見出し画像

普通について On kinds of the Normal

「普通」という日常語を使ったり使われたりするとき、その意味はさまざまである。たいていは前後の脈絡でそれなりに理解できるものだろうが、私のような言語理解のスコアが低めで社会的なシグナルにも鈍感な者にはわかりにくいときもある。そういうときは頭のなかで相手が述べた「普通」について別の言葉に変換して解釈するようにしている。

「普通は……」=私は……と指示する

まず、「普通」という言葉を主観的かつ権威的に使う用法である。この場合、「普通」の意味について考えてはいけない。なぜならば、これは特に「普通」の同義語とは関係なく、単に目上の発話者が自分自身の意図した行動をあなたに取るように間接的に促している場合に使われるからであり、辞書的な意味で「普通」かどうかはここでは論点ではないからである。課題はあなたと発話者との上下関係にあるので、もしそこで「普通」という言葉の意味を詮索(せんさく)すればトラブルになりかねないだろう。この場合の「普通」と同じように使われ得る言葉として、例えば「素直に考えれば」「自然にやれば」などが挙げられる。

「普通は……」=原則としては……

原則のような規範 norm を「普通」という言葉で表現する人もいる。理由はいろいろあり得るが、とにかくこの場合「普通」として語られる規範やルールを優先的に適用すべきだということであって、そこから逸脱するにはそれなりに対抗可能な理由が必要になる。言い換えれば、対抗可能な理由があれば「例外」も許容されるということである。主観的かつ恣意的に目上である自分の意図に問答無用で沿え!という「普通」よりはやや客観的であると言えるだろう。

「普通は……」=ここでの相場は……

何かの値踏みや評価について教えてもらうときに、「普通」という語でたまたまそのタイミングでの、あるいはその地域での「相場」が提示されることがある。注意点としては、「普通」と言われたからといってこの場合には普遍性や固定性を含まないということである。なぜならば、相場とは、一定の範囲において成立するものであり、かつ常に変動するものだからだ。このような使われ方をされた場合、相場が何によって決まるかまで分析しなければならない。例えば、就職面接 job interview であなたが採用されるかどうかについて、あなたが「普通」以上であることは、応募者の範囲における相場上で優位に立てたことを意味するだけだ。なぜならば、あなたが就労先に対する応募者の中で相対的に有利であるだけで、あなたは仕事を得ることができる可能性があるからである。言い換えれば、その優位によって採用を獲得できたとしても、それはあなたより評価された全員が内定を得ても別の職場を選び、あなたよりたまたま面接でうまくやれなかった人はあなたより低い評価を受けたということに過ぎないからである。したがって、就職面接で採用されたにせよ、不採用になったにせよ、あなたが普通であるか無いかを証明したことにはならない。知的に考えれば、たとえ不採用でもがっかりする必要はない。いい相場に巡り合わなかっただけ、つまりミスマッチだっただけだ。ここでの「普通」は運の要素に大きく左右され、特定の担当者や歴代の担当者の主観によるものよりは客観的だと言ってもいいだろう。

「普通は……」=多くの場合は……

この場合の「普通」というのは数えることのでできる客観的な頻度を表している。あるいは主観的には「ありふれた場合には」「平凡なときには」といった、特に驚いたり報告したりするほどではないということを説明するときに使われている。統計的に多く起こる事態に対してあなたは優先的に学習し適応すべきだろう。普通でない場合の対応は後回しでよい。なぜならば、滅多に起こらないからだ。また、トラブルが起こっても、前提となった状況が普通でなかったことを報告できれば、あなたの対応が未熟だったことの言い訳、すなわち正当化にも使える。したがって、これは有益かつ客観的な情報である。

「普通は……」=平均的には……

この場合、普通という言葉は客観的な平均点あるいは算術平均を意味する。平均点とはすべてのスコアを足し合わせてデータの個数で割り算した数値である。

ひとこぶ山の正規分布

注意点としては、正規分布 standard distribution のようなベルカーブ(ひとこぶの山)を描いているのか、それとも実は二極化・多極化していて複数の山ができているのか、平均点という代表値だけでは判断がつきにくい点だ。例えばあなたが教師で生徒の成績が二極化しているなら、平均点という真ん中に合わせてレクチャーをおこなうと、ハイスコア組には飽きられ、ロースコア組からは難し過ぎてついて来てもらえないという事態に陥るだろう。よく言われることだが、平均概念が出てきたときには、中央値や分布にも目を通しておくことが危険を回避する手助けとなる。

同調圧力

日本は他の諸外国に比べて、いわゆる同調圧力が強いようだが、そこで「普通」に対して同調するように求められたように感じても、そこで言われる「普通」とは一体上記のどれに当てはまるのか吟味することは無益ではない。なぜならば、ひょっとしたらそれは相手のワガママに過ぎないかもしれないし、あるいはあなたが有利に立ち回るために有益な情報かもしれないからである。いずれにしても普通でないことに不安を感じる必要がない、という境地に近づけるであろう。

(2,236字、2024.03.15)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?