこの値段が適正なのだとすると、H&Mは今、大きなチャレンジをしているということのかもしれません。

つまり、消費者目線でみたときに、今回H&Mが販売する服が「高い」と感じるのには、ブランドにファストファッションのイメージがあるからではないでしょうか?

H&Mは、スウェーデン・ストックホルム発のファッションブランドです。創業は1947年で、当時は婦人服専門のブランドだったのだそうです。その後ヨーロッパからアメリカ、アジアへの進出を経て、2000〜2010年代に世界中を席巻した、いわゆる「ファストファッション」人気をこれまで大きく担ってきたブランドです。

2000〜2010年代のファストファッションを牽引

ファストファッションとは、トレンドに合わせたリーズナブルな衣服を、コストを抑えながら製造・販売するファッション業態のこと。世界規模出店によるショップへのアクセスのしやすさや、とにかく安いというファストファッションの特長によって、アパレルの大量消費は一気に広がっていきました。その一方で、2013年にバングラディシュ・ダッカで起きた「ラナ・プラザ」の崩壊事故など、現在はファストファッションへの疑問が多く語られてきました。大量生産による廃棄ごみの問題や、製造過程での過酷な労働状態が大きな問題として取り上げられています。

2010年代後半ごろからネガティブなニュースが多くなってしまったファストファッションに関する問題はここでは省略しますが、H&Mがファストファッションの代表的なブランドとして人気を博してきたことは事実。その一方で、現在エシカルに対して取り組んでいるアクションのひとつとして、「コンシャス・エクスクルーシブ」が展開されているといえます。消費者が実際に手にとれる「素材」によって、サステナビリティをプレゼンしているのです。2018年11月には、袋を紙製に変更したうえで有料化したことが報じられています。

また、注目すべきはH&Mのサプライチェーンに対する取り組みです。衣服を大量生産するために、世界各地の工場とサプライヤー契約を結んでいるH&Mですが、契約時は「サステナビリティ・コミットメント」への署名が必要となるのだそう。ジェンダーや賃金が平等であるか、労働時間は適切であるか、など、国連の基準などに基づく条件が提示されているようです。

また、H&Mグループに対して生産を行っているサプライヤーマップが公開されています。このマップでは、一次サプライヤーの100%、紡績・皮なめしなどに時サプライヤーの67%を確認できるようです。さらに、2021年までに染色などn次サプライヤーの100%開示を目指していると宣言しています。

H&Mのチャレンジは「エシカル」と「コスト」の調和

New York Timesは、年間推定売上が30億円を越えるこの巨大アパレル企業の取り組みに伸び代があることを指摘し、より一層のアクションを推進すべきだと述べています。大きな企業になればなるほど、複雑化するサプライチェーンによって、フェアトレードや良い労働環境がキープされているかを確かめるのは大変なこと。ですが、それらに対して経済的・社会的な影響を与えていることへの責任がブランドにはあるといえるでしょう。そういった意味で、H&Mのような企業が正しいサプライチェーンとビジネスモデルを世間に広めていくことは、ひとつの手本となっていくでしょう。

ところで、H&Mはブランドバリューのひとつとして「Cost-conscious(良質な値段)」を掲げています。これは、もはや単純に安かろうよかろう、という意味では通用しないのかもしれません。これまでファストファッションブランドとして「安い」がフィーチャーされ続けてきたH&Mですが、エシカルテックやフェアトレードによる(ポジティブな)コストパフォーマンスのダウンと、消費者にとってもフェアな価格設定を諦めない姿勢を調和させることは、大きなチャレンジです。H&Mが公正でクリアなサプライチェーンを完全に実現することは、世界全体のファッションビジネスにとって大きな進化になるといえるのではないでしょうか。

Image: H&M Image Galley
Source: H&M Group, H&M, WWD(1, 2), New York Times, Fashion Snap.com