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楽園と楽園を行き来する女性(メキシコ)①

 メキシコにいた時、ターニャと同じ場所に下宿していたのだが、一緒にボランティアをしていた。近隣のカーペット作りで有名な村で英語を教えるというものだった。そこで出会った何人かと仲良くなって、よく集まって一緒に飲みに行ったりご飯を食べに行ったりしていた。オアハカは欧米の厳しい冬の間を温暖なメキシコで過ごす、ウィンターバードを呼ばれている人たちに人気で、長期滞在の外国人が多かった。当然そういう人たちは時間を持てあましていて、そんな人に向けたボランティアプログラムがいくつかあった。私が参加したのはその一つだ。

 ボランティアで英語を教えると言っても、観光ついでに軽い気持ちでやる人がほとんどだ。教える内容はざっくりとは与えられていた気がするが、後はそれぞれに任されていた。もちろん自分もそんな一人だったが。そんな中、目をひく女性がいた。手を入れて動かす人形を買って持って行って、それに向かって何かを説明させたりだとか、だれでも知っている昔ばなしの続きを考えて行って、覚えさせたりとか。楽しみながら英語の力をつけるよう、工夫されていて自分も参加したくなるくらいだった。控えめに言って、ボランティアの域を超えていた。お金が発生しないにも関わらず、こうやって自分の持てるスキルと経験を出し惜しみせずに与えている女性にものすごく感動してしまった。

 終了後、私は女性に話しかけて、自分の思いを伝えた。「ボランティアなのにこんなにレベルの高いことをやっているなんて!ってすごく感動しちゃった」と言うと、「今の自分にとってこんなに嬉しい言葉はない」と感激した様子で目をうるませた。彼女の名前はモーガンで、ハワイ大学でスペイン語を教えていたが、当時は訳あって1年間休職していた。事情は知らないが、会ったばかりのよく知らない人からの言葉が救いになることは私も経験している。自分の気持ちを素直に伝えたことが、モーガンの琴線にふれたようで、私も嬉しかった。

 モーガンはいつもお日様みたいな笑顔を絶やさず前向きで、話が面白いだけではなく、きちんと人に向き合って話を聞いてくれる人だった。もちろん私はすぐに大好きになってしまった。仲良くなったボランティア仲間で会う他にも、個人的にモーガンを誘って会って話すようになった。モーガンは毎年2ヶ月の休暇をオアハカで過ごしていた。毎年来ているから、メキシコ人、外国人問わず知人友人が多く、なじみのお店もたくさんあった。滞在する宿もお気に入りの場所があった。ハワイとメキシコを行き来する生活が心底羨ましかった。(続く)

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