香港の一国二制度「返還50年以後も続く」─習主席側近の中国高官が見通し

 中国政府高官が香港の一国二制度について、中国への返還から50年となる2047年以後も続くとの見通しを示した。一国二制度は国家安全維持法(国安法)制定で「高度な自治」を事実上否定されて形骸化したが、本土にない国際金融センターとしての機能は中国の改革・開放に欠かせないことから、制度の枠組みは長期的に維持していく方針とみられる。

■珍しく鄧小平の発言引用

 中国全国人民代表大会(全人代=国会)と国政諮問機関の人民政治協商会議(政協)が北京で同時に開かれていた3月9日、政協副主席と国務院(内閣)香港マカオ事務弁公室主任を兼ねる夏宝竜氏は梁振英政協副主席(前香港行政長官)を含む香港選出の政協委員たちと会見した。出席した政協委員が香港メディアに語ったところによると、香港に適用されている一国二制度について、夏氏は次のように語った。夏氏は習近平国家主席の側近で、その発言は習氏の考えを反映しているとみられる。
 一、国安法を制定したのは完全に香港のためだ。共産党は香港政府に代わって香港を(直接)統治するのではなく(統治に関して)指導的な意見を与える。
 一、「愛国者による香港統治」が一国二制度を正しく実行するためのカギとなる。もし一国二制度が正しく実行されれば、(返還から)50年たっても改変する必要はない。
 一、(2019年の香港民主化運動について)香港の安定に影響したが、中央は軍隊や本土の人民武装警察(武警)を投入せず、香港警察を使った。これが一国二制度のやり方だ。一方、米国は運動を支持したのに、自国内のデモは激しく鎮圧している。
 一、香港の(英国流の)コモンロー制度は決して変わらない。市民は心配したり疑念を持ったりしたりしなくてよい。
 中国共産党政権は国安法により民主派を徹底的に弾圧し、香港政治を中国化した。このため、一国二制度を今後どうするつもりなのかが注目されていたが、夏氏は意外なことに「一国二制度は50年不変。50年以後も変える必要はない」という鄧小平の1980年代の発言を引用し、制度撤廃を否定した。
 習氏は左派(保守派)の立場から鄧路線の経済発展至上主義的な面を修正しようとしてきたので、習派の有力者が鄧のこの種の発言を公の場で引用するのは非常に珍しい。

■英国流の法制度も不変

 「コモンロー不変」も近年、中国高官から聞かれなかった発言だ。夏氏は詳述しなかったようだが、香港政府の主要閣僚である鄭若※(※馬ヘンに華)司法官(法相に相当)は3月9日の公式ブログで夏氏のこの発言に触れた。
 鄭氏は、コモンローは国際金融センターとしての香港にとって重要であり、「香港資本主義の基礎の一つだ」とした上で、判例の積み重ねに依拠するコモンローは経済・社会の変化に対し柔軟に対応できると指摘した。
 さらに、「香港は世界で唯一、英語と中国語のコモンロー体系を擁する司法管轄区であり、中国唯一のコモンロー司法管轄区でもある」と述べ、香港と国家の発展に貢献するため、引き続きコモンローをうまく活用していかなければならないと強調した。
 政治的自由と経済的自由という香港の二つの特長のうち、政治的自由は国安法で否定された。しかし、先進国入りを目指す中国の改革・開放政策は人民元の国際化などで国際金融センターとしての香港の機能を必要としている。この機能は英国が残した資本主義制度を前提とするので、一国二制度の枠組みとコモンローの廃止は難しいと思われる。
 タカ派として知られる夏氏にしては、一国二制度に関する今回の発言は比較的ソフトな内容だった。国安法で民主派を完全に抑え込んだことから来る自信のほか、国内経済の落ち込みに対処するため、習政権の政策全体が左派色を薄めて経済・社会の安定に注力しているという事情も影響した可能性がある。(2022年3月28日)

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