一党独裁反対は「国家政権転覆」─香港政治の中国化、決定的に

 中国の習近平政権が制定した国家安全維持法(国安法)体制下で民主派弾圧が強化されている香港で、共産党の一党独裁反対が「国家政権転覆」と見なされることが明確にされた。反中・反政府の言動を徹底的に取り締まる国安法をさらに拡大解釈した形で、香港政治体制の中国化(社会主義化)が決定的になった。

■民主派連合組織の登記抹消

 民主派政党・団体の連合組織だった香港市民愛国民主運動支援連合会(支連会)について、香港政府は10月26日、組織としての登記を取り消した。支連会は9月に国安法違反(国家政権転覆扇動)の罪で起訴され、解散を決めていたが、判決がまだ出ていないにもかかわらず、法的に消滅させる強制措置が取られた。
 国安法により香港の国家安全維持活動を監督・指導する国安公署(中国治安当局の出先機関)の報道官はこれを支持する談話を発表し、「支連会は長期にわたって国家政権転覆活動を行い、香港社会の安定を破壊した」と決めつけた。
 支連会は1989年、中国本土の民主化運動を支援するため結成された(その後、運動は天安門事件で武力弾圧)。事件の犠牲者を追悼し、本土の民主化を求める活動を行ってきたが、穏健民主派が主導する組織で、「香港独立」のような急進的活動とは無縁だった。
 しかし、香港政府ナンバー2で治安部門を統括する李家超政務官(閣僚)は翌27日、記者団に対し、支連会は一貫して「一党独裁終結」を含むいわゆる5大綱領を宣伝してきたとした上で、政府トップの林鄭月娥行政長官が(1)「一党独裁終結」の意味は中国共産党の指導終結に等しい(2)中華人民共和国憲法によれば、中国共産党が指導する社会主義制度は中華人民共和国の根本制度であり、「一党独裁終結」は憲法が定めた根本制度の転覆に等しい。その意図は国家政権を転覆し、国家の安全に危害を加えることにある─と判断したと説明した。

■政府決定で裁判所に圧力

 記者団からは「支連会の登記取り消しは、判決を待たずに結論を出したということか」「行政の決定が裁判の判決に先行したことは、司法機関に対する圧力にならないか」との質問が出たが、李政務官は「登記取り消しと起訴は別々のことだ。法廷は証拠を見て、法廷の手続きと規則に沿って案件を処理するので、他の要素の影響を受けることは絶対にあり得ない」と答えた。
 だが、実際には、香港政府が「支連会は国家政権転覆を企てていた」との結論を出し、中国政府がそれにお墨付きを与えたにもかかわらず、裁判官が異なる判決を下せば、「国家の安全に危害を加える犯罪を見逃した」ということになり、ただでは済まないだろう。
 つまり、今回の政府決定が裁判所に対する圧力となり、支連会が有罪になるのは確実だ。共産党の独裁を守るため、行政機関が反対派を弾圧して犯罪者のレッテルを張り、司法機関がそれを自動的に追認するパターンは、本土と同じであり、既に司法の独立は存在しないと言ってよい。
 国安法が取り締まりの対象としているのは(1)国家分裂(2)国家政権転覆(3)テロ(4)外国勢力との結託。一党独裁反対を直接禁じた条文はない。このため、今年5月の時点でも、「一党独裁終結」を求める主張が国安法違反かどうかについて、香港政府は「論評するのは難しい」(林鄭長官)と慎重な態度だった。
 しかし、中国政府の香港出先機関である連絡弁公室の駱恵寧主任(閣僚級)は6月12日のフォーラムで「『一党独裁を終わらせよう』とわめき、党の一国二制度事業に対する指導を否定する者は、香港の繁栄・安定にとって真の大敵である」と断言していた。駱氏は国安法に基づいて設けられた国安委員会の顧問を務めている。
 かつて民主派系メディアに所属していた地元ジャーナリストは「共産党は永遠に一党独裁。共産党にとって、党と国家は分けられない。党が倒れれば、中華人民共和国は体制が変わり、国号も改められる。したがって、一党独裁反対は国家政権転覆というわけだ」と解説した。
 親中派メディアからは「李氏の発言で、香港政府がこれまであいまいにしてきた『一党独裁終結』の意味がようやくはっきりした」と歓迎の声が上がった。

■進む政府高官の腐敗

 香港政府では、民主派に対する弾圧強化と連動するかのように、高官の腐敗が進行。5月以降、警察国安局長の風俗店通いや治安部門高官の違法宴会参加が地元メディアに報じられた。
 蔡展鵬国安局長(当時)は3月、無許可営業の風俗マッサージ店が警察の立ち入り調査を受けた際、客として店内にいたことが確認された。内外で注目されている国安法体制の中心人物が違法風俗店通いを警官に把握されたのだから驚きだ。しかも、この店は警察本部の近くにあった。
 蔡氏は内部調査を受けたが、法的には問題ないとされ、人事異動だけ。異動先は何と人事・訓練局長だった。
 一方、問題になった宴会も3月。参加したのは警察などを管轄する保安局の副局長(副大臣に相当)、入管と税関のトップ(いずれも国安委メンバー)、経営危機に陥っている中国本土の不動産開発大手・中国恒大集団の幹部ら。宴会で出たのは1人数万円といわれる高級火鍋で、恒大が治安部門の高官3人を接待したとみられる。
 このような接待を受けるのは公務員倫理に関する法律や内規に抵触するはずだが、3人は新型コロナウイルス対策の外食規制に違反したとして罰金を科せられただけで、更迭もされなかった。そもそも、なぜ不動産開発会社が治安部門の高官を接待したのか、宴席で何の話をしたのかは謎のままだ。
 林鄭長官は「宴席に招かれて、あわびが出るのを知ったからといって(豪華過ぎることを理由に)立ち去るわけにはいかない」と露骨に3人を擁護。民主派がいなくなった立法会(議会)からも厳しい処分を求める声は出なかった。
 香港の国際金融センターとしての地位は英領時代に根付いた法治が土台になっている。だが、一国二制度下の「高度な自治」が廃止され、中国流の社会主義化が進んだことで、その土台は早くも侵食され始めているようだ。(2021年11月2日)

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