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パスワーク 17 星

夢日記 0630「17星」第一夜

たべるゆめ

わたしはなにかを食べているようです。
おく歯でギシギシすりつぶしています。もう口のなかに味が感ぜられなくなるまでギシギシクシャクシャ咀嚼しています。
おいしい? すくなくともまずいものではないようです。噛むほどに旨みが滲み出て、わたしのからだの滋養になるようです。
そういえば、これまでもなにかを噛み砕いている夢はよくみていた気がします。いまはじめて思い出しているのだけれど。夢のなかではあまりに普通のことだったのです。

おなかがすいていたわけではありません。おそらく消化しきれていない現実世界のことがらを寝ているあいだに咀嚼しているのだと思われます。


殺人者

いまぼくたちは官憲と殺人者の両方から追われています。
僕の相棒はフィリピン人の女の子。いつからか定かではありませんが一緒に逃げています。

殺人者は歌舞伎役者のように顔を白く塗って、日本刀を持っている。
僕たちは一度は逃げ切ることができたが、いまは逆に警察の手によってある家に軟禁されている。
女の子は後ろ手に手錠をかけられベッドの足に繋がれている。
彼女はなんとか縛から逃れようと、体を入れ替えながらベッドの周りをぐるぐる回っている。

僕は冷凍睡眠から目覚めたばかりだ。新しい情報を求めて図書館に向かう。図書館は市役所の最上階にある。
図書館の入り口で役人から入場を拒否される。伝染病の所為だ。
僕は事情を説明して、特別に図書館の中に入れてもらう。議員たちがソファで寝そべっている。
僕は特許情報を調べている。あらかた調べ終わったところでコピーを取るために図書館をでる。

再び家の中。玄関で物音がする。
ふたたび殺人者がやってきた。土足で家の中に入ってくる。僕たちに逃げ場はない。

「ちょっと手伝ってくれ」
女の子の縛を解くために、僕は殺人者に助力をたのむ。

「こりゃあ、難儀だな。たいへんだったろう。」

殺人者は刀を持ったまま女の子が繋がれたベッドに向かう。そして彼女に手を貸そうとする。

僕は隙をみて殺人者の背中を手にしたナイフでブスリと刺す。


夢日記 0701「17星」第二夜

男と男が戦い、殺し合い、愛し合う。
最初から最後まで、夢見の最初から目覚めるまで、ずっと戦いが続く。果てしない戦い。

ひとつの名前が掲示されている。

「どうま」、ドゥマ、デュマ

どうまどうま、どうま2、どうま文学、というふうに使うらしい。ホモ型接合。

最初、星の名前かと思ったがそれらしい星は見つからない。
人名を調べたら「アレクサンドル・デュマ」がでてきた。三銃士、モンテクリスト伯などの作者である。あるいはレバノン共和国にドウマという地名がある。鬼滅の刃にはドウマという鬼がいる。

なんだろう?


夢日記 0702「17星」第三夜

昨日から引き続き夢の中の戦闘シーンが繰り返される。

午睡のなかでも戦いは継続しており、味方と相手側の双方の死体が眼下に累累と横たわっている。
しだいに戦っている自分の身体が構造化されてくるのが意識される。
全身が鎧で武装され、身体をコントロールする頭部が分離されていく感覚があった。

今日の夢でも戦闘は続いていたが、最初から戦う個体と意志を翻訳する個体に分離されていて、むしろこちらの翻訳するシステム、機械装置、個体をどうやって戦闘する個体に接続するかがテーマになっていたように思う。
戦うロボットと意志を持ったAIを融合させようとしているような。

戦闘は一段落していて、私は帰還することになっている。
しかし台風のため帰りの飛行機が飛ぶかどうかわからない。
わたしには女性の連れがいて、彼女と話している。

「とりあえずは空港まで行ってみよう。飛行機が飛ぶかどうかわからないが。」

空港には出発待ちの客が溢れている。
風もなく晴天が広がっているのだが飛行機はまだ離陸していない。
その空港は海に張り出す形になっている。
わたしはボートを漕ぎ出して、ゲート付近の様子を見に行った。

わたしと同じように様子見の乗客がボートで海を渡っている。
あきらめてゲートから帰ってくる人たちの姿も見えた。

海面がうねっていて生き物のようだ。あたりに不穏な気配が漂っている。
わたしは危険を感じてボートをUターンさせて引き返す。

すると前方に50M級の大波が首をもたげて、いまにも空港の建物を飲み込もうとしているのが見えた。
真っ青なブルーグリーンの壁が立ち上がっている。陽の光を反射して宝石のように輝いている。
陸側から押し寄せてきた大波は建物を飲み込み、やがてチューブを作っていく。
遥か上方の白い波頭がいまにも崩れ落ちそうだ。

「あぶない、建物の中に入れ!」とわたしは叫ぶが周りには聞こえない。

わたしの乗ったボートはサーフィンチューブのなかに巻き込まれた。
さすがに今回は死んだな、と思ったところで目が覚めた。
ーーーー
まる二日続いた戦闘の末に津波に巻き込まれて私は死にましたが、目覚めるとかつてないほど、手足の先までエネルギーがチャージされたような感覚で気持ちよかったです。


夢日記 0703「17星」第四夜

ひとりの人間とのコミュニケーションは複数の時間軸を必要とする。ということをしきりに教えてくれているようでした。

目の前にいるひとりの人間はつねに複数形の存在で、ひとりに見えて、じつはそこに何人もいる。
二人称の「あなた」ではなくて、本来は「あなたたち」というべきものだ。

目の前にいるひとりの人間はいまその場所にいるようで、過去と未来の時間の層のなかに並行に存在する。
その時間のとらえ方を図示して解説してくれていました。
めざめたら忘れてしまいましたが、図そのものは昨日の接続形式の説明と同じでした。

儀式を行うときに掛け軸を貸し出すレンタルサービスがあって、無人の車が移動して掛け軸を届けてくれます。
掛け軸は一週間借りることができますが、たいていは使い終わったらすぐ車に戻すほうが便利なようです。
私が借りたのはわりと幅広の大きいサイズの軸でしたが、軸の中身そのものの記憶はありません。
何のために使ったのかも覚えていません。すぐに返したほうが手間がかからないよ、とガイドが教えてくれました。

軸の中に図が描かれていたかもな、と後になって思い出しました。


夢日記 0707「17星」第五夜

あいかわらず、戦闘の夢が続いている。
かならず相対した二つのグループがあるが、かならずしもそれは敵味方とは限らない。
2種類のパターンがあるということだ。

今日みた戦闘の夢はもはや人間態でもない。
一方はフレームを持つ機械のような生き物でディフェンスが強い。
もう一方は球形の星のような生き物でオフェンスが中心だ。
二つは常に拮抗しており、優劣はないけれど、二つともやたらに強力だ。

場面が変わって、僕は家族と一緒に晴れた夏の海にいる。
まだ赤ん坊の妹が隣にいる。ぼくもまた妹と変わらないくらい幼い。
僕は妹を海に放り投げる。
僕もすぐその後海に飛び込む。
僕も妹もまだ肉の塊のようなもので手足がうまく動かせないのだが、海に浸かるとスイスイと気持ちよさそうに泳ぎ出す。妹は僕の隣でとても気持ちよさそうに泳いでいる。海水が僕たちの体を押し出すようにスーっと前に進む。隣の妹はまるでポニョのようだ。
海の浅いところに半透明の魚や環形動物がみえる。水鳥までが小型化して半透明だ。

二人で岸に向かって気持ちよく泳いでいくと、海の中に深い大きな穴をみつけた。
穴の中には家電ゴミや自転車や機械など、産業廃棄物が打ち捨てられ堆積している。
妹と僕はその大きな暗い穴の淵に体を乗り出して、暗い穴の中を覗き込んでいる。
妹は興味津々で穴の中に入りたそうにしているが、僕は妹を引き止める。危ないよ、と。

僕は妹のガイドのような存在らしい。
いつのまにか二人とも海水と同化して半透明になっている。


夢日記 0708「17星」第六夜

目の前のカップに三つのボールが入っている。
その三つを使って演算をする。
私はその中の一つを取り出し、数字の5を意識して回していく。
全体がうまく収まるかが鍵になっている。

私はライフル銃あるいは火縄銃みたいなもの、を持った男たちに囲まれている。
私は仲間たちの静止を振り切って、前に出てゆく。
そして私は身体中に無数の弾丸を浴びて死ぬ。


夢日記 0709「17星」第七夜

部屋の中に比較的若い男女が数人づついる。
私は一人ひとり吟味しながら、それらの人間たちをつくっている、
ときに作り直したり、入れ替えたりしながら人数を増やしていく。
かと言って際限なく作り続けるわけでもなく、後半はほとんど個々の人間の修正をこつこつ行なっている。


夢日記 0710「17星」第八夜

4つのキューブと角が丸まった2つのキューブがある。
4つのキューブは事前に決定されており、2つのキューブは自分で探して持ってくる。
これら6つのキューブをもって生まれ変わることになるわけだ。
次々と人生が誕生していく。
なかには絶望して自分の口に猟銃をくわえ、あたまを吹き飛ばす人もいる。

2枚のカードがある。トランプのようだ。
カードの組み合わせで人が生まれてくる。
次々とカードがめくられる。気に入ったところで次の人生に移る。

もう一つ、あったような気がしたが思い出せない。
同じように人がつくられていく方法。

そして巨大な冷蔵庫がひとつ。


夢日記 0711「17星」第九夜

帰るべき星をたずねる

双子の兄弟がいる。30代の前半くらい。
ひとりは凶悪な犯罪者で、なにもかもを破壊し尽くそうとしている。
もうひとりはとても真面目な青年。無口でおとなしい。
二人とも事件に巻き込まれて、騒動の渦中にいる。

私はといえばこの二人のどちらかであったり、または俯瞰的な存在であったり、その場その場で入れ替わる。
夢でよくあるように、一人称であったり三人称であったりする。主観と客観が同時に存在する。

真面目な青年であった時の私は何者かに囚われている。
私を捕縛した輩が大事にしていたスカルを私は叩き割った。
彼らは怒り心頭で、私を殺そうとしている。

場面が変わって、
双子の姉妹がいる。同じく30代の前半くらい。
ひとりは妖艶で攻撃的。もうひとりは地味で目立たない。ふたりともグラマラスで同じ顔をしている。
やはり二人ともなんらかの騒動の渦中にいる。

最後の場面は葬式のようであった。
ひとりは黒いワンピースをきている。化粧気のない顔が美しい。
もう一人はシースルーの白いブラウスに黒いスカート。大きなサングラスをしている。
二人並んでこれから焼香をしようとしているところだ。

いつのまにか双子の兄弟が双子の姉妹に入れ替わったようです。

ーーー
帰るべき星をたずねて、この夢だったら、まずふたご座を想起しますよね。
ふたご座の恒星はカストルとポルックス。
カストルは三重連星で、しかもそれぞれが二重連星なので六重連星ということになる。
先の夢と符合しているようにも思える。


夢日記 0712「17星」第十夜

昨日と打って変わって、とても日常的な夢でした。
あまりにも日常的な、四角い夢だったので備忘録として記録しておこうと思いました。
四角い夢というのは箱の中を仕切って、きれいに整理整頓できるような夢だったということです。
そのこと自体がとても印象深く、目覚めてからも感触が残っているようです。

まず私は女性でした、おそらく20代後半の若い女性。
なにか悩みを抱えているらしい女性でした。焦りが感じられました。
その女性はある男性の家にころがりこみます。歳の離れた初老の男性です。
彼女はその男性を愛するようになります。彼も彼女を愛していますが、彼には彼女に隠していた別の意図があります。
その初老の男性には息子がいます。その女性よりもさらに若い男性で、それなりに問題を抱えています。
社会不適合者であると自分で認識している若者です。
父親は彼とその女性を妻わせたいと考えています

ある時彼は彼女にそのことを告げます。彼女は彼に裏切られたかのような感情を持ちます。
息子の方も父親のその行動に怒りを感じます。
しかし、若い彼女もその父親の息子もだんだんと気持ちが懐柔されてきます。
そして最終的には収まるところに収まります。

まるでブリキの弁当箱の中、縦横に仕切られた狭い空間の中にきれいさっぱり整理されてしまいます。


夢日記 0713「17星」第十一夜

私を含めて男女数名で構成された集団がある。
かれらはあるミッションをおびて時間移動をしている。
その時代の特定の人物に成り代わりながら、追跡していくというものである。

その人物に成り変わらないと状況が判断できないようである。
だから時間を超えながら次々と人の中に入っていく。

時間移動に際してはチームの全員が揃わないと移動ができない。
全員がそれぞれの個体の中に入って、状況を確認し終わったところで全員で時間を飛び越える。

何のために追跡しているのかは定かでない。それでも、ある特定の人物を探しているようでもある。あるいは、ある人物の中に入っている誰かを、何かを探しているのかもしれない。そしてそれを抹殺しようとしている。

おもしろいのは私たちチームの全員がGANTZのようなピチッとした黒いボディースーツを着ていることだ


夢日記 0717「17星」第十二夜

午睡の時に見た夢です。

私はノモンハンにいる。軍服を身につけ、軍靴を履き、銃剣を肩から下げている。私は旧陸軍の兵卒である。
ここは満州とモンゴルの国境だからどこまでも荒野のはずだが、目の前には大きな海原が広がっている。
私は作戦のためこれから一人で隊を離れようとしている。内陸に行くはずが海に出ようとしている。

同僚と思しき兵隊姿の男たち五、六十人が港の対岸から手を振っている。
私を見送っているようである。私は彼らに応えて手を上げる。

手を振る男たちのひとりに目がいった。
髭面のその男の右手の親指の腹のところにバッテンがはっきり見えた。マジックペンで書いたような「X」のかたち。
かなり離れた距離であったはずだが、そのバッテンだけがはっきり見えた。


夢日記 0718「17星」第十三夜

私が戦地に向かった後の記憶は完全に失われてしまっている。
どうやって戦地から帰ってきたのかはわからないが、いま私は家に帰ってきた。
そこには10歳になる娘が生活していた。

私は10年の間、空白の時間をどこかで過ごしてきたわけだ。
戦地に旅立つ時、港の突端で手を振る男の右手の親指の腹にはっきりと刻印された「X」の意味がわかったような気がした。記憶はそこで途切れている。艀から大きな船のへりに足をかけたところで突然霧がかかったように意識が消失した。
私はこの10年の時間をなにかと交換したのである。私の戦地における時間と、この家で今進行している平和な日常の時間が等価であったかどうかはわからない。一方の時間は完全に封印され、中身が消去されているようでもあるし、あるいは最初から存在しなかったのかもしれない。

ここはすでに国境地帯から遠く離れた、ロシアのどこか田舎の村の一軒家のようである。部屋の造作からするとけっして豊かに見えないが、戦禍の痕跡もみあたらない。部屋のところどころに、手作りとみえる赤や青や黄色の差し色が入った織物や刺繍が掛かっている。ずっと昔からこの家のなかでは日常が存在し、この先も永遠に続く日常が保障されているようである。
台所で娘が忙しそうに立ち働いている。夕食前の時間なのだろう。薬缶から湯気が勢いよく噴き出している。

この娘はひとりでどうやってこの10年を過ごしてきたのだろう。
私は長靴を脱ぎ、ボロボロになった鞄を床に置いて黙って食卓に着く。娘はごく自然に私の前にコーヒーカップを置いてまた台所に戻って行った。
娘はことさら私に話しかけることもなく、私も娘になにかを尋ねることもなく、ひとつひとつが予定された出来事のように場面が移り変わってゆく。

世界が淡々と二分割されて新しい時間が生み出されていくようだ。
どこからかミントの香りが漂ってくる。

ーーー
昼間の午睡のときの夢の続きですね。1と5と10を交換しながら進んでいった気がします。1が10に置き換わったようでしたから、2X5だったかな。
天国的と言えるくらいにとてもおだやかな場所でしたが、私の中には確固とした空白があり、その空白のなかから時間そのものを観察しているようでした。


夢日記 0719「17星」第十四夜

大地の底の底から伝わってくる地鳴りが全身を貫通してゆく。
尾骶骨から入った振動は背骨を駆け上って、頭頂から噴出する。
窓の外は真っ白い光が明滅し、滝のような雨が屋根を激しく打ちつける。
ここちいい。全身にエネルギーがチャージされていくようだ。

外はあっという間に水かさが増して堤防の上部がわずかに顔をだしている。
定規で勢いよく引いた直線のように、ただ一本の線が河と平地を隔てている。

雨が上がる。無音の世界。

水はまったく動く気配がない。どこまでも平らな面が四方に広がっている。
わたしは堤防の直線の上に立って前に進む。すでに足首まで水が上がってきている。
鏡のような水面の直下には激しい流れがあり、何度も足をすくわれそうになる。

前方から女の人が歩いてくる。今にも流されそうだ。
直線の反対側から一歩一歩こちらに近づいてくる。
私は目の前に差し出された彼女の両手をとってしゃがみこむ。
世界にとり残された、行き場のない二人は水没した堤防の直線上で今まさに消失しようとしている。

すると、ある瞬間から水かさが急速に下がっていった。
まるで大地に穿たれた巨大な排水口に吸い込まれるように水が引いてゆく。
人家や樹々や河原の葦がしだいに露わになってくる。
私はとても残念だった。もう少しだったのに。
私は彼女の手をとって泥水の中に降り立った。

私はリヤカーを引いて、まだ水に浸かった商店街に行った。
行きつけの大衆食堂に明かりが見えた。暖簾をくぐるとそこには顔見知りが数人いて、テレビの天気予報を見ている。
私はそのテーブルにわりこんで知人たちと話し込んでいる。
となりの知人に聞くと、これから遠出して麻雀にいくのだそうだ。
「俺も行こうかな」どんな人が来るのか彼に尋ねると、たちのあまりよくない金持ちだということだ。彼もあまり勧める様子はない。

わたしはテーブルのうえの皿に盛り付けられたおにぎりを食べた。
店員のおばちゃんが皿を下げにくる。まだおにぎりが残っている。他の人はいっこうに食べる気配がない。
私は二つ三つとおにぎりをつまみ上げ、一生懸命におにぎりを食べた。


夢日記 0720「17星」第十五夜

葬式のじゅんび

数日らい、わたしたちは忙しく父さんの葬式の準備をしてゐます。
わたしたちというのは父さんと、その弟のおじさんと、長男であるわたしです。
なんどもなんども寄合があって車で何処かに出かけて行きます。
葬儀屋とお寺さんと無常の人たちとで、父さんが死んでからの段取りやら、見積もりやらを話し合ってゐるようです。痩せて小さくなった父さんもその場にゐます。
お金のはなしがなかなか折り合わないようです。

見なれた白い車が庭先に入ってきました。おじさんが車から出てきます。
「ようやく折り合いがつきました」わたしは言いました。
おじさんもほっとしたようです。葬儀代はあわせて49万円です。
高いのか安いのか、折り合いがついたのか、だれかがあきらめたのか、はたして本当のところはわかりません。
ただそう決まったと言うことです。

葬式の日。ご近所の人たちが参列してゐます。お堂の下は履き物でいっぱいです。
「ここの長男さんは遠くの方から帰ってきて、オトコマエらしいから顔を見にきたで」ご近所のおばさんが、も一人のおばさんと話しているのが聞こえます。

光明寺のご院家さんとわたしが並んで歩いてゐます。
「戒名は必要ないとおもうんだが」わたしはご院家さんに話してゐます。
ご院家さんはこまった顔をしながら戒名の歴史について語ってゐます。
わたしは面倒臭くなって、下駄を脱いでそのまま御堂に上がります。
お堂の下あたりは一面履き物でびっしりと埋まっており、わたしの下駄の置き場がありません。
もうすぐ葬式が始まります。


ワクチンと体温計

最後に残ったワクチンをみなで囲んで思案してゐます。みな不安を隠せません。
このワクチンはある人のために特別に取り置きされたものです。
他のみなはすでにこれを接種して体温計で熱を計っています。
その人が最後のワクチンを使うのかどうかわかりません。その人しだいです。

ようやくその人が見つかりました。
残った分の半分だけワクチンを使う事にしたようです。
体温計で熱を計ったら、36度5分。
他の人がどうなったか、だれも気にする様子がありません。みなその人のことを気にしてゐます。


広場でうたをうたう

商店街のひろばにたくさん人が集まってゐます。
わたしは女ともだちを案内してゐます。
女ともだちはつばの広い黒い麦わら帽子をかぶって、黒いワンピースを着てゐます。化粧が濃くて、汗に混じって白粉の匂いがします。
女ともだちはマイクを持って歌い始めました。何の歌だったか、外国の民謡のようでした。とても気持ちよさそうに歌いました。
広場にいた大衆は女ともだちに拍手を送りました。
次にわたしにも歌えと言われるのではないかと心配して、わたしは嫌だなと思いました。わたしは足早に広場を離れて行きました。


モスグリーンのゆめ、孔雀石

緑色と白色の絵の具を混ぜて合わせて、それを水で薄くのばしたようなモスグリーンの霧が広がってゐます。
海の端の東の空からお日さまがのぼる数刻まえ、いつもなら灰色の空が広がり始めるころ、今朝あたりはモスグリーンのひかりが充満してゐます。
庭にある孔雀石が光り出したようです。

屋根の上をコツコツコツと烏が歩く音が聞こえます。
窓から微かにミントの香りが流れ込んできます。
草刈りが終わった庭に小鳥たちが下りてきて、雨上がりの土のなかから這出た虫をついばんでゐます。
つい一週間まえ刃物で切られた草のその先端がもう10センチものびてゐる。そして草の間に露出した孔雀石が結晶を解きながら緑色の光線を朝霧にゆっくり反射させております。


夢日記 0721「17星」第十六夜

赤い魔女

その女がほんとうに魔女であったのかなかったのか、わかりません。
薔薇色にもえるような、くるくる巻いたながい髪の毛と雪の結晶のように透明なつめたい白い顔。真っ赤な一文字の唇。つきさすような黄金の両の眼。
わたしはその魔女にソフィーと名付けました。ローズでもよかったのですが、なぜだか最初に浮かんだソフィーという響きがじつにしっくりくるような女だったからです。もちろん彼女はいかにもガイジンの風貌をしておりました。

ソフィーはカードのなかに棲んでゐました。かと言って閉じ込められているわけではないようでした。うちそとを自由に行き来することができるけれど、ソフィーはたいがいカードのなかにゐるようでした。もしかしたら移動の手段かもしれません。
ソフィーが魔女だとおもったのはその移動の魔法を使うからでした。

ソフィーは他のカードのなかにゐる住人と入れ替わることができました。次々に入れ替わりそれは連続したソフィーの列をつくってゆきます。
カードはふたつのブロックに分かれておりました。大きい集合とそれの三分の一くらいの大きさの集合が隣り合っておりました。ソフィーはその両方のブロックのなかで増殖してゆきました。

入れ替わるまえのカードの住人たちは有無をいわせず追い出されてしまいますが、とくだんに気の毒な様子もなく、ソフィーはまったく意に介しませんでした。
わたしはいいんだけど、こうしたほうがいいのよ。とソフィーはふてぶてしく語ります。みんなのためだと言っているようにも聞こえます。

大きなブロックのなかでソフィーが増えると一定の比率で小さいほうのも増えるようでした。そして双方がただ増えるだけでなく、連続したソフィーの位置もなにがしかの意味を持つようでした。まるで碁盤の目の上のしろくろの石の配置が刻々とかわるようでした。ときにソフィーのカードが数を減らしてもとの住人が戻ってくることもありました。

ああ、これはなにかの周期だな。とわたしは気づきました。
どこかの天体の軌道の周期にも思えました。中心から遠く離れたソフィーのカードが長楕円軌道の星の一つに見えたからです。これまで夢のなかにでてきた数字の列や組み合わせは天体の周期だとかんがえると、なるほど腑に落ちます。

気がついたらソフィーはカードのそとに出てきており、商品の買い付けをおこなってゐました。クリップボードとペンを持ってそれぞれの商品の買い付け額を記入してゐました。なかでもわたくしどもの生産する商品の買い付け額が赤い文字でハイライトされており、それがことのほか大きい数字で、これは森山さんもよろこぶだろうなと、わたしはうれしく思いました。
なにより赤い魔女のソフィーがわたくしどもの製品を気に入ってくれてゐることがわかって、とてもうれしくなりました。

クリップで留められたその注文用紙をのぞきこむと、やはり二つのブロックに分かれてゐて、双方のブロックに買い付け額が赤い数字で記載されておりました。


すき焼きと肉屋

わたしはボーイフレンドと一緒に彼の部屋に帰ってきました。朝帰りだとおもわれますが、朝まで何処でなにをしていたかわかりません。二人とも疲れてソファーに足を伸ばして休んでいました。そして二人ともとてもおなかをすかせてゐました。

彼の部屋にはなにも食べるものを置いていないので、そとに買い出しに出るしかありません。でも二人とも疲れて眠くって、これから外に出かけていくのもおっくうで、二人ともソファーから動こうとしません。

わたしはふと、すき焼きが食べたいなと思いました。

すき焼きが食べたくない?と彼に聞くと食べたいと言います。それでも彼がすこしも動こうとしないので、そしてわたしはそのときいよいよすき焼きが食べたくなってゐたので、買い物に行ってくると彼に言って、そとに出かけました。
出かける前にお金をちょうだいと言いかけましたが、なぜだか思い直して自分の財布をもって出ました。

まず牛肉を買わなければと思い、肉屋に入りました。その店は肉のデパートのようなところで牛や豚や鶏や羊や馬など、ありとあらゆる種類の肉が店頭に並べられておりました。それぞれの肉の前で白衣を着て白い帽子に白いマスクすがたの店員さんが肉を切ったり、お客さんを相手にしたり、忙しそうに働いておりました。

肉の種類があまりにも多いので、すき焼き用の肉を見つけることができません。
わたしは若い店員さんにすき焼き用の肉はどこですか?と尋ねました。
そこの後ろの棚のところですが。。となんとなく歯切れ悪そうに女の店員さんが言いました。

うしろを振り返るとたしかにすき焼き用100gXX円と書かれた札が見えましたが、どれも売り切れのようでトレーには一片の肉も残っていませんでした。
申し訳ございません、今日はもう売り切れです。店員さんが言いました。
こんなに朝早くに売り切れなんて、とわたしは釈然としませんでした。
朝何時に来たらお肉が買えるんですか?とわたしは店員さんに聞いたのだけど、店員さんはそれには答えずに他の肉をすすめようとします。

わたしはしばらく肉のうんちくをだまってきいていましたが、今朝はすき焼きが食べたいのだから、よそのスーパーに行ってみようと考えてゐました。どうせ白菜や椎茸やしらたきやお豆腐や他のいろんなものを買わなければならないのだから。

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