シェア
かずさ
2020年6月9日 03:46
あたしね、妹のことが、嫌いでたまらなかった。 あたしのことを何でも真似してくるの。 いちばん古い記憶は、そうね、お気に入りだったクレヨン。 あの子、真っ二つに折ったのよ。五本とも。 カッとなったあたしがあの子を叩いて、母親に酷く怒られた。 お姉ちゃんなんだから、って。 あたしが責められている横で、あたしの服の裾をつまむ小さな指と無邪気な眼差しに、ぞっとしたのを憶えてる。 それが最初
2020年6月4日 22:04
その光景を、忘れることができずにいる。 淡い青色に染まった紫陽花の向こうで揺れる、白いワンピース。 薄曇りの空を割って幾筋も降り注ぐ、あたたかな光。 緩く手を繋いだふたりを包む、穏やかな空気。 振り向いたその人の、はにかんだ笑顔を。 忘れることができずにいる。「今年も、咲いたね」 縁側で庭を眺める父にそう言って、湯呑みとお茶菓子を載せたお盆を隣へ置いた。 そうだな、と呟いた父