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【しまねヒト・モノ・コト体験ツアー(西部)】五感で味わうその場所を〜新たなルーツを見つめて〜

自然に囲まれた町の景観、外灯の無い夜の空に映える星空、海岸線に見える綺麗な青い海。そういうモノって大袈裟に聞こえるかもしれないけど、本当にあるんだなと体感した旅でした。
深呼吸をして胸いっぱいに吸う新鮮な空気とか、その土地で捕れた新鮮な野菜や食材を使って食べるご飯とか、夜の静かな音とか、感覚を研ぎ澄ませてちゃんと自分の体に染み込ませる。そんな体験はあるようで中々無いなと思います。

星空を見て感動したのはいつぶりだろうか、そもそも空なんてこんなにしっかりと見上げたのはいつぶりだっけ?クーラーが無くても冷たい外の風だけで眠れたり、近所で採れたから食べてと言われた野菜を食べる。
私の嗅覚や聴覚、味覚、視覚はまだまだ発揮されていない部分がこんなにもあるのかと気付かされることばかり。手触り、言語化出来ない気持ちの高ぶりなど、なるべく多く感覚で吸収して持ち帰った経験をまとめていきます。

【西部】しまねヒト・モノ・コト体験ツアー

島根県にルーツを持つ大学生達で島根県西部を2泊3日で巡る今回のツアー。「しまねヒト・モノ・コト体験ツアー」と題し、西部の様々なヒト・モノ・コトに触れていくプログラムでした。
私は島根県東部の出身のため、あまり西部には行ったことがありませんでした。しかし、実際にその場所に暮らす人と話したり、文化に触れたりすることでよりイメージが明確になり、まだまだ自分の知らない島根が溢れている!と感じました。

「そうか、私にとって『知らない』ことは魅力であり、興味を惹かれるものになるんだ」と気づいた3日間でした。

1日目:大田市

初日は大田市駅に集合し、道の駅ごいせ仁摩や大森町、山の駅さんべを訪れました。
大田市では大穴子が有名らしく、実際にさばく体験もありました。この後食べた穴子丼が大ボリュームで身もふっくらしててめちゃくちゃ美味しかったのでオススメ。

ボリューム満点な大穴子
ごいせ仁摩にて

次に訪れたのは石見銀山で有名な大田市大森町。周囲は山に囲まれていて、小川も流れており、日本の原風景が残存しているという印象です。
この町は石見銀山が世界遺産に登録された当時、観光客が押しかけた歴史を持つことから、住民憲章が掲げられました(以下、住民憲章より)。

このまちには暮らしがあります。私たちの暮らしがあるからこそ世界に誇れる良いまちなのです。
私たちは、このまちで暮らしながら人との絆と石見銀山を未来に引継ぎます。
(中略)
未来に向かって私たちは
一、おだやかさと賑わいを両立させます。

(大森町住民憲章より 一部抜粋)

実際に訪れて、住民の方や企業の方のお話を聞いたり町を歩いたりすると、町の人がこの町を自分たちの手で守ろうとしている意識や暮らしを創り上げようとしている断片が見てとれました。それは、景観を壊さないまちづくりであったり、落ち着いた静かな時間が流れていたり、すれ違った人に挨拶をしたりすることから感じます。
見た目や機能として景観を壊さないという事例は他府県にもありますが、住民の暮らしを保つという中身まで考え行動に移すというのは類を見ないのではないでしょうか。

景観を壊さないように道路に埋め込まれた案内地図
ゆったりとした時間が流れている大森町

自分たちの誇れる穏やかな暮らしを保つからこそ、賑わいが存在できる。この順番を履き違えてはいけないのだと実感しました。

この場所にかつて観光客が溢れたことは想像しにくいと感じるくらいの変遷を辿って来たんだなと思いました。

その後三瓶へ移動し、住民の方と交流会を行い、夕食を頂きました。三瓶の在来種を使用した十割蕎麦や大森町のごはん屋さんの食事など、これもまた絶品だった…。贅沢過ぎる食事を頂き、地域の方と交流し三瓶で起こっている事例などをお聞きしました。

このときに出会って私が印象的だったのは、生まれから働くまでずっと大田で過ごされていた方の言葉です。
20代前半で私と年齢も近く、色々なお話をしました。その中で、外に出るという気持ちはありましたかとお聞きすると、「外に出たいという気持ちもあるけど、大田市にずっと居たからこそ見えることもある。」と言われました。
私は県外の大学に進学したけれど、ずっと島根にいたからこそ見える変化や観点があるということに驚きました。それは自分にはない視点だったからです。働きながらも地元に関わったり、地元を見つめるということが印象に残っています。

夜はさんべ荘で温泉につかった後、大森町の宿に戻りました。
大森町に戻った際に見れた星空があまりにも綺麗で衝撃を受けましたが、これは訪れた人にしか伝わらない感動かもしれないと思います。私の東部にある地元でも星が見えやすいですが、この町は多分星空との距離感がさらに近いので、星が明るく白色に見えます。本当にオススメ。

街灯などが無く星が見えやすい

2日目:江津市・益田市

2日目、最初に訪れたのは江津市を拠点にして建築や家具、布モノをデザインされているSUKIMONOさん。島根県内の店舗や住宅の設計、改修を手掛けられています。

ここでは代表の平下さんがどのようにして島根にUターンすることになったのか、島根県江津市という地域から手掛けたいものは何か、といったお話をお伺いしました。
特に興味深かったのは、ローカルを突き詰めていくとグローバルに繋がるというお話。せっかく島根県に帰ってきたのだから、そこにしかないものを、都心の人々が欲しいと思うようなものをその土地固有のモノを活かして作るということ。ここで、私はこの考え方に衝撃を受けます。これまで地域資源を最大限に活かせるような人になりたいと考えていた私は、平下さんの理論的で、でも想いのこもった丁寧なモノづくりに感動を覚えました。
そして、それが出来るようになるためには、自分のルーツを知り相手に伝えられるようになることが大切だと言われました。
世界で行動して来た経験がある平下さんの言葉は、重みが感じられ、本当の意味で物事を考えるとはこういうことに近いのかも知れないと思いました。

デザインや建築を通して、理論だけで終わらないまちづくりに繋げる。実質的にコトを動かすからこそ、面白いモノができ、ヒトが自然と集まってくるようになるのだと体感しました。
私自身、経験をこれから増やして、質量を持った言葉を言えるようになりたいと感じ、そのためにはまずは自分自身のルーツを知りたいなと感じました。

次にSUKIMONOが実際にリノベーションを手掛けた有福のKASANEという宿泊施設を見学しました。

『てしごとの、そばで。』というコンセプトで設計された空間は一貫した雰囲気と、丁寧なモノで作られていました。

細かいところにこだわりがある部屋
藍色を基調とした空間デザイン
手仕事を感じることが出来る工夫

ここにも自分たちの暮らしが感じられるパーツが散りばめられており、一度は泊まりたい…と感じさせる空間でした。

個人的には、前にインターン先で宿泊部屋をDIYしたこともあり、抜き取られていた欄間や壁の塗料、組子で装飾された障子が見ていて面白く、空間デザイン設計に惹かれました。和室を二部屋繋げておられるのも面白かった。

細かい点に工夫が散りばめられている

KASANEでは細かいところにコンセプトに沿ったこだわりが散りばめられていたので、ぜひスタッフの方に説明を聞くと一層面白いと思います!

昼食は有福のレストラン、有福BIANCOさんへ。パスタとパンに舌鼓した後は、有福を散策しました。有福温泉街が変わろうとしている部分や、昔から残るお店の方とお話してみて、まちづくりって何だろうなという考えを深めることが出来ました。

再びバスで移動し、益田市にある(一社)豊かな暮らしラボラトリーさんで他大学生とワークショップを行いました。

他の大学生と「地域と地方の違いって何だと思う?」を議論したり、ユタラボにインターンしている大学生の話を聞いたりしました。
他の大学生と話す中で、”あ、自分と隣の人は生きてきた場所や経験したことが違うんだ。”と頭の中で抽象的に思っていたことがずっしりと体に入ってくる感覚を覚えました。生まれた場所が違えば、環境も、言語も、文化も囲まれてきた人も違う。そんな大学生同士で地域について話すと、見ている視点の異なり、語る言葉も異なる。当たり前だけど、この感覚をしっかりと体感したのは初めてのように思い、絶対に今後も覚えておくようにしようと思います。

その後移動し、地元の小学校で社会教育コーディネーターの方のお話を伺いました。実際に益田市で取り組まれている事例は何となく聞いたことがありましたが、より鮮明に見えてきた気がします。
その場所で想いを持って行動されていたり、こういうことが魅力で面白いと感じている、ということを語れる人が多かったりするほど、良い町だなと惹かれる最初のきっかけになり得ると思います。

そのように学ぶと、自分の地元はどうだっけ、と比較する中で良さや改善点が見えてきて、この比較検討の過程はすごく面白いと感じました。それは、これまで東部を中心に考えてきた自分の考えを一旦広い点で見つめ、新たに「自分とは何か、私にとって地元とはどんな場所であるか」という考えを構築させてくれる経験となりました。

2日目の宿泊場所は海が目の前にあり一望できるデルマーレ・キアーミ。こちらの宿、眠るときや起床時に波の音が聞こえてくるんです…。そりゃめちゃめちゃよく眠れて目覚めも最高になるはずだ…。
キッチンカウンターもある2階建てで、シェアハウスみたいで最高でした。

西部に広がる海は絶景
窓から見える朝の海岸線

参加者の他の大学生と取り留めも無い話をしたり、学んだことを共有し合ったり、そういう時間も大学生活が始まってほとんどオンラインばかりだったから、相手の表情を見ながら実際に話せることが嬉しかったな。

3日目:浜田市

最終日は島根県立大学のキャンパスで講師の方のお話を聞いた後、自分の3日間の学びを発表しました。

自分にとって島根とはどんな存在か、これからどんなアクションを行っていきたいかをまとめていきます。この3日間、頭で常に考えていたため処理しきれていない情報で溢れていましたが、やはり私が一番感じたのは、「自分のルーツを体現できる私になりたい」ということでした。
SUKIMONOさんで感じた視座の転換、大森町や有福を散策して変化するまちの部分と残っていく文化を見たこと、講師の方のお話を聞いて面白い場は自分で小さなアクションを起こして創造できるということ。

私の歩んできた過去や生まれた場所は変わらないけれど、それに誇りを持ち、自分自身の言葉で語ること。それは誰にも出来ないオリジナルであり、自分が今後やっていきたいことでもあると分かりました。そして、これから私はローカルの分野をもう少し突き詰めていきたい…。自分が何に興味やスキを示すのか段々とツアーの中で見えてきたので、地域経済や資源の活用、場づくり、空間デザインといったことを知っていきたいと思いました。

他の大学生の意見も聞くと、みんなそれぞれの視点でツアーを見ていて、この視点の違いもすごい参考になるなーと思いながら、3日間はあっという間に幕を閉じました。

ツアーで感じた沢山のコト

3日間、とにかく感覚でモノ・ヒト・コトを吸収したと感じています。今はそれを言語化したりまとめたりすることは無理にしなくてもいいかなと思っていて、それらはいずれ分かってくるかなという感じです。

3年間、ずっとオンラインで聞いていたり平面的であった情報が、体感することで立体的なモノとして体験できる。すると、自分が知っていた範囲の島根はほんの一部だということが分かったし、まだまだ出会っていないモノ・コト・ヒトに溢れているのだと感じました。

私の中で立体になった島根を、どう見ていったらさらに面白がることが出来るのか。モノ・コトをさらに多面的に見れるようになりたいです。

特に体感した、視座の変化と相手の考える島根・地域は異なるものであるということは、これからの自分に大きな影響を与えてくれたかなと思います。
一番伝えたいのは、自分自身の地域の関り方は、人それぞれでいいのだということです。今回のツアーを通して、一つの物事を見るだけでも自分と隣の人では違った意見を持つし、異なる感想を持つことを強く感じました。その考え方には正解が無く、不正解もないと思います。

私は、それは、例えば人によって食べ物の好き嫌いが分かれるのと同じようなことに感じます。一つの食べ物に対して、好きや苦手、まあまあ好き、大好きがある。私は苦手な食べ物を目の前にしたとき、「これを美味しいと思わないなんて、人生の半分損してるね!」と知人に言われたことがありますが、別に人生の半分も損はしないでしょと思います(笑)
この食べ物は少し苦手、だけど少し食べてみようかな、逆に大好きだから無限に食べられる!というイメージの話。
地域で様々なヒト・モノ・コトに触れて、これはすごく好き、惹かれるという気持ちの揺れ動きが分かり始めて、自分の輪郭が見えてきたという感じです。

だから、関わり方も私なりでいいんだなと感じました。
私はこれからの自分と地域の関わり方を模索していて、だけど答えが見つからなくてモヤモヤするといった状態で今回のツアーに参加していました。
でも、実際にこれ面白いよ!とか、こんな見え方もあるよ、という様々な意見を聞き、自分の中へ落とし込んでいくことで、もう少しその輪郭が見えてきた気がしています。

関わり方は人それぞれで大丈夫であるということ。柔軟にこれからじっくりと考えていけばいいということ。時間軸は自分の中にあり、周囲を頼りながら歩んでいけばいいということ。
漠然とした不安やキャリアに焦っていた自分は、もう一度地に足をつけて行動していきたいなと思いました。

その先で何を選ぶかは私次第であり、それを楽しんでいきたいと思います。

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