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岩手県大船渡市|ネット販売でカキの単価を2.5倍へ、凍結イノベーションも創出

岩手県大船渡市は、岩手県南部の太平洋沿岸地域に位置する町です。
岩手県陸前高田市や宮城県気仙沼市とともに三陸海岸南部の代表的な町の一つで、主要な産業は水産業です。市の沖合いには、「世界三大漁場」ともいわれる北西太平洋海域(三陸漁場)となっています。

漁業のICT活用事例をご紹介します。


ネットで新鮮な魚を販売する「三陸とれたて市場」の立ち上げ

『三陸の魚は品質が良く、ロマンのある食材なのに、消費者に伝わっていない』

このような思いから、有限会社三陸とれたて市場、代表取締役の八木 健一郎さんは、2001年に地元の商店と協働して、ネットで新鮮な魚を販売する「三陸とれたて市場」を立ち上げました。

その後、漁船にライブカメラを取り付けて漁の様子を中継したり、そこで獲れたものを視聴者に競り売りしたりとICTを活用した販促活動を行ってきました。

内閣府の「地方の元気再生事業」に申請し選定されたため、事業費の支援をもらいながらICT活用に取り組まれました。

※実際の販売サイトはこちらです↓


カキの単価が2.5倍へ

取り組み前は、カキ1粒が約20円ほどの低単価で販売されていました。

「三陸とれたて市場」の立ち上げにより産地と消費者をつなげることで、生産者がどのような思いでカキを育てているのか、どれくらいの手間をかけて育てているのか、といった販促映像も訴えました。その結果、カキの粒が大きくて良いものであると訴求できて、1粒あたり買取価格が500円、小売価格は1,000円にもなりました。買取価格は2.5倍に上がっています。


東日本大震災後、漁業復興への取り組みから生まれた新しい技術

大きな成果も出ており順調な取り組みではあったのですが、2011年に東日本大震災が起きました。「三陸とれたて市場」の社屋も津波で流されてしまったそうですが、1ヶ月後には漁と出荷を再開されました。

しかし、自社だけが再建するのではなく、漁業者全体が再建しなければいけないという思いから、有限会社三陸とれたて市場、代表の八木さんは漁業の復興に取り組まれました。

震災後、インフラを再整備し、漁業の現場ではどういった設備が必要なのか・・・といった根本から見直しを行いました。その結果、漁業者と協力しながら新しい技術を開発し、安定した凍結を実現するイノベーションを起こしました。それが「CAS(Cell Alive System)凍結技術」というものです。

単純に冷やして凍らせるという事に主眼を置いてきた、旧来の急速凍結技術では、被凍結品に壊滅的組織崩壊を誘発させてしまう事が問題となっておりました。CAS凍結は、冷凍庫内に水分子を振動させる精密に設計されたエネルギー空間を作り上げる事で、凍結の過程で進行する、分離や変質と言う分子の挙動を極限まで予防することを可能にした、安定した凍結を実現する最新の凍結イノベーションです。
 ※https://www.sanrikutoretate.com/cas-3 より

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ポイント

他の事例でも何度かありましたが、今回もやはり様々なステークホルダー(関係者)を巻き込んで進めることができた、という点が大きなポイントです。

今回の場合は特に先進的な技術を開発し販売していく、というプロセスでしたので、関係者も多岐にわたります。

・三陸漁業生産組合(ここが中心)
・作業の補助や協働運営、地域雇用の創出(三陸とれたて市場)
・学術的な支援や指導(大学)
・先進事例の導入(漁協、民間の食品会社)
・商品指導や品質指導(ホテル)

記事の最後にご紹介する八木さんの言葉にもあるのですが、"点"で捉えるとどうしても限界がやってくるので、"面"で捉えることが重要です。そのためには関係者が多岐に渡るため、関係性を上手く作っていける人材が必要ですし、お互いがWin-Winになれる仕組みが必要となります。

ICT導入事例というと、システムを作ることの難しさにフォーカスされがちですが、周りの関係者を巻き込んで推進していく、という地道な作業が非常に重要になってきます。

【有限会社三陸とれたて市場 代表 八木さん】
農業でも漁業でも、地方には豊富な資源がありますが、そのほとんどが利用されずに捨てられています。まず、日本の1次産業のポテンシャルを、点ではなく面で考えて、有効利用のグランドデザインを大局的に描ける能力を持った人材が必要です。また、そこで描いた青写真を地域に落とし込んでいくためには、これまでの産業構造を再点検して、定義し直していく必要があります。組織に伴走しながら、そこを一緒に乗り越えていく手助けができるファシリテーターのような人材が求められていると思います。
 ※https://www.chihousousei-hiroba.jp/case/sanriku.html より


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