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Short Short

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ショートショートの創作始めました。まだ全然少ないけれど、ぼちぼち書き溜めたいです。
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記事一覧

スカートの百鬼夜行

 私は、人を殺しかけたことがあった、かもしれない。成功していれば、それは私が知っている中で、最もロマンチックな方法だった。  昔からそうだったが、不機嫌になるとわかりやすく表情や態度に出す夫がいつも通り無言になり、出勤の準備をしている。早く行ってくれと願いながら、テレビから流れる近所の連続不審死のニュースを聞き流す。それは死因不明の遺体が連続して数体見つかった、というもので、はじめのうちは恐ろしいニュースだと身震いし、たいそう気にしながら生活していたが、そんなことも他のこと

ボート依存症

「新居に遊びに来て」と女子校時代からの憧れの友達に言われたものだから快諾し、到着してみたら彼女の生活はほとんどボートの上で行われていた。正確には、湖の近くに小さな平家を借りていて、それでもほとんどの時間をボートの上で過ごしている、そして「私はボート依存症という病気に罹った」などと告げてきた。しんとした湖の上でゆらゆらとボートに揺られる彼女は昔からそうだったように今でもとても透明で美しく、不可解なことばかりだったがとにかくその景色は私を魅了した。  彼女は数ヶ月、または数年ご

元不眠症のツバメ

 頭上に落ちてきたツバメとなぜか魂が入れ替わった鬱病の友達のタナカ、 はじめのうちこそ落ち込んでいたが、しがらみから解放されみるみるうちに鬱が回復、食事も運動もまともにできず長年布団にくるまっていたのが今ではミミズを狩るわ狩るわ。ふっくらと羽ツヤも良い感じ。  そろそろ本格的に秋の気配がしてきて、俺はタナカの”渡り”の予感を察する。 「俺の部屋、暖房つけっぱなしにしとこうか?」とさりげなく尋ねてみたが、はっきりと断られた。人付き合いが苦手で、はっきりと意見するのが苦手だった

地獄のスキンケア

 目が覚めたら地獄にいた。 好きだった男が何やら叫んでいたところまでは覚えてる。地獄にきてしまった理由は、思い当たる節があるようなないような、ってところ。 地獄の入所受付の説明で、あたしのいる階層はまだワンチャン転生の可能性があるよ、って言われた。それに、どうやらここでの良い行い?で「死ぬ前の世界」で思い入れがあった品を取り寄せてくれるらしい。なにそれ。 買ったばっかりの、ポーラのシワ取りクリーム。高かったのに、まだ全然使ってない。なんかここ暑いし、乾燥してて、あたしドライア

ものすごく暗い色の花束

 彼女はものすごく暗い色の花束を、ほんの少しだけ知っていた彼からもらった。 特に仲良くもないのに、だ。  彼女はそれを自宅に持ち帰り、しげしげと眺めた。 人生で一度も見たことがないような花ばかりで、グロテスクな形に加えてとてもとても暗い色、例えば駅でたまに見る、鼻血か何かが滴って固まったような黒っぽい赤とか、底の見えないほど深いアマゾンの沼みたいな緑、以前小指のささくれからばい菌が入った時に見た紫っぽい肌の色、などを思い出すような。 見ていると暗い気持ちになる。どよんという