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社会の未来を作っていくデザイナーを、支えていく社会を作りたい。


社会人にデザインの知見を、という想いで講師と学生が共になって日々の学びを深めているXデザイン学校。実際に学びの場にいる方々の声を届けていく、クラスルームインタビュー。第7回目はリーダーコースで講師を務める大崎 優さんです。

大崎 優さん
株式会社コンセント取締役、サービスデザイン部門、マーケティング部門管掌。サービスデザイナー、デザインマネージャー。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業後、グラフィックデザイナーとしてキャリアをスタートし、2012年にコンセントにてサービスデザイン部門を立ち上げる。HCD-Net評議委員。コンセントDesign Leadershipメンバー。大手企業を中心に新規事業開発やブランディング、デザイン組織構築、デザイン人材の育成支援に携わられています。

現在、どんなお仕事をされていますか?

私はコンセントという会社で、サービスデザイナー・デザインマネージャーという肩書で活動しています。コンセントはデザイン会社ですのでクライアントワークとしてデザインに携わっていますし、コンセントの役員でもありますので、デザイン会社の経営にも従事していることになります。サービスデザイナーという肩書きでは、デジタルサービスの構築など事業開発の支援を行っています。ユーザー調査やコンセプト設計など、事業開発をデザイナーが伴走支援するような枠組みの仕事です。デザインマネージャーとしては、デザイン経営に関するコンサルティングを行っています。デザイン組織を構築することで事業や業務を変革していったり、デザイナーを雇用し始めるような会社の人材育成や評価制度を整備したりするような、経営にまつわる包括的な支援をしています。コンセント内部では、コンセントというデザイン組織の経営をするとともに、合計約170名(2022年6月時点)が在籍するデザイン事業に関する複数のグループの担当役員でもあるので、全体の業務を見ながらもデザイン人材の評価制度や育成制度を作るような活動もしています。コンセントのマーケティング担当役員も兼務していますので、「デザイン」全般の市場創造や、コンセントの認知形成、戦略的な人材配置を通した組織最適化も日々考えています。Xデザイン学校のリーダーコースの立ち上げから携わっていますが、自分は仕事の中でまさにリーダーコースの内容を実務として実践してきた実感があります。

大崎さんのコースはどんな内容ですか?

リーダーコースの受講生は、デザインチームのリーダーだったり、企業の管理職でありながらデザイン分野のキャッチアップをしたいという方が多いです。デザインを通して“自分が組織をどう動かしていくか?”や、 “自社にデザインの活用をどう促していくか?”という課題を持たれている方が多いです。そういった課題やニーズに合わせながら学びの場を提供をしています。私も実務の中で、組織をどう変えていくか、どう人を育成しながらプロジェクトを動かしていくか、という点はとても意識しています。これらは、一般論を理解すればすぐに身につくものではないので、実務に即したリアルな話をするように心がけています。
私が担当しているのは「デザインプランニング」「デザインマネージメント」「デザインチームの組織」「ワークショップのデザイン」の4つです。講座は座学とワークショップで構成しています。例えば「デザインマネージメント」なら、ある企業の状況を想定してその中でのデザイン活用やデザイン組織化のロードマップを作っていく、という授業をしています。単純に売上や業務・事業内容ではなく、その企業の実情として今こういう経営課題があるとか、担当者課題があるとかを設定し、長期的なロードマップを描いて組織を動かしていくというようなことを探究しています。ただ、一回の授業は2時間半程で細部まで学び切ることはできないので、「論点が見える」ところまで持っていけるよう心がけて、“こういう論点・視点で考えていけば自走する道筋はたどれる”、“こういう視野・視点で物事を捉えていけば、組織に対する考え方が身に付く”という意識を持って授業を作っている形ですね。

デザインビジネスを、変えていきたい。

どんなキャリアを歩まれてきましたか?

私は武蔵野美術大学の視覚伝達デザイン学科出身で、大学を卒業して8年ぐらいはアートディレクターという肩書きでした。デザイナー・アートディレクターという形でまさにビジュアルを軸に出版物や広告のデザインをしていました。2012年にサービスデザイン事業部をコンセント内で立ち上げましたが、その時点で私はグラフィックデザインやビジュアルデザインといった分野のデザインビジネスに限界を感じていたんです。デザインが社会に役立てられるのかという点で、例えば広告デザインによって消費を喚起して市場を回すという意味では効力があるんですが、一方で社会にとって本当に良いことなのかっていうことは、やはりもやもやしたという経験がありました。デザインのフィーも過小評価されて、単価という枠組みにとらわれて、デザイナーがいかに力を入れたり、技術を上げて良いものを提供したとしても、同じような価格になってしまう、みたいなところがありました。デザインビジネス自体を変えていかなきゃっていう課題意識を持っていました。

そんな時にいろんな出会いもあって、サービスデザインというものをやっていくことになりました。そこでは、やはり事業や経営ってものが理解できないと、サービスデザインができないなってことをすごく痛感して、そこからかなり自分の中で学び直しみたいなことを強くやってたんです。ひたすら本を読みまくりながら、単純にインプットするだけじゃなくて、デザイナーにとってビジネスの知見がどう必要なのか?ということを社内でアウトプットするということもしていき、そういう探求を繰り返す中で身につけていきました。2015年にコンセントの役員になったんですが、企業経営を預かる者としては当然理解していないと迷惑がかかるという喫緊の課題意識からいろんな分野をさらに学んでいきました。

全てのグラフィックデザイナーがサービスデザイナーになれますか?

広義でも狭義でもデザインというのは、“意図を持って計画し形を作りながら物事を推進する”という軸において一緒なので、そこは私は同一のものとして捉えてます。今の私は、フィニッシュワークとしてグラフィックデザインをすることは仕事の5%くらいなんですが、プロトタイプのためにスケッチを書くといったことは日常的に行っています。サービスデザインもグラフィックデザインも私の中では同一性が高いと思っています。サービスデザイン的な動きとして大事なのは、何事もまずは形にしてみて示して共創を促すってことですね。当然、失敗することもありますが、その失敗も仕事であるという認識を持って突き進む、ということがサービスデザイン的な態度として非常に重要なポイントだと思っています。言い換えれば、“答えを自分の中で探しながら形にしていく”ってことでもあります。サービスデザイナー同士で議論すると、「自分なりに答え=ゴールをイメージしている」タイプと「ゴールはイメージできないけれども共創を促し探していく」タイプに分かれると思っていますが、私は前者のタイプで、“こういうことじゃない?”と一旦自分なりのゴールをどの段階でも出すようにしています。

ユーザニーズに逃げず、与件を要件へ。

デザイナーの視座が問われる時代でもあるんですね?

実は、私は社内で「提案書作成セミナー」みたいなこともやるんです。デザイナーは提案書を書かなきゃいけないと。若手向けのセミナーなんですが、ここではクライアントが表明してる課題を「与件=与えられた条件」という言い方をしていて、「与件をそのまま受け取ってはダメですよ」というのを基本として教えています。与件にそのまま応えたら、言われたことをやるだけになってしまいます。クライアントが表明している与件の潜在的な問題や課題は何か?それをいろんな軸で捉えていく。例えば企業の中長期の事業ビジョンから見た時にクライアントが表明している与件というものはどういう意味を持つか?とか、担当者は自身の業務課題から与件をどう捉えているか?とか。また単純に事業の軸ではなく社会という視座で見ることも重要です。与件を多角的に分析して「要件=実際にやるべきこと」を作っていくっていうプロセスが重要で、それがまさにデザインの本質的なところだなと思ってます。“与件をしっかりとプロジェクト要件に変える、このプロセスが一番創造的だ!”と私は言っています。

さらにコンセント代表取締役の長谷川とよく一緒に議論することとして「ユーザニーズに逃げるな」というのがあります。ある程度、人間中心でユーザがこんなニーズや価値観があるからこうなるでしょう、ということをデザイナーはよく言いがちだし、背景たらしく見えるんです。それは市場原理としてユーザニーズを叶える=生活者に必要なものを企業が届けるという点で当たり前ではあります。が、それが社会倫理上正しいのかとか、社会のフェアネスとして適切なのかとか、環境負荷の視点でそれが良いのかって視点も踏まえて要件を作る。だから短期的なユーザニーズだけでなく、中長期的な社会的要請も踏まえて要件を作っていく。ここがデザイン的だなと思いますし、今後のデザイナー像として強く求められるところだと思っています。「デザイン思考」としてもユーザの共感から問題定義、そして問題解決に至るプロセスが提示されているのですが、それを安直に捉えてしまって短期的なユーザニーズに向けてサービス・商品化して届けるということが起こっていると思います。そこでは捉えきれないような問題の広がりや長い時間軸も捉えながら仕事をしていくのがデザイナーとしては必要なことだと思っています。

自分としてもそれができるよう日々取り組んでいますが、簡単にできることでもありません。企業は当然のことながら、短期的に収益を上げなきゃいけない場面も多く、見えているニーズを叶えることで収益を得るべきケースもあります。その一方、長期的に見た場合の企業や社会への影響を加味した上で「こういうソリューションが良い」という提案をするにあたっては、ユーザー視点だけではなく、事業としての論点を全部昇華する必要があり、デザイナーとしてはすごく重い仕事になります。ですが、やっぱり必要な考えであり、態度だと思ってるんです。

そんな対話を授業でも重ねているんですね。

「デザイン」としてあるべき姿勢を貫くためにも、理念だけでなくしっかりと実務の中でそれを役立ててもらうためのお話をします。受講生にはCDO(チーフ・デザイン・オフィサー)の肩書きを持たれている方や、デザイン部門のリーダー、もしくはこれからリーダーになっていくような意欲を持たれている方がいらっしゃいます。そういった方々と対話を重ねることで、日本のデザイン業界やデザイナーとして仕事をされている方の世界がより良くなっていくといいなと思ってます。そんな課題に私のキャリアや実践している内容がフィットしている部分もあるので、自分の知見を役立てられてとても嬉しいです。個人的にもデザイン人材やデザインに関わる方が、社内外含めて気持ちよく働けるような環境を作りたいと思っています。

リーダーコースでの学びの醍醐味はどんなところですか?

私のイメージとして、狭義のデザインキャリアを持たれていて、今後管理職に就かれるような人や組織を仕切っていくような人に向けて必要なお話は全てできると思っています。そういったフェーズのリーダーにならなきゃいけない方には特に、確実に効果を感じる体験を提供できると思っています。

あと私の思いとして、学びってインプットだけでなくアウトプットとインプットを繰り返すことで身に付いていくものだということがあります。単純に講義を聞いているだけじゃなく、Xデザイン学校って対話が多くて一緒に学んでいる人同士で横の連携があることがすごく大事だと思っています。こんな課題にこういう考えはどうだろう?と私とだったり受講生同士で話したり、自分で学んだことを対話するんです。アウトプットし合える環境があることで学びはより獲得できると思うんです。単純に座学や読書でインプットだけしていても絶対に身に付かない領域だからこそ、同じ課題を持っている受講生同士の繋がりは学ぶ上で替えがたい価値だと思いますね。いろんな業界、事業会社、エージェンシーも含めて横断的に受講生の方がいて本当に偏りがないので、学びが多いと思います。自分が相対化されるんですよね。

世代や企業の壁を超えて学び合う、社会装置の必要性。

大人の学びについてどう思われますか?

リーダーコースに限らず、Xデザイン学校自体がそういった社会人の学び場ですが、学び直しやアンラーニングも含めて、この機会はすごく大事だと思うんですね。例えばコンセントでも、今は20代が50代に新しい技術を教えるって場面が普通にあるんです。世代だけでなく企業の壁も越えて学び合う社会的装置みたいなものが絶対的に必要で、そこをデザイン分野で担っているという価値観に私はすごく共感をしています。こういった存在がないと学び直しがない固定的な職業観やキャリア観になってしまうと思います。Xデザイン学校はとても意義の大きいものだなと思ってます。

最近、コンセントでは“後進育成”って言葉を使わないようにしています。社内文書を全て“他者育成”って言葉に全部置き換えたんですけど、もう前も後も上も下もないんですよ、今って。先輩・後輩のような尊敬されたり面倒を見たりという人間関係は大事なことで残すべきである一方、上から下の一方通行でなく後輩から学ぶみたいなことが当たり前にならないと40代・50代のキャリアって作れないと思うんです。そこを何の抵抗感もなく教え合えるような集団。空気を吸うように自然に教え合うってことが今の市場・社会環境の中で必要な人間集団のあり方だと思いますし、だからこそXデザイン学校も本当にいろんな世代の方がいて、そういうこともすごく楽しくやっていて良いなと思ってます。

コンセントは1971年創業で50年以上続いているので定年退職するデザイナーもいて年齢層が幅広いんです。どの年齢層でも本当に生き生きと学びながら仕事をしている風景ってすごいなと思っていて、人間の集団としてそれができている環境ってやっぱり良いなと思っています。今デザイナーを雇用し始めている企業って、その対象は20代・30代が中心だったりするのですが、その人たちを長期的に育成しきれるのか?その人たちのキャリアに企業はちゃんと責任を持てるのか?というのは課題だと考えています。そのために、例えばコンセントのスキルマップ(技術マトリクス)を公開しているんですが、その中でも長期的にデザイン人材が活躍できるか、という点は気にかけているポイントです。昔は一般的に、「デザイナー35歳定年説」みたいな話もありましたが、そういう世の中はダメだと思います。Xデザイン学校でも、例えば自社にデザイナーが3人しかいなくて良い待遇を受けていない、みたいな方がいるんです。デザイン人材の評価制度がないとか、評価が適当というような状況は健全に変えていきたいですし、そのためには現場におられる方が主体的に動ける知識と技術を身につけていただくことが必要だと思うので、そこに向けて自分ができることを今やりたいと思っています。

そして、自分の興味・関心の軸を持って学ばれている方は強いなと思っています。私も仕事する中で、研究や学びのテーマがあって、それを仕事にしていくって感覚を持っているんですね。デザイン経営というものを突き詰めたい、役立ちたいと思うから、デザイン経営の仕事をしていくという流れであって、学びが前に来てるんです。優秀な方は基本的にそういう動作でやられている方が多いなって思っています。だからこそ、学び先行というか、そういったものを軸に仕事を形成していくというキャリア・生き方があるといいなと思っていて、そんな生き方を促進できるのがXデザイン学校的な社会人の学びの場だなと思います。そんな輝きを不意に見つけられる発見もあるので大人の学びの場って本当に価値があると思っています。

私にとって、デザインとは「カタチを作って試しながら人を動かしていくこと」。

大崎さんにとってデザインとは何ですか?

私は、カタチを作って試しながら人を動かしていくことだと思っています。全員がそうしなきゃいけないとは思ってないのですが、私のビジョンや意識としてはやってることだし、コンセントメンバーにもそれは言っていることでもあります。“カタチを作る”のカタチは、造形だけでなく、言葉でもいいと思うんです。なにかしら表出化していくことで人を動かしていく、しかも、そこに何らかの意図を持たせて、ってところが重要で、抽象的ながらも非常に重要な概念だと思っています。それができないがゆえに物事が進まないという光景をよく見てきました。デザイナーがいれば本当にここはスムーズにいくんだろうなというシーンでデザイナーがいないがゆえに半年や一年ロスしているってこともたくさん見ています。私が事業開発支援する時も、何気なくスケッチで“こういうことですよね?”と画面イメージを書いてみたりするだけで、本当にすごく物事が進むんですね。私は経営も見ますが、数字を分析した上で具体的な対応を検討する際にも、絵やストーリーにして示すことで速く前に進むことが多くて、デザインはやはり自分のコアコンピタンスとして重要視しています。カタチを作ること自体は上手・下手の問題ではなくて、自分の考えをさらけ出すようなある種の勇気も含めてカタチにしてみることを実践するのが肝要だと思っています。

非常に理路整然と、そして穏やかに大人のデザインの学びについて語っていただいた大崎さん。その知的な穏やかさは、正解がないデザインという世界を愛するからこそ身に付けられた姿勢であるように感じられました。デザインのおもしろさは、やっぱり広くて深いです。