中国、「祖国統一法」検討か─台湾併合へ蔡政権に圧力

 中国で「祖国統一法」制定を求める意見が出ている。台湾独立(台独)に反対するだけでなく、台湾併合のプロセスを促進するための新法で、台湾を含む「一つの中国」という概念を認めない蔡英文政権に対する圧力を強化する狙いがあるとみられる。

■政協幹部が呼び掛け

 中国国務院(内閣)台湾事務弁公室の報道官は3月16日の定例記者会見で、国政諮問機関の人民政治協商会議(政協)メンバーが祖国統一法の制定を呼び掛けていることについて問われ、「人民代表大会の代表(議員)や政協委員から祖国統一促進に有利な意見・建議があれば、われわれは全て真剣に聴取、検討する」と答え、前向きな姿勢を示した。
 同法制定を主張しているのは、無党派の政協常務委員(閣僚級)で中国税務学会副会長を務める会計士の張連起氏。同3日のニュースサイト環球網(共産党機関紙・人民日報系)によると、張氏は既に反国家分裂法(2005年制定)があることを念頭に置いて、以下のように語った。
 一、(最終的に)平和的か非平和的かにかかわらず、祖国統一を法律の手段で推進する条件は熟しつつある。
 一、「(国家)分裂反対」だけで「統一促進」がなければ、国家と両岸(中台)関係の平和的発展を真に促すことはできない。
 一、民進党当局(蔡政権)が米国と結託して、両岸の対立・対抗を引き起こし、独立を追求している状況下では、われわれは法治の方式と手段で祖国の完全統一実現を目指すべきだ。
 一、祖国統一法は国家統一に関する全国民の法的義務を定め、その義務を果たさなかった場合の法的責任を明確にして、あらゆる形の台独の企てを打ち砕く。
 中国側は台湾を自国の一部と見なしているので、ここで言う全国民には台湾住民も含まれると張氏は説明している。中国共産党政権の政策を本土以外にも直接強制するという点は、香港の中国化のために制定された香港特別行政区国家安全維持法(国安法)と共通する。

■「台独」定義明確化の主張も

 国家統一プロセスを法制化する案には慎重論もある。
 3月9日のニュースサイト中国台湾網(台湾事務弁公室系)によれば、全国人民代表大会(全人代=国会)代表で北京大学台湾研究院長の李義虎氏は記者団に対し、「統一法を制定する条件はまだ整っていない」とした上で、それよりまず全人代常務委員会が反国家分裂法第8条の具体的解釈を示して、どのような行為が「台独」に当たり、本土側のレッドライン(譲れない一線)を越えるのかをはっきりさせる必要があると述べた。
 第8条は①台独勢力が台湾を中国から分裂させる②台湾を中国から分裂させることに至る重大な事変が起きる③平和的統一の可能性が完全になくなる─場合には、「非平和的方式」を含む必要な措置を取って国家の主権と領土を守ると規定。台湾の独立宣言や外国の軍事介入などを想定していると思われるが、具体的状況には言及していない。
 祖国統一法にせよ、反国家分裂法第8条の解釈にせよ、台湾併合の見通しが立たない習近平政権のいら立ちを表しているように見える。中国側は最近、民進党と対立する台湾の最大野党・国民党の一部が米国に接近する動きまで名指しで批判し、台湾全体に対する態度がますます居丈高になっている。
 独裁体制が民主体制をのみ込もうとしているという意味で、中台関係はロシア・ウクライナ関係と似ている。しかも、先進的工業を擁する台湾の経済発展レベルは中進国の中国よりはるかに高い。政治的自由と経済的豊かさを享受する台湾人にとって、自由がなく経済発展レベルも低い中国の支配下に喜んで入る理由はない。
 中国側が「一つの中国」を金科玉条のように掲げ、武力と一方的な法律による威嚇に依拠する政策に固執すれば、台湾は離れていくばかりだろう。(2022年3月21日)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?