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元不眠症のツバメ

 頭上に落ちてきたツバメとなぜか魂が入れ替わった鬱病の友達のタナカ、
はじめのうちこそ落ち込んでいたが、しがらみから解放されみるみるうちに鬱が回復、食事も運動もまともにできず長年布団にくるまっていたのが今ではミミズを狩るわ狩るわ。ふっくらと羽ツヤも良い感じ。

 そろそろ本格的に秋の気配がしてきて、俺はタナカの”渡り”の予感を察する。
「俺の部屋、暖房つけっぱなしにしとこうか?」とさりげなく尋ねてみたが、はっきりと断られた。人付き合いが苦手で、はっきりと意見するのが苦手だった、あのタナカが。
「渡りには長時間起きている必要があるが、俺が何年不眠症に悩まされてきたと思っているんだ」とすごい自信だ。こいつやっぱり渡るのか。さみしさで一瞬胸がちくりとしたが、口になんて絶対に出さないからな。
「俺の人生やっと始まったぜ」と言い残し、ある秋の朝タナカは遠い遠い南の国へ飛び立った。眠れずつらかった日々が役立ちそうで、なんか良かったな。さよなら。

 それから俺は毎年夏が来ると、ツバメの巣をつい覗いてしまうようになった。

(了)

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