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談義⑨ 不動産・建設業界における「ヒト」の破壊的ファシリティマネジメント

1-1. 全体性をとらえたFMの必要性

 これまでの談義にて、企画(用途検討・用地取得等)-建設(設計・施工)-管理(修繕・運用)-解体/再利用の分断を解消するようなファシリティマネジメント(FM)の必要性を各方面・各視点から語ってきた。

 簡単に顧みると、事業主の視点では長期的に運用しやすい建築を実現できる。設計者の視点では、通常の設計業務のみでは想定できない期間までの建物の可能性が検討可能となり、また企画や管理の段階での設計技術の活用が業務領域の拡大や深化につながる。社会的な視点では、SDGsへの配慮が望まれる社会において、総合的なライフサイクルを可視化・分析する足掛かりとなる。これら各視点のニーズに応えるべく、既存の漸進的FMでは達成できない破壊的FM の模索を重ねてきた。

企画から解体まで、全体性をとらえたFMが求められている

1-2.「ヒト」に隠された破壊的FMのヒント

 今回は、談義④以降で概念的に提唱した「破壊的FM」を生みだすための「ヒト」の関係性に着目したい。「ヒト」への着目の理由を簡潔にいえば、不動産や建設業界は、個人個人に能力やノウハウが蓄積する傾向にあるからである。「ヒト」という資産をフル活用してFMに革新をもたらそうとする以上、ヒトによる関係性の分析は避けては通れないだろう。

 ちなみに、第7回談義にて企業の経営資源は大きく4つ、ヒト(人事)・モノ(FM)・情報(ICT)・カネ(財務)に分類できることに言及した(図1.1)。

FMerが扱う経営資産を拡張的に、ヒトに焦点を当てて捉えなおすこと

 ここでモノに紐付くのがFMであるのに対し、ヒトに紐付くのは人事であると言った点では、今回の談義は関係性が錯綜しているように見える。しかし、図でも〇としているように、広義のFM(=経営資源全体のマネジメントを統括する業務)においては、ICTやカネ、ヒトもFMのマネジメント対象となる重要な資産である。今回に論考では前提として、ヒトのFMを検討したい。

2-1. 「モノ」でなく、「ヒト」のFMとは?

 そもそも、ヒトをFMに取り込むということはどういうことだろうか。プロジェクトの関係者という点では、管理者や設計者・利用者など多岐にわたるヒトが存在する。

 モノを扱うFMは、談義⑦で考察したように、モノの持つ価値を明確にしてモノとモノとの関係性を最適化することに要点がある。このことからヒトを対象としたFMを連想するならば、「ライフサイクル全体でのファシリティの価値に関連するヒトとヒトの関係性を最適化すること」と読み替えることはできないだろうか。
 プロジェクト推進において、責任の明確化のために、個人や法人の業務を可視化・文章化することは少なくない。責任区分を重視する米国の文化では、特にジョブ・ディスクリプション(職務記述書)が重要視されている。
 ただし、破壊的FMという視点でヒトを捉えるならば、責任の明確化だけでなく、協業・連携による業務の深化・拡大化の可能性を高めることが重要ではないか。例を挙げると、協業するステークホルダーの業務だけでなく属性・人柄・能力が互いに分かれば、新たな発見や次なる協業の糸口が見つかることは往々にしてあるだろう。情報やモノだけでなく、ヒトがオープンソースとなることでもイノベーションが生まれる可能性はある。

不動産・建設業界で破壊的FMを生み出す、全方位的な職能連携

 この視点をもつことが新しいわけではない。マネジメントの側面においては、バイブルの一つでもある「PMBOK」のなかで、「9.プロジェクト資源マネジメント」にて、”チームの育成”や”チームのマネジメント”のいても、プロジェクトのパフォーマンスを高めるために関係性を最適化することの大切さは何度も述べられている。私たちが取り組むのは、より具体的に”ファシリティ”の価値を高めるためのチーム作りだ。

2-2.狭く強い関係性と、広く弱い関係性

 実際に今でもいくつかの優れたプロジェクトでは、不動産屋・工務店・管理企業・テナントなど地域のプレーヤーがある程度お互いに認知している状況(地域の人材がオープンソースとなっている状況)である。ヤマガタデザインらによる「SUIDEN TERRASSE」や多気町に大きな集客をもたらしている「VISON」など、地方都市や田舎で土地の自然文化を活かした面白いプロジェクトがたくさん生まれている。

 しかし、地縁や紹介のみではプロジェクトの拡張・革新には限界があることも確かである。特に建築に関するものでは土地に根差しやすい媒体である。限られた地域での限られた資源(ヒト・モノ・コト)を扱うローカル・プラットフォームのみでは、PDCAサイクルの循環による業務の深化・拡大化もシステムバウンダリーが物理的に限定されやすい。

 一方、近年ではクラウド・ソーシングなどの新たなヒトの繋がり方を起点としたプロジェクトチームの組成方法も変革されてきている。「Lancers」や「CroudWorks」などは2000〜2010年代に設立され、オンライン上で不特定多数のヒトに業務を発注できるクラウド・ソーシングのプラットフォームを構築した。これらのサービスは地縁・紹介からの脱却を容易にし、実績やコストパフォーマンスを重視した、より広いバウンダリーからのチーム組成が可能となっている(特にWEBメディア系の業務(記事執筆やHP作成など)にて発展している。)
 建設業との関係性が深いところでは、「CraftBank」は建設工事受発注プラットフォームとしてクラウド・ソーシングのなかでも建設に特化した媒体を提供している。

 ギルド色の強い建設業界でも、オーダーメイドのチーム編成が可能になりつつある。ただし、業務を分離発注することで関係者間の顔が見えず、コミュニケーションに労を要する点や、そもそもプラットフォーム利用者が少なくニーズに合わない点など、課題も存在するようだ。急速に拡大しているプラットフォーマーはこうした課題も迅速に解決し、より良いヒトの繋がり方の側面から社会を向上していくであろう。

2−3. 業界の固有性を紐解く関係性の構築

 ヒトに焦点を当てたチームビルディングについて、従来型の地縁・紹介(フィジカル)も、新たなクラウド・ソーシング(バーチャル)も、結論から言えば最終的には併用されていくことだろう。選択と集中には反するが、「どっちも大事」である。しかし、併用といえども工夫が必要である。
 ヒトの破壊的FMの一つとして、ICTなどデジタル技術を用いつつも、フィジカルな繋がりをないがしろにしない、ハイブリットなサービス展開・関係性の構築も求められているのだろう。

フィジカル・バーチャルのハイブリッドで業務領域を拡大していく関係性

3 ヒトの破壊的FM→ヒトに着目した発見と展開

 明確化された業務を超えて連携するとは、具体的にどのようなことに取り組めるのだろうか。

 例えば設計者と管理者が計画時から連携していれば、設計段階から共用部等の管理に使用できる温熱環境データのセンシングについて初期設定しておくことができる。また、管理段階において必要に応じた改修設計などが素早く行える。施工者と販売者が連携すれば、施工段階から販売上有益になる情報をSNSや広告等にて拡散できる可能性がある。施工行為自体もまた周辺に対する単なる雑音ではなく、一種のパフォーマンスにとして設えれる可能性もあるかもしれない。

 上記は現段階での妄想にすぎないが、それぞれのプロジェクトごとにある固有の特徴と、取り組むチームのプレイヤーがもつ特性のマッチングによって、まだまだ新たな発見が見つけられそうである。


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