見出し画像

映画「アリ地獄天国」観てきた

 ドキュメンタリー映画「アリ地獄天国」、東京でも公開スタートということで、10月25日(日)に観に行ってきました。

 この映画は、引っ越し会社に勤める主人公・西村さん(仮名)が受けたパワハラの労働争議を描いたノンフィクション。2015年〜2018年の3年間の記録が収められています。
 24日と25日は、土屋トカチ監督によるアフタートークも行われるとのことだったので、25日に行きました。(テーマとしても関心がありましたし、土屋監督とは2年前に私の恩師を通じてお会いしたきりだったので、今回少しお話もできたら、と思っていました)
 映画、どうなっていくのか展開が読めず、実話ということもありハラハラしながら観入ってしまいました。

 このタイトルにもなっている「アリ地獄」というのは、この引っ越し会社のサービス名と、「長時間労働を強いられ、そこで事故や破損を起こせばさらに損害賠償を求められ、どんどん借金漬けになっていく」という状況から付けられたもの。
 不当な賠償金を課せられたことに異議を唱え、1人でも入れる労働組合に加入したことをきっかけに、理不尽な異動・減給、恫喝、誹謗中傷ビラなどの嫌がらせを受け始めた西村さん。

 特に印象的だったのは、賞与についてのくだり。
「4万円、というときもあれば……」という西村さんの発言のあとに続いたセリフ。
 私は「賞与が4万か。ないよりはマシだけど少ないな。多いときは20万円、とかかな?」と思っていたら、まさかの続いたセリフは「20円、というときもあります」だったので衝撃的でした。
「賞与があるだけいいとも言えるけど、20円というのはどういう経緯で決まったのか意味不明だし、これはボーナスなしより屈辱的かも」と感じました。

 私だったら、こんな会社はやがて見切りをつけて辞めてしまうと思います。この西村さんは営業成績トップだったそうなので、そんな優秀な人なら転職先にも困らないはず。それでも辞めずに戦い、改善を訴える姿勢には感銘を受けました。戦い続けられたのは奥さんの支えがあったからというのもあるのかしら。

 この映画で特に痛快だったのは、ヤクザのように恫喝する引っ越し会社の上層部に対し、「こちらの話を聞きなさい」と凛とした声を張り上げるユニオンの女性委員長。画面越しに観ていても、かなり緊張感がありました。

 また、この西村さんの戦いはやがて業界全体に知られていったようで、他社の引っ越しセンターの営業さんからも「この人はヒーローなんですよ」とお客様の前で言ってもらえることがある、というのも素敵なエピソードでした。

 そして終盤、西村さんの発表には驚きました。えっ、と思ったけど、そうきたか……!


 この映画、上司が恫喝する声や、座り込みなどをする労働組合の人々など、大きく怒りを訴える人の姿も多々映りますが、西村さん自身の雰囲気はとても柔和で人当たりが良さそうな方。そのあたり、映画として良いバランスが取れていたので、「ひたすら辛いだけの映画」のような印象にはならなかったのかなとも思います。

 24日と25日は、上映のあとに監督のアフタートークもありました。
 この映画が撮影された背景には、土屋さんの友人がパワハラに悩み、3人の娘さんを残して自ら命を経ってしまった……という出来事があったそう。
「アリ地獄天国」の終盤にも、そのご友人のお家も出てきます。
 お線香が添えられた仏壇や、お子さんたちの「ぱぱだいすき」と描かれた似顔絵などを見ると、胸に来るものがありますね……。

 ご友人さんは「職場が地獄だから、うちが天国に思える」ということもおっしゃっていたそうです。
なるほど、この「アリ地獄天国」というタイトルの「天国」にはそういう意味があったのか……(アリ地獄が「蔓延している」という意味での「天国」、でもあるそうです。あとはもしかしたら、「天国」にいるであろうご友人に向けてのメッセージでもあるのかな)。

 この「アリ地獄天国」は、東京だと渋谷の「ユーロスペース」で上映されています。11月1日にはオンライン上映やジャーナリストの安田菜津紀さんとのトークイベントもあるとのこと。
 また、田端の「シネマ・チュプキ・タバタ」でもバリアフリー上映があり、横浜、京都、神戸でも順次公開予定だそうです。
 多くの人に観てもらいたいな、と素直に思えた作品です。ぜひ観に行ってみてください。


 余談ですが、この映画を観ている最中、中学時代に読んだこちらの漫画を思い出しました。

 この漫画は、教師からセクハラを受けた女子高生が戦っていく物語。少し古い作品ですが、悲しいかな、現在にも通じる問題は多々含んでいる漫画でおすすめです。

より素敵なものをお届けできるよう頑張ります。よかったらブログにも遊びにきてね。http://www.wuzuki.com/