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沖縄県宮古島市|マンゴーのスマート農業でA級品が3倍へ品質向上

沖縄県宮古島市は、沖縄本島から南西に約300kmの場所に位置する人口約5万5千人の島です。大小6つの島(宮古島、池間島、来間島、伊良部島、下地島、大神島)で構成されており、島全体がおおむね平坦で、山岳部は少なく、大きな河川もありません。
あとはとにかく海が綺麗です。私も個人的に何度も旅行で訪れたことがあるのですが、海外にも負けないほどの透明度とキレイなサンゴ礁があります。

また、宮古島では南国の強い太陽の光を浴びて育つマンゴーも有名で、実は生産量は日本一です。年間約600トンのマンゴーが生産されています。

マンゴーの生産に関するICT活用事例をご紹介します。


マンゴー栽培の課題

マンゴーは色や形によって等級(価格)が決定します。そのため、良い色でキレイな形のマンゴーを大量に生産する必要があります。

しかし、2つの課題がありました。
・冬季の日照不足により、生育が不十分になってしまう(良い色へ育たない)
・台風が襲来すると、木にぶらさがっているマンゴーが落下し傷がつくなどして、収穫量が激減してしまう

マンゴーは、基本的にははビニールハウス内で栽培されますが、台風による暴風雨でビニールハウスそのものが崩壊してしまうこともあります。

島全体が平坦であるため、山や建物により暴風雨を軽減することができず、もろに暴風雨の威力を受けてしまうという背景もあります。

そこでIoTを使って課題解決へ取り組みました。


IoTを使った生育環境の可視化と改善

栽培農家にとって重要な要素であるマンゴーハウス内の異常高温、低温、乾燥、高湿度、日照不足、生育不足といった栽培状況を、IoT技術を活用して監視できるようにしました。

この取り組みは、沖縄セルラー電話株式会社、KDDI株式会社、株式会社スカイディスク、国立大学法人琉球大学の4者共同で行われました。


1.ビニールハウス内のセンサー
スカイディスク社の「SkyLogger」(製品名)というセンサーをビニールハウスに設置し、マンゴー生育環境に関するデータを収集できるようになりました。
SkyLoggerは、広範囲通信技術かつ低消費電力である「LoRaWAN」という技術技術を使っています。


*LoRaWANとは?

「LoRa」は「Long Range」の略称で、米国のセムテック社の開発した無線の周波数変調方式です。「Long Range」という通り、長距離での通信が可能で、自前で基地局が設置可能な方式となっています。
LoRaWANは、この「LoRa」の変調方式を採用したネットワーク規格で、「WAN」の部分は「Wide Area Network」の略称です。全て繋げると「Long Range Wide Area Network」になり、直訳で「長距離広域ネットワーク」となります。
https://www.senseway.net/technical-information/what-is-lorawan/

LoRaWANは、以前下記の記事でご紹介したLPWA(「Low Power Wide Area」の略、『低消費電力で長距離の通信』ができる無線通信技術の総称)の一種です。


2.クラウドを用いたデータ蓄積
ビニールハウス内に設置したIoTセンサーが取得したデータを、インターネットを介してクラウド上のサーバへ送りデータを蓄積します。
通信機器やクラウドサーバはKDDIが提供しました。


3.AIを基盤とした最適化
マンゴーの生育が目的ですので、クラウド上に蓄積されたデータに対して、統計処理やAIのアルゴリズムを用いて処理し、どのような環境データがその目的にかなう因子となっているかを探索します。
最終的には、分析した結果を可視化し、作業者にフィードバックしてマンゴー生育環境の最適化を行います。
ここでポイントとなるのは、マンゴー農家の方の経験則と、現場から得られたデータの両方に基づいて最適化するという点です。

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総務省HPより

4.LED補光システム
最適化して得られた結果をもとに、ビニールハウスに設置したLED補光システムを使って陽の光を調整します。
また、CO2分布測定データをもとにした、CO2の局所添加も行うシステムを用意しました。


これらの仕組みによって、データの測定から分析、改善までの一連のプロセスを構築することができました。
なお、システム構築などにかかった初年度の事業費用は約500万円でした。


マンゴーの品質向上を実現

マンゴーは、色味、形、重量、糖酸比で等級を判別していますが、IoTを活用した栽培では、均等な光を吸収しているため光合成が活性化し糖酸比も程よく、また、形状も良いため、A級品と判断される数量が増えました。

A級品ができる割合について、実証エリア外では15%であったのに対し、IoTを使った実証エリア内では54%でした。A級品が約3倍に増えたという効果が得られました。

また、平均糖度は1.5度上昇、収穫が2週間短縮、などの効果も得られました。


ポイント

データ測定から分析、改善実行(LED補光の調整など)まで一連の流れをIT化できたことがポイントです。

例えば、ビニールハウスにIoTセンサーを設置して終わり、といったように部分的な対応であればそれほどハードルは高くないかもしれません。

しかし、一連の流れを全てIT化するとなると、「それぞれのプロセス間でどうやってデータを連携するのか」といったシステム的な難しさや、「分析結果をどうやって改善業務に組み込むか」といった業務プロセス的な難しさが生じます。

それを解決するためには、関係者同士が密に連携を取りながらプロジェクトを進める必要があります。(今回は沖縄セルラー電話株式会社、KDDI株式会社、株式会社スカイディスク、国立大学法人琉球大学の4者)

関係者同士がしっかりと連携を取りながら、一連の流れをIT化して業務全体を構築できたというのが大きなポイントだと思います。


※ご参考、KDDI社のニュースリリース記事


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