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節電中のスタジオは「ポーズ」か。

JX通信社/WiseVine 藤井です。

AI速報ニュースアプリ「NewsDigest」、AIビッグデータリスクセンサ「FASTALERT」を運営するJX通信社は報道機関としての社会的責任を果たすために、3月1日に社業の拡大とBCP強化を果たすべく、複数系統からの電力供給と72時間の自家発電装置が備えられたワテラスタワーに移転しています。そんな当社も、電力逼迫とどう向き合い、どう伝えるかを暗中模索しながらの一日が、やっと終わったところです。帰り道に見た、看板を消したコンビニは、2011年に放送局で働いていた私にとっては、まさに3.11を思い出すものですが、20代の若い(そして圧倒的に私より優秀な)エンジニアやスタッフも多い弊社では、その記憶もおぼろげなメンバーも多く、大規模停電とはどのような事態なのか、ということについて、肌感覚がとても持ちにくそうな印象もありました。

NewsDigestでは速報性を生かして、どこよりも早く最新情報を届けることに特化して今日も走りきりましたが、「ヤシマ作戦」で有名になったNERV防災アプリではあの時を彷彿とさせるエヴァ風味の啓蒙、WeatherNewsさんでは専門性を生かした独自の需給予測、果ては虚構新聞では「サイト全体の明るさを落として」お伝えしたりと、いろんな伝え方が、ネットニュースでも見られました。

一方、テレビ各局では、夕方から「スタジオの照明を落とす」方向に、自然にまとまっていったようです。これを「ポーズでしかない」(確かにテレビに使われる電力の殆どは「見る側の消費電力」、放送局側に帰属する分としても「送信所の電力」がほとんどなので、本当に節電するならオイルショックのときのNHKのように、停波するしかありません)とか、同調圧力、とか揶揄する気持ちもわからなくはないのですが、私としては、「メディアの特性を生かした、精一杯の伝え方」の一つなのではないかと思います。

テレビには、「いつもと同じ日常」を届ける機能があります。決まった時間に、決まった番組を、安定して届けることで、「きょうも世界はとりあえず、いつもどおりに回っている」と、視聴者は知覚しています。放送事故、あるいは不体裁を起こしてはならないのは、スポンサーへの契約不履行や、視聴者への迷惑、あるいは「まさにその瞬間に何か災害があったときに社会的責任を果たせない」といった部分だけでなく、見ている人々に、なにか予測し得ない事態が起きているのではないか、という不安を与えないため、という側面もあります。実際、先日FM802とFM COCOLOが長時間に渡って放送不能に陥った際には、DJが度々、「これは何らかの事故があったわけではない」と、ウクライナ情勢を念頭に、サイバーテロなどではないことを度々強調し、不安を与えたことを謝罪していました。(放送事故なのは間違いないので、彼の言葉選びには若干の間違いがあったのですが、言いたかったことは「事件性はない」ということだと思われます)

その逆で、テレビが普段と違うぞ、ということを、画面全体から伝えることは、緊迫感を伝え、人々の意識を変化させるきっかけを作ります。3.11以降、テレビ各局が積極的に地震報道の際にヘルメットをかぶるようになったのは、単にアナウンサーの安全確保だけではない目的があります。NHKでは、アナウンサーが絶対に普段使わない「強い口調で避難を訴える」訓練を定期的に行うようになりました。同じように、画面全体が「暗いぞ」というのは、人々の気持ちを動かす力があったのだろうと思います。実際にどの程度貢献度があったかはわかりませんが、きょう、節電効果は一気に夕方から進捗を見せ、停電は回避されました。

ニュースアプリには、映像だけでない、プッシュ通知や、音や、振動や、様々な伝達手段があります。さらに、ユニバーサルデザインであることも同時に求められます。
どうしても、スマートフォンという媒体らしい表現を探しがちですが、例えば新聞も、あえて真っ白な広告を打ったり、

自社制作不能に陥りながらも協力社の助けを経て紙面制作を継続し、100年の歴史で初めて題字の位置を変えて「異常事態」を伝えようとした河北新報のように、

その媒体の纏っているアフォーダンスを生かした、様々な表現が生まれました。
スマートフォンも、「ふつうのもの」になったことで、きっと、「これは異常事態だ」と伝わる表現が、発明されうるはず。そう思うのです。

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藤井大輔(JX通信社/WiseVine)
自分の仕事(地方自治、防災、AI)について知ってほしい思いで書いているので全部無料にしているのですが、まれに投げ銭してくださる方がいて、支払い下限に達しないのが悲しいので、よかったらコーヒー代おごってください。