従業員の過失による小売商品の買取価格

例えば、コンビニのような小売店で従業員が商品を誤って傷つけるなどして、売り物にならなくなったとして買い取らせるということがある。私はその現場も見たことがあるし、実際小売店の従業員は大量の商品を頻繁に取り扱うのだから、そういうことは確率的に十分あり得ることだ。

ただ、私が(そしておそらく私だけ?が)気になるのは買取価格である。従業員が買い取る価格が小売価格すなわち売価である場合が多いと思うのだが、これは公正な価格とは言えない。なぜならば従業員はそもそも一定の確率で商品を傷つけ得るのだから、その分は自然な損耗として割り引かれるべきだからである。

例えば工場などで大量の加工途中の品物(仕掛品)を加工する場合、必ず一定の割合で加工に失敗して廃棄物が発生するが、だからといって廃棄物を従業員が買い取ることはない。同様に、通常の営業活動の中で確率的に起こる商品毀損については、売価から少額にはなるだろうが一定の割引をして当該従業員に買い取らせるのがより適切である。これを経営者側からみると、過失による商品ロスは常に一定の確率で起こるのだからそれに対して引当金を計上しておくべきだということになる。

もっとも、上記の話はコンビニなどを念頭においた場合であって、まずコンビニ程度なら商品単価が安いから売価での買取でも大して金額が変わらない可能性がある。さらにこちらが経営側なら、確実に売却できたはずの商品を減らしたのだから、代替品を用意できない限り売価そのもので買い取ってもらわなければ割に合わないという主張も成し得るであろう。さらに、コンビニ以外の業態、例えば喫茶店などを念頭に置くと、そこではドリンクをこぼしても従業員がコーヒー代金を売価全額弁償することは無いと推測している。なぜならば、ドリンクは単価が安いため常に売れ残りが出るように用意されていて、当日の営業が終了すればすべて廃棄されるからである。言い換えれば、管理会計上、ドリンクをこぼしても損はゼロであるというケースがあり得るからだ。

このように業態や商品ロスを起こした状況によって誰がどのぐらい損をして、それに対してどれぐらいの弁償が適切なのかには検討が必要である。少なくとも、職場であらかじめの相場や規定があるとしたら、それによって相対的に割を食うのは誰なのか、どんな場合なのかを従業員は考えなければならないだろう。なぜならば、あまりにも従業員が不利な決まりになっているなら、当然、実質的な賃金は額面より割り引かれなければならず、結果として交渉や転職が視野に入ってくるからだ。

義務教育に入れよとまでは思わないが、こうした損得の基本的な考え方をオトナになる前に仕入れておいて損は無いだろう。

(1,119字、2023.11.12)


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