ラジオ体操

 今年は例年に比べて音楽を聞かなかった。Apple Musicが毎年、律儀に集計をしてくれるが昨年の4分の1くらいになっていた。聞いた曲単位でランキングも出してくれたが、1位から6位は諸事情で聞かざるを得なかった6曲がそのままランクインした。もちろん、ちょこちょこ音楽自体は聴いていたし、新譜も開拓していたが、体感でも量は減ったなと実感していた。答えは明快で、音楽を聴いていた時間がそっくりそのままラジオに置き換わったのだ。
 学生時代から不定期で芸人のラジオを中心に聴いていたが、社会人になってから聴く頻度は増し、習慣にまで昇華した。今では週に数本、欠かさずに聴く番組があるのみでなく、移動時間や空き時間にも聴いている。ちなみに、今もラジオを聴きながら記事を書いている。こうして振り返ってみると、大半の時間をラジオを聴いて過ごした一年であった。音声媒体ということでながら聴きができてしまうので、同時並行で何かしらしていることが主ではあるが、生活の大半の時間をラジオとともに過ごしたのだから、言わんや音楽を聴いていた時間が減るなど当然の帰結だ。

 明確にラジオをラジオとして聴くようになったのは中学の頃に聞いた『桑田佳祐のやさしい夜遊び』が最初だが、幼少期からラジオに触れる環境ではあった。親がラジオを生活空間で流していることが多く、土日の午前中はラジオをながら聴きしていた。一日中かかりっぱなしで、土曜の夕方にはヒットチャートを紹介する番組がランキング上位の曲を流していたのをぼんやりと覚えている。ただ、あくまで受動的な摂取で、部屋にコンポを置いてもらっていたにもかかわらず、自分からラジオを聴きにいくことはほとんどなかった。自室の電波状況が劣悪だったことあり、コンポはCD再生マシンと化していた。
 それ以外のラジオにまつわる思い出が、標題にもしたラジオ体操だ。小学校の夏休み期間、近所の公園で朝6時半から『ラジオ体操の歌』からスタートし、ラジオ体操第一・第二をやる。ときどき「みんなの体操」もやった。子供と高齢者が集い、みんなでラジオの声に合わせて体操する。夏休み中、ほぼ毎日通いスタンプカードにハンコを押してもらった。しかし、当時のメインは体操などではなく、終了後に朝食の時間まで友人たちと遊ぶことにあった。遊びのために起き、遊びのために体操する。子供の朝は早い…

 中学以降はラジオ体操の機会はめっきり減り、いつしか全くやらなくなった。せいぜい、夏に近所の公園の張り紙をみて童心に帰るくらいだ。『ラジオ体操の歌』はCMなどで聴くこともあり、時折り、ふと当時を思い出す。そんな具合にラジオ体操は「懐かしいもの」になっていった(奇妙礼太郎の歌う『ラジオ体操の歌』がかなり良い)。その「懐かしい」ラジオ体操に触れる機会が今年はなぜか2度もあった。
 1度目は友人宅に泊まった日のこと。かなり早い時間から起床していたのだが、友人がラジオをつけると、まさにラジオ体操の時間だった。せっかくなのでやってみようと思いラジオの声に合わせて体を動かすと、当時は気づけなかった事実に直面した。私は音声だけでは独力で体操をすることができなかったのだ。思い返せば、当時はみんなの前に立ったお年寄りや周りの友人がいたので、できていたようだ。振り付け?が全く頭に入っていなかったのである。自分ではできると思っていても、何となくでやってみると思ったよりできないことがよくあるが、これもそうだった。まぁ、冷静に考えると一人でラジオ体操する機会など、そうそうないのでこれからも誰かのふりをみて生きていこう。
 2度目はほんの2週間前ほど。諸事情で5泊ほど入院する機会があった。入院 4日目から、運動不足解消のためか入所者全員で昼食前にラジオ体操を行った。ここでも当時は思いもしない気づきがあった。日頃の不摂生もたたっているのだろうが、ちゃんとやるとキツいのだ。幼少期は日々、体を動かしているし、筋肉もしなやかなので体操が効かないのかもしれないが、これといった運動をしない不健康アラサーの老体には敵面であった。しっかりと老いている。悲しい…運動の必要性を切実に感じた瞬間であった(ちなみに今回は令和のラジオ体操という動画で実施したのだが、振り付けは通常のものと同じで曲だけ今風だった。)。

 コロナ禍では、公園での子供向けのラジオ体操の期間がかなり縮小されているようだ。勝手ながらに少し寂しくなってしまうが、調べてみると昭和初期から続く歴史の厚い体操であるようなので、きっとこれしきでは絶えずに、残り続けるのではないだろうか。未来を生きる誰かにとっても「懐かしいもの」になることを祈念して。

https://music.apple.com/jp/album/%E3%83%A9%E3%82%B8%E3%82%AA%E4%BD%93%E6%93%8D/1250338216?i=1250338229

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