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夢日記2021 パスワーク ザ・ベスト

今年4月から夢日記をつけ始めました。パスワークの0愚者から12吊られた男までの13話。それぞれのパスで平均10夜くらいあるのですが、これはそれぞれのパスのなかで印象に残った夢です。

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 夢日記 00愚者 0515 ヒロくん

 おそらく北関東のどこかの田舎町。田んぼと畑と低い山に囲まれたのどかな田園風景。 私は先輩のカメラマンと一緒に取材旅行をしている。カメラマンの助手なのか、ライターとして参加しているのか、私の役割は定かではないがどちらにせよ大した仕事ではないはずだ。

 街を案内してくれる人がいるらしく、カメラマンは電話でやり取りをしている。
「メアリーXXXXカフェ」を知っていますか?
電話口の女の人はそう尋ねたが、私たちは知らない。その街では誰でも知っているお店のようだ。あとで知ることになるが、その店は大通りの交差点にあり、深い真紅の看板に剥げかかった金文字で「メアリーXXXX」と描いてある。かなり古くからある店のようだ。

 その案内をしてくれる女性の家に立ち寄った。そこで不思議な少年に会う。少年といっても子供ではなくて、少年と青年の中間ぐらいの印象だ。名前があったのだが、はっきり覚ていない。「ヒロ」あるいは「ヨシロー」だったか。とりあえずヒロくんとしよう。彼を紹介されそのあと行動を共にする。

 皆の紹介によるとヒロくんは「二度目のセカンドインパクト(これも意味が不明なのだが)のときに死んで、そのとき世界は消滅したのだそうだ。今この世界(まち)は世界が消滅した後の世界」なのだそうである。皆んなはヒロくんを守ろうとしたのだが、ヒロくんは自ら仕掛けて対抗勢力とともに対消滅したようなことを話していた。私たちはそうなんだー、と納得した。

 部屋の中には案内してくれている女性の家族とおぼしき人たちがいる。ヒロくんと同年代らしき黒いセータの女の子もいて、ヒロくんとは仲が良さそうだ。しばらく雑談していると、ヒロくんが突然暴れ始めた。なにかとても不満があるようだが、言っていることがよくわからない。他のみんなはヒロくんのそんな状態がめずらしいことではないような、そんな印象だ。

 ひとまず落ち着いて、家を出て繁華街に出かけるのだが、歩きながら私は先輩カメラマンに尋ねた「ヒロくんはどこか病気なんですか?」
 先輩「そうじゃない。ヒロくんにはとても好きな人が遠くにいて、(女優らしい)どう接していいかわからずこの世界でいま練習しているのだ」という。
 そうなんだー、と私はふたたび納得する。

 アーケイド街を歩きながら、知り合いを見かける。いい店があるからと紹介される。
 その店はパブのようなところで丸テーブルのひとつに先輩カメラマンと私とヒロくんで座る。まわりの客たちもヒロくんのことをよく知っているようだ。
 そのうち誰かがカラオケの曲をいれる。ヒロくんがそわそわしだした。その曲はヒロくんがかつてヒットさせた曲だったようだ。まわりの客もはやし立てる。ヒロくんはいたたまれなくなって席を立とうとする。そのときにカウンターの奥の厨房からその店の主人とおぼしき人が出てきて、マイクをとった。

 そのマスターは天井に頭がとどきそうなくらい大きい。はっきり言って巨人だ。体の割に頭は小さくて金髪と銀髪の中間くらいの色の髪を後ろで縛っている。サングラスをして、耳にピアス。皮のベストとパンツ姿。いかにもロッカーらしい。私はそのとき「おお、大天使だ」と思った。

 マスターで、ロッカーで、大天使の彼が歌い始めた。曲は日本の古い時代のフォークソングのような単純な優しいメロディーだったが、大天使はブルージーに歌っている。とても憂いのあるいい声だ。皆聞き入っている。すぐにマスターは奥に引っ込むのだが、歌はそのまま聞こえている。ヒロくんもおとなしく自分の曲を聴いている。

 ふたたび案内人の家に戻る。あっというまに時間は過ぎて、そろそろ帰らなければと時計を見たら午後五時。もう終電がないそうだ。
 家の人は泊まっていけというけれど、私は翌日仕事があるので「困ったなー、どうやって帰ろうか」と心配している。そういえばここに来るときは車で来たはずなのに車がない。車がある場所まで八時間かかるそうだ。

 しかたなく家に留まっていると案内人の旦那さんが帰ってくる。旦那さんの留守中にあがりこんで長居をしているので私たちも恐縮して、玄関口に行って旦那さんに挨拶する。なぜか旦那さんのほうが恐縮して私たちに気を使ってふたたび外に出ようとする。持って帰って来た日本酒を置いて出て行く。

 この家にはいろんな人が出入りしている。その人たちとソファで雑談しているうちにいつの間にか私は眠ってしまったようだ。ふと目覚めて案内人の女性と眼が合う。女性はなんとなくバツがわるそうだ。となりには黒いセーターの娘さんがいる。しばらく娘さんと話し込んで、私は「帰らなきゃ」と思い立って支度をする。「新幹線ならあるよ」と誰かが教えてくれる。「次の信号を左に曲がったところに駅があるから」

 そしてようやくカメラマンと二人、帰路についた。


夢日記 0611「01魔術師」第十夜

 三組の変動する六桁の数字。それからある固定された三桁の数字と文字のセットが縦横に並んで構成されたクロスワードパズルのような魔法陣のような四角形。それが小説なのだそうだ。三種類のうち正解は一つで僕はそれを読み解かなければならない。

 友人たちと集まっているところに外国人の婦人が現れる。僕の奥さんなのか、恋人なのか。親しげに肩を抱いて寄り添っている。黒いコートをきて、金髪、長身、ボンドガールのようだ。
 「あなたの車、紫色のあれよね」と駐車している年代物の英国車風のクーペを指す。
 いやそんなはずはない、僕の車は真っ黒だったはず。と思いながらよくみると深い紫色だった。
 クーペの後部座席には藤色(薄紫)の鮮やかなワンピースを着た白人女性が無言で座っている。彼女のお母さんらしいがやけに若い。僕自身もどうやら英国人らしい。長身、黒いコートに白いマフラー、黒いハット。ジェームズボンド風。してみると車は古いアストンマーチンか?

 その奥さんらしき女性と若い義理の母と三人でどこかに向かって歩いている。
 路傍にとぐろを巻いた黒い大蛇の絵が描かれている。絵と見えた蛇は立体化し動き始めた。全長10Mを超えるほどの白い巨大なアナコンダ。路傍からズルズルと路上に這い出てきた。しばらくすると大蛇は白い泡となって消滅した。

 僕たちはたぶんデパートに向かっていたのだと思う。二人と別れて僕はデパートの旧知の従業員に誘われてジャズ喫茶に行く。はじめてくる店。近くにこんな古い店があったのか、と驚いている。店の中には数組の客がいて、デイブ・ブルーベックのテイク5がかかっている。



夢日記 0622「02女教皇」第七夜 死者のリング

 小劇場のような場所で作品をつくっている。リリーフランキーと若い作家も一緒だ。若い作家を二人で手伝っているのかもしれない。
 コロナのためにたびたび延期になりながら、作品の費用も規模もどんどん膨らんでいく。
 これが完成したら海外旅行に行こうよ、とリリーさんに誘われる。
 「いいね行きたいね、XXでもどこでも。病気にかかったとしても、お互いもうそんなに長くないしね、楽しみだね」と僕は応えている。

 今日もずいぶん帰りが遅くなった。飲みに行こうか、とリリーさんに誘われる。リリーさんともうひとりの女性は先に出て、バーで待ち合わせる。僕は少し遅れて劇場を出る。若い作家はまだ残って徹夜で仕事をしている。いまは電球を買いに行ってるらしい。と、オーナーが僕に告げる。
 出がけに劇場の女性オーナーに挨拶していると、一緒にタクシーで移動しようということになってみなで和気藹々、相乗りして六本木方面に向かう。

 二人の武将がいる。ひとりは戦に負け続けてもうあとがない。だれか偉い人が秘策を伝授している。もう一方の常勝の武将がなぜ勝てるのか。要するに手放せばいいんだと。この人(常勝の武将)のように、どんどん減らして反転させればいいんだと。「30(三十)」と描かれた旗印が見える。

 山で集会がおこなわれている。生きてる人も死んでる人もいる。死んでる人の頭の上にはうっすらとリングが浮かんでいるからそれとわかる。それ以外は生きている人と全く変わらない。
 むしろ死者がリーダーになって作業を進めているらしい。
 小さな集団が一緒に農作業をしていて解散前に死者のリーダーが挨拶している。
「はい、今日のXXXXのボランティア、みなさんご参加ありがとうございました。お疲れ様でしたー」と死者であるリーダーが生者に向かってスピーチしていた。その人の頭上にもリングがあった。



夢日記 0701「03女帝」第四夜 月の沙漠で象をつくる

 夜の沙漠。
 月明かりに照らされながらわたしはひとり跪き足元の砂を掬って象をつくっている。さらさらした白い砂は掌のなかでゆっくり固まり、だんだんとカタチができあがってくる。胴、頭、耳、鼻、キバ。前脚を作っている時、ふと象と眼があった。命が生まれたらしい。しかし生まれながらにしてその象はとても年老いていた。


 無駄なことはやめろ、とその老象はわたしに言う。わたしはかまわず造り続ける。後脚ができたら立たせることができる。一心不乱に砂を固めてやっと体全体ができあがるが、老象はよろよろして立ち上がることができない。わたしは老象を抱きかかえるようにして四肢を固める。掌からはたしかに老象の体温が感じられる。


 仕方ないのだ、と老象は言う。老象が死にそうだ。わたしは助けを求めて大声で叫ぶ。砂漠に人影はない。もう一度わたしは身体の底から絞り出すように全力で叫ぶ。けれどもわたしの声はわたしには聞こえない。



夢日記 0801「04皇帝」第七夜 女優M

僕は予備校にいる。
その日はバザーのようなイベントをやっていて、屋上が解放されてそれぞれがお店を開いている。
まわりは十代の男女ばかり。楽しそうだ。

そんななかで知り合いの女の子にあった。
彼女は以前から芸能活動をしていて、最近売り出し中の若手女優Mだ。
「久しぶり、どうしてた?」
彼女は近くのビルに買い物に来ていてたまたまこのバザーに立ち寄ったそうだ。

「こんなとこ来て大丈夫なの?」「騒ぎになるんじゃない?」
「すっぴんだから大丈夫、まだばれてない」
「こんなとこで出会うのはほとんど奇跡だね」
「ほんとだね、もう二度と会えないかもしれないね」

彼女と話しながら休憩室に入る。スタジャンを着た若い男の子たちと隣り合わせる。
なにか僕に聞きたそうだ。

「おじさん、五浪ですか?」
「いや、そうじゃなくてね。僕はすでに大学を出ているよ」
「普通の大学に行ったけど、全然面白くなくて。美術大学に受験し直して卒業して、しばらく会社に勤めて、その後自分で会社を起こして・・・」

 若者たちは全然興味なさそうで、まったく聞いてない。
 なんだこいつら、と思いながら、まあそんなものかなと思い直す。

 女優Mとそのあともずっと一緒に行動している。
「今日は何してたの?」と彼女が聞く。

 そういえば今日はMに会う前にも同じようなことがあったな、と思い出す。
 やはり芸能活動をしているMとは別の女の子と同じようなシチュエーションで会話をしていた。
「へー、そうなんだ」とMはいぶかしげな顔をする。

 外に出て、野菜を売っている店にMは駆け込む。
 Mは黄色いネットを広げて、まず半分に切った大きなスイカを入れる。そのあと大根やら卵やら他の野菜やらを詰め込み買い物をすませる。

 これからなにか料理をするつもりらしい。



 夢日記 0809「05法王」第二夜 世界の終わり

この日ついに「世界の終わり」が確定したそうで、首都は数日のうちに崩壊するらしい。

私は元妻と娘と三人で街を歩いていたが、途中酒屋に寄るためにその時は単独で行動していた。
世界の終わりを知らされたのはちょうど酒屋で年代物のとても珍しい酒を予約して出てきたあとで、もうあの酒を手に入れることができないのかと思うと少し心残りだった。

帰り道、大通りの交差点で旧知のおでん屋さんが屋台を出しているのを見つけた。
 店主は昔新橋のガード下で知る人ぞ知るおでん屋「なか川」をやっていた気のいい親父さんで、お互い懐かしく昔話をした。

 家に帰ってから元妻に昔よく通った新橋のおでん屋さんが屋台をはじめたらしいよと話す。こんどいってみようと。もちろん世界が終わるのだから「こんど」というのはありえないことなのだが。

 世界の終わりが来ると言うことを人に告げるつもりが僕自身にはないらしい。

 街はいつものとおりで、今度は友人四人と街を徘徊している。
 僕は行ったことがなかったのだが「デザインセンター」という施設が近くにあって時間潰しにはもってこいだそうだ。そう友人が勧める。

 デザインセンターの入り口。チケット売り場とモギリがあって、誰でも60円払えば一日中ここを利用できるのだそうだ。僕は10円玉を6枚数えてチケットを買った。もしかしたら70円出したかもしれない。

 内部は土足禁止で入り口で靴を脱ぐようになっている。僕は革靴を入り口で脱いでそのまま中に進む。

 デザインセンターは巨大な施設だがエレベーターは見当たらない。狭い階段を大勢の人が登りと下りと二列になって行き来している。2Fの工芸品のフロアに集合することになっていたので地階に降りていく。なぜだかこの建物には1Fがなく、2Fは地下にあるようだ。

 広々とした空間には精巧な手作りの工芸品が陳列されている。ドールの部品のようなものや手作りの書道の筆などが目についた。

 フロアを奥に進んでいくと僕自身のコーナーがあった。まだ見ぬ僕の作品が陳列されていて、だれでも体験できるようになっている。

 僕自身が作ったことはないのだが、ああ、こういう展開もあったかなと思える、まさしく僕自身の未来の作品だ。

 たしかに時間つぶしにはいい場所だ。

 ふたたび場面が変わってだれかの書斎にいる。
 部屋の中にはゲルマン系ドイツ人の学者とアフリカ系ドイツ人夫婦、それに元妻と娘がいる。ここは白人老学者の書斎らしい。

 近く大地震がくるので僕は九州に帰るつもりだということを話している。
 白人の学者は誇大妄想だと言う。黒人の友人も心配しすぎだという。
 君たちはそもそも民族的に危機感が足りないのだ、と僕は彼らに言う。
 ここでも僕はなぜだか「世界の終わり」のことについては言わないようだ。首都直下地震の話をしている。

 散々口論したがらちがあかない。
 そのうち学者が人種差別的な発言をしたので僕はその老学者の手を握りながら、そのまま腕をへし折ってやろうかと考えていた。

 世界の終わりだから九州に帰ってもしょうがないのだが、もう家族とは会えないことを知りながら、僕は娘と飛行機の時間について確認している。



夢日記 0826「06恋人」第一夜 飛行機墜落

数人の友人と徒歩でどこかに向かっている。ちょうど河にさしかかった頃、小さな橋を渡ろうとしているときに何処かの家から臨時ニュースが聞こえてきた。

 空は晴れ渡っていて雲ひとつない快晴。異変に気がついたのは私が最初だった。
 空の高いところに銀色に光る飛行機のような影が見える。でもどこかがおかしい、二機の飛行機が交差している。しかもすごく近い距離だ。

 「ニアミスじゃないか」空を指をさす。

 二機の飛行機は交差したままだんだんと降下してくる。機体がはっきり見えてくる。
 機体の一部が互いに食い込んだまま失速しているのだ。

 機影はどんどん大きくなってやがて私たちの頭上を越えて街の方角に遠ざかる。二機の機体番号がはっきり見えた。ひとつは大型旅客機でもうひとつは貨物機のようだ。

 「このまま街の中に落ちるぞ」

 友人たちと機体の行方を追っていたら、急に機体は角度を変えてすごい勢いで垂直に落下した。
 ちょうど私たちが渡っていた橋の川上。ごく近いところだ。爆音が響き、衝撃波がきた。
 二つの飛行機はくっついたまま川のなかほど、深いところに落下して機体はあとかたもない。

 そのうち水面にぶくぶく気泡が湧き上がり、それとともに人々が浮き上がってきた。
 蜘蛛の子を散らすようにおおぜいが川岸に向かって泳いでいる。

 「助かった人がいたんだ」と一瞬思ったが、そんなはずはない。あれだけの衝撃で乗客が生きているはずがない。周囲の地形が変わるくらいに吹き飛ばされている。

 地元空港発着の便なので、知り合いが乗っていなかったか?ここ数日の家族や友人の動向を思い出す。それにしても大変なことになった。私たちはその一部始終を目撃している。
 スマホでニュースサイトをチェックするが当然のことながらまだ情報はない。

 そういえば映像を撮っておけばよかったなと後悔する。
 身体の震えが止まらない。

 それにしてもあの泳いでいた人たちは何だったのか?気になる。


 そのようして伝染病がはじまった。


 コロナウィルスが劇症化して蔓延している。感染者はゾンビ化している。身体的な症状よりも精神に異常をきたすらしい。

 私は二人の女と一緒にいる。二人とも和服を着ている。飛行機の墜落を一緒に見た二人だと思うのだが確信はない。

 ひとりは喪服のような黒い着物を着て、絶えず咳をしている。この女は魔女だ。あるいは魔女に薬を飲まされた魔女の眷属だ。そのことをわたしは知っている。

 三人は古い家の中にいる。祖父母の家のようだ。魔女がわたしを捕まえようとしている。後ろから抱きついてくる。助けを求めているのだ。もう一人の女は白地に金糸の着物を着ていて、泣き叫び逃げ惑う。この女もすでにウィルスに感染していて、精神が崩壊している。
 私自身は伝染病にかからない体質だ。しかしこの白い着物の女はそれを知らない。魔女と私が近づくことをおそれて逃げている。

 三人でひとしきり追いかけっこのように家中をぐるぐる回って、やっとのことでまず魔女を引き剥がして彼女を縄で縛り上げる。もう一人の女は気絶して玄関口に倒れている。

 私はその女の両足首を持って畳を引きずりながら魔女と同じ部屋に連れて行く。驚くほど女の体が軽い。抱き起こして裾を直してやり、さらに魔女とともに毛布をかけてやる。
 二人の女が交差して横になっている姿が墜落した飛行機の姿に重なってゾッとした。

 この部屋をロックすればとりあえず安心だが、もう一人の白い着物の女を縛り上げるべきかどうか私は迷っている。いずれ目を覚ましたら鍵を開けて出て行くだろう。



 夢日記 0918「07戦車」第十一夜 うさぎ900

 私は世田谷の図書館にいる。現在はここを仕事の拠点としている。
 夕方の図書館はこどもたちの声で賑やかだ。学校帰りのこどもたちを図書館であずかっているらしい。

 マネージャーが段取りをつけてくれてある大御所の女流作家と会うことになった。
 インタビューというような公式なものではないが、以前から私はその人に話を聞きたかったのだ。
 女流作家は気軽に承諾してくれたらしい。どうやら図書館の近所に住んでいるということだ。

 そしてその日、彼女が図書館にやってきた。
 白髪でとても上品な女の人だ。H先生。
 私は挨拶もそこそこに文学の話をはじめる。いろいろな作家の話、また小説の話。
 H先生はにこやかに私の話を聞き、意見をしてくれる。
 ときに、横になりリラックスしてお互いに話をする。
 あっという間に時間が過ぎて、H先生が時計に目をやる。

 「あなたにいいソフトウェアをあげましょう。たぶん役に立つはずです」
 H先生はそう言って私に見たこともない大きなストレージ(外部記憶装置)を渡した。

 「ありがとうございます。コピーしてくるのでちょっとのあいだ失礼します」
 私はそのストレージをもってコンピュータに向かう。

 こんな見たこともないストレージをどうやって使うんだろうと思いながらコンピュータの背面を見るとちょうどピッタリの差し込み口があった。
 ファイルを検索し目的のソフトウェアを見つけた。

 そのソフトウェアのなまえは「うさぎ900」
 どんなソフトなのかわからないがとにかく指定された通りのファイルをコピーする。

 帰りぎわ、H先生が私に言う。
 「これをご縁にこれからもよろしくね」
 「ありがとうございます。今日は自分のことをなにも話さなかったですが、私はモノツクリの仕事をしています。おもに立体の・・」
 H先生「知ってますよ、見たことがあります」

 H先生を見送った後、私はさっそく「うさぎ900」を脳内にインストールしてソファに横になった。

 ファイルのコピーに多少手間取ったが、とても穏やかな夢だった。


 自分の車が修理中で代車として大きなダンプカーが届いている。
 これから人に会う用事で運転しなければならないのだが、ダンプなんて運転したことがない。
 運転席に座ってとりあえず動かしてみるが、ブレーキやらアクセルやら足元が窮屈で運転しづらい。
 借りた車だけど安全第一なので、車内の余計なものをことごとく取り外していく。
 車には余計な付属品がたくさんついていた。

 ようやく自分でも運転しやすいようになった。
 そしていざ出発しようとした時、自分が素っ裸なのに気がついた。

 ダンプは運転席が高いから外から姿は見えないが、さすがにこれから人に会わなければならないので裸はまずい。運転席で服を着始めるが、どうにも窮屈でうまく服を着ることができない。
 約束の時間はどんどん近づいている。

 焦り始めたところで目が覚めた。



 夢日記 1019「08正義」第十五夜 津波

 この数日続けて同じような夢を見ています。

 人がうちにあつまり朝方まで飲み食いしている。
 男たちがいて女たちがいて、なにか事件が起こるわけでもなく皆好き勝手に話をしている。
 知っている顔もあれば知らない顔もちらほらみえる。たぶん知り合いの誰かが連れてきた人たちだろう。
 大勢の中でわたしはそれなりに楽しんでいるし、同時に退屈もしている。

 今日も同じようなシチュエーションで大勢の人の中にいる。
 さすがに飽きてきたので数人と連れ立って海岸に散歩に出る。もう明けがたになっている。

 いつのまにか一人になっていて防波堤から海を眺めている。
 潮が引いた浜に溜まりができて数匹の魚が閉じ込められている。そのまま手で掴めそうだ。

 ふと沖を見ると海岸からそう遠くないところで海面が盛り上がっている。
 海底の泥を巻き上げて噴き出しているようであたりの水は茶色く濁っている。
 一瞬、空から隕石が落ちてきたのかと思ったが、そんな音も聞こえなかったのでやはり海底から噴き出しているのだろうと思った。
 ブクブク噴出する泥水の塊はどんどん大きくなって広がっていく。

 沖のほうの海面が立ち上がって黒い壁がみえる。津波だ。
 最初は薄い黒い線だったものがどんどん厚みを増してこちらに迫ってくる。はやい。
そのときにはもうわたしは駆け出していた。あたりはまだ寝静まっていて異変に誰も気づいていない。

 父親のいる実家に着いたが玄関の鍵が閉まっている。
 すでに海水は堤防を越えて家のほうに押し寄せている。
 裏山の方からも水が出ていてもう逃げ場がない。

 そのとき黒い水が頭上から被さってきて、わたしはうねりの中に引き込まれる。



 夢日記 1023「09隠者」第三夜 けらの

 最初は三つのさなぎが登場する。
 さなぎのような、あるいは顕微鏡で見るゾウリムシのような、とにかくそんな形態だ。
 それぞれが身体の一部をやりとりしているようだ。
 玉を持ったさなぎがいいる。そしてその玉を交換している。

 場面が変わって、おおぜいの人たちと船旅をしている。修学旅行かな。
 それそろ帰り支度をしなければ。帰港地が近づいている。僕は荷造りを始めている。

 再び場面が変わって、窓の直下は港から続く運河になっている。
 友人と二人で窓から海を見下ろしながら話をしている。

 ふと海面に黒い影が走るのが見えた。なんだろう?
 やがてその影は海面に浮上した。イルカだ。それも特大の大きさだ。

 そのイルカは僕たちに気づいているようで直下の海面を親しげにくるくる回っている。ときおり海面を蹴って飛び上がる。
 顔が見えた。イルカにしては鼻先が尖っている。まるでタツノオトシゴの頭のようだ。そして眼が青い。トルコ石をはめ込んだような真っ青なブルー。発光しているようにも見える。
 青い目は私を見ている。そして笑っているようだ。

 娘に見せてやろうと、隣の友人に頼んで呼びに行ってもらった。
 その間もイルカのようなそれはときどき飛び上がって僕の方を見る。

 よく見るとイルカの下半身にはトラックがくっついている。つながっているのだ。
 それがたいそう不自由そうだ。

 突然、イルカは僕がいる窓めがけて飛び込んできた。トラックの部分が家の中に飛び込んだ。
 僕はとっさにトラックの荷台をキャッチして家の中に引き摺り込む。
反対側から顔が覗き込む。人の顔をしている。

 「トラックを引っ張り上げてくれないか」その男は言う。しゃべれるんだ。さっきまでイルカに見えたその人である。
 僕は言われたとおりにトラックを引っ張り上げたら、胴体がちぎれた。
 僕はその男とはじめて顔をつきあわせる。

 男「あんた、見たことあるよ」
 僕「え、ほんとに。どこで?」
 男「あんた隣町の海洋センターに行ったことはないか?」

 たしかに僕は一度だけその海洋センターに行ったことはある。

 僕「もしかして海洋センターで働いてたイルカですか?」

 男はそうだと言う。働いてたと言うか、働かせられていたのだそうだ。

 そうこうするうちに男はディスプレイ画面の中に収まっている。となりには水槽があって白い砂にサンゴが生えて、綺麗な熱帯魚が泳いでいる。赤い水車もまわっている。

 僕「あなた名前があるんですか?」
 男「もちろんだ。ケラノという。」
 ケラノだかセラノだかよく聞き取れなかったのだが、まあどっちでもいい。

 そのうち僕もだんだん思い出してきた。
 たしかに僕もこの男に会ったことがある。 それは海洋センターのイルカではなくて僕が海岸を散歩していたときだ。
 顔に特徴がある。かれの顔はひょっとこに似ているのだ。
 夢の中で友人と一緒に散歩していたときに海岸に落ちていたひょっとこのお面だったかもしれない。
 あるいはひょっとこに似たヒトデだったかもしれない。あるいは人面石だったかも。

 場面が違えどもお互いに出会った記憶があったと言うことらしい。

 そのうち元妻に連れられて娘がやってきた。
 幼い娘は水槽の中身に興味があってサンゴの枝をさわって折ろうとしている。
 ケラノはびっくりした顔でそっちを見ている。

 「なんてことするんだ。やめなさい」僕は娘をしかる。
 元妻はさらにサンゴの枝を鋏で切ろうとしている。
 僕は激怒して「おまえたち、もう帰れ!」怒鳴りつける。

 娘は泣きながらその場を去り、元妻は悪態をつきながら帰って行った。

 すでにケラノはディスプレイのなかから消えており、あとには南国の海と椰子の木のある風景が映った天気予報のテレビ番組が流れている。
 天気予報のナレーションはケラノの声だ。

 こういう仕事もやっているんだね、ケラノは。僕は感心している。

 ケラノとはそのうちまた会えるだろう。



 夢日記 1111「10運命の輪」第八夜 お菓子屋のテロル

 お菓子屋の二代目がテロルを計画中だ。
 彼は僕の後輩でこれまでもいろいろ相談に乗ってきた。
 彼はかつてコメディアンを目指していて、実際プロとして活動していた時期もあったが今はお菓子屋の二代目として家の跡を継いでいる。

 その彼がテロルを計画している。彼の友人のコメディアンたちが白い頭巾のついた衣装をかぶって人混みに入り工作活動をしているのだが目立ちすぎて世間から完全に浮いている。

 お菓子屋にはやむにやまれぬ事情があってこの世界を破壊しようとしている。お菓子を道具に使うのかどうかはわからないが、お菓子屋のネットワークを使ってテロルを進めようとしている。なかなか思い通りにいかず苦労しているようだ。

 僕はそれも仕方のないことかなと考えている。彼がそこまで思い詰めているのなら。

 肉体は仮設のものである。そしてこの世界は仮説である。

 仮設が必要であるからにはその目的があるはずで、肉体は「梯子」のようなものであるらしい。
 梯子をかけて下から上に登る、まれに上から下に降りることもある。
 上に登りきったらもう梯子は必要ない。梯子を外されても構わない。降りられなくなるだけだ。
 梯子の寿命はせいぜい100年だ。

 お菓子屋は仮説である世界を爆破しようとしている。
 だからそのまえに僕は梯子を登り切らなければならない。



 夢日記 1130「11力」第十二夜 緑色の小さな宇宙人

 久々に一夜で数多くの夢をみました。 前半ははっきりと思い出せなくて、パースペクティブの開けた明るい未来という感じしか残っていません。ただ目覚めた時とても暖かくいい気持ちでした。思い出せないのが残念です。

 後半。

 私はブルガリア大使館にいる。

 受付で待っていると私は呼び出されて、ブルガリア大使と秘書のような女性が奥からでてきた。
 大使は比較的若い、大きな男で頭はツルツルに光っている。柔和そうな表情をしている。
 私たちは握手を交わし、応接室に通される。

 大使館はビルのなかにあり、つくりはとても質素だ。
 応接室のソファーに座って大使を待つ。
 車椅子に乗った大使がカーテンを開けて奥からでてきた。
 カーテンの隙間からベッドが見える。

 「大使はここに住んでいるのですか?」私は英語で聞いてみた。
 「そうです。狭いですがここに住んでいます。」彼は流暢な日本語で応える。

 窓もなくて小さなベッドと小さなデスク、ベッドのかたわらに本棚があり本がぎっしり詰まっている。
 大きな体の彼がここに住むのはさぞかしつらいだろうな、と同情した。

 自己紹介のために私の作品の写真を見せようと、スマホを取り出そうとしたが見当たらない。前室に忘れたようだ。

 「すみません、ちょっと待っていてください。資料を取ってきます。」
 私はスマホを取りに前室に戻るがスマホがない。
 どこに置いてきたのだろう?思案しながら、そういえば枕元にあったなとふと思い出した。そして実際に枕元で見つけることができたのだが、夢から出てしまった。


 そのスマホを持って私はいま山を歩いている。ずっと前に一度出会ったことがある、とても大きな美しい樹を探すためだ。
 2メートルくらいの高さでグレーの山肌がくり抜かれている。ノッペリしたトンネルのような道を私はスマホだけを手にして歩いている。
 木陰は少し肌寒く、湿気を感じる。草木と土の匂いがする。
 左手は大きなイチョウが立ち並びどれも樹齢数百年のりっぱな樹々だが、私が探している樹ではないようだ。
 ようやくそれらしい樹にたどり着いた。見上げると枝の一部が平面状に隆起していて、そのうえにレミニスカートのような枝が幹の両側に浮いている。
 根元には蜘蛛や羽虫が巣をつくっていて無数の虫が這い回っている。
 羽虫は空中を埋め尽くし、空がけぶって見えるほどだ。目を開けていられない。

 甲虫のようなものが一匹私の方に向かって飛んできた。
 私はそれを払おうと持っていた布を振り回すが虫はしつこくまとわりついてくる。
 私はなにかにつまずいて後ろ向きに倒れる。


 場面が変わって私の仕事場。
 新入社員が入ってきた。とても生意気そうな若者でまともに口をきかない。

 他の社員はだんだんと打ち解けて、彼の身の上話を聞いている。
 どうやら彼は全身の性転換手術を受けて身体は完全に女性らしい。

 若いのにかなり借金をしているのだろうな、と私は同情する。
 出身は長崎らしい。今は池袋に住んでいるとのこと。

 私は彼(彼女)に話しかけるが応えない。
 そのうち彼は私に挑戦するように顔を間近に近づけてくる。
 まつげの一本一本が見えるくらいに近い。おしろいのつぶつぶが見える。
 彼は私の眼の中をのぞいてくる。私も目をそらさないで挑戦に応える。彼の瞳は金色だ。

 どうやら私は彼(彼女)に認められたらしい。

 彼(彼女)は私の膝に乗って誘惑してくる。半裸の状態だ。
 ちょうど肩を抱く格好になって、私は彼の肩がとても華奢なのに気がつく。背中もおどろくほど滑らかだ。

 その場に居合わせた私の恋人が心配そうにこちらをみている。
 新人の彼(彼女)はなおも執拗にせまってくる。
 恋人はたまりかねて二人が絡み合っているところに入ってくる。

 私は二人の男(女)女にからみつかれてうんざりし、その場を出て行く。


 場面が変わって私は川のほとりにいる。かなり上流だ。
 かたわらで母親が洗濯をしている。
 私はベッドに横たわっていて身動きができない。

 ベッドから河岸を見ると一匹の大きな緋鯉が産卵のために砂地に上がろうとしているのが見えた。
 体をくねらせながら徐々に陸に上がってくる。体を砂地にこすりつけていま卵を産もうとしている。

 私は母に知らせようと「お母さん、ヒゴイがいるよ!」と声をかける。
 年老いて耳の遠い母にはそれが聞こえない。
 私は何度も「お母さん、お母さん」と呼びかける。
 私は手だけを動かすことができる。かたわらの水をすくって母親にかける。
 母はようやく気がついた。


 場面が変わって、今日は父親の快気祝い。
 施設に入っていた父が退院してきた。
 親戚が大勢集まって宴会をしている。
 父は車椅子で部屋に入ってきた。

 見たことのある女性が踊りを舞っている。
 仕舞いを終えた彼女は私と父と叔父が三人で話しているところに入ってきてお祝いを述べる。
 「いい色ですね」
 私は彼女のきている着物を褒める。左肩が紫色に近い紺色で、右肩が臙脂色の美しい布でできている。
 彼女は喜んだ。
 帰り際に彼女の乗ってきたと思われるミニクーパーが庭先に停めてあるのに気づいた。

 私は宴会を早々に引き上げようと帰り支度をしていると、庭にハクビシンのような獣が紛れ込んできた。
 子供達が駆け寄って獣を捕まえた。
 よく見ると子犬のような、子猫のような、けれども二本足で歩く見たこともない幼獣だ。
 白と黒と灰色で色分けされていてとてもかわいい。そして人懐っこい。

 帰り道、空港近くを歩いていた。何気なく空を見上げると大型の旅客機が墜落していくのが見えた。
 飛行機は近くの工場に激突し、建物から火が上がっている。

 なおも次々と空から飛行物が落下してくる。どこに落ちるかわからないので私は空から目が離せない。
 近くを走っていた車も止まって、みな成り行きを見ている。車の上を直撃した飛行物もある。パニックが起こる。

 おそらくそのとき飛んでいたすべての飛行物がコントロールを失って落下してきているようだ。そのうち人工衛星も落ちてくるかも知れない。ついに、世界の終わりか?

 私は落下物を避けながら家路を急ぐ。

 自宅にたどり着くとすぐに戸締りをはじめた。
 雨戸を閉めて施錠をする。
 そのうちに家族が帰ってきた。
 そのなかになぜかミヤコ蝶々がいた。祖母なのか、叔母さんなのか?大きな黒い帽子を被っている。

 私は飛行機の落下事件を家族に知らせる。
テレビニュースでもパニックの様子が流れている。
 自宅は空港に近いのでここに落ちてくるかもしれないのだ。

 そのうち一機の飛行艇らしきものが自宅に突っ込んできた。
 青、白、赤のトリコロールで配色された飛行艇。
 まるで水の中を泳いでくるように飛んでくる。金魚のようだ。
 この配色は見たことがある。以前の夢で見たことがある飛行艇だ。

 激突するかに思われた飛行艇は自宅の庭先に着陸した。
 そのまま自宅の中に入ってくる。
 飛行艇のハッチが解放され、なかから小さな宇宙人たちが顔を出した。
 薄い緑色のユニフォームを着て、ヘルメットは装着したままだ。

 私の家族も安心して、宇宙人たちと会話を試みている。
 相手もしきりに喋っているようだが、言葉が通じない。

 窓の外に空を登っていくロケットが見えた。
 姪と一緒に窓を開けてロケットの様子を見守る。なんだか頼りない飛行で徐々に高度を上げつつあったが、ついに落下し始めた。
 こっちに落ちてくる。
 私は姪を抱きかかえて窓際から飛びのく。
 ロケットは庭先に落下して爆発した。幸いおもちゃのロケットのように小さいサイズだったようだ。

 だが、中からメガネをかけた凶悪な表情の大きな首があらわれて、地上の人たちを拉致しようとしている。
 私は窓越しにその大メガネと眼があった。



 夢日記 1207「12吊られた男」第三夜 はじめての幽体離脱

 僕はベッドにいて傍らのだれかと話している。
 「いま七人組が来ているから一緒になって遊んでみたらいいよ」

 誰と話しているのか思い出せない。娘かもしれない。
 七人というのは、七人の小人? 精霊? あるいはその昔、同じ船に乗り合わせたことのある七福神たちだったかもしれない。
 七人が一体のものだということだけ、僕にはわかっている。

 そろそろやすもうと思っていたそのあ瞬間、布団がズルズルとずり上がってきて頭をすっぽり覆ってしまった。
 布団を剥がそうとしても何かが押さえつけていてうまくいかない。
 なにやら胸の上に気配がする。これはあの七人が来たのだなと直感する。

 突然からだが動かなくなった。
 ひさびさの金縛りだ。もがいてみたが無理だ。だが怖くはない。

 僕は抵抗するのをやめて力を抜いてみた。
 試しに上半身を無造作に起こしたら軽々と起き上がった。誰もいない。気配も消えている。
 もしや!と思って振り返ると、そこには僕が眠っていた。

 ああ、これが世に言う幽体離脱だ。ついに初体験だ。
 僕はこの一年以上、幽体離脱の実践を目指して訓練して来たのだった。

 上半身はなんなく抜けたが腰から下がなかなか抜けない。
 僕は少しずつ自分の体から霊体をそっと引き剥がしていく。僕の体はまだ眠っている。
 そうしてようやく全身が抜けた。

 僕は僕の体に毛布と布団をかけてやる。

 ベットから降り立ちドアに向かう。そのままドアを開けようとしてふと立ち止まった。 幽体だったら壁抜けができるはずだ。

 僕はおそるおそるドアに頭を突っ込んでみた。抜けた!
 かすかに肌を空気が撫でる感覚があったが抵抗はまったくない。
 そのままドアを抜けてリビングに出た。

 リビングルームは僕のよく知っているいつもの部屋で変わったところはなにもない。
 ただ窓の外は昼間の光であかるく輝いている。まだ夜が続いているはずなのに。

 僕は庭に面した窓を抜けて庭に出た。
 ガラスと網戸を抵抗もなく突き抜けることができた。外は晴天だ。

 ここ半年、庭の草刈りを怠っていたので庭は雑草だらけだ。
 僕は庭を見渡しながら右手をかざして庭を整えるように念じた。
 雑草はきれいに刈り取られ、芝がはられてところどころに花壇ができた。
 コスモスが咲いているところをみると季節は秋なのだろう。

 庭の端っこの方に大きな木製の卒塔婆が三本立っている。梵字のような、記号のような文字が墨で書きつけられている。
 その隣にはこじんまりした石造の墓もある。墓にはお花が供えられていて、モンシロチョウが花の周りを翔んでいる。

 耳慣れた音楽が聞こえた。それにどこかのスピーカーからアナウンスが流れている。
 空は真っ青で空気が透き通っている。
 僕は素っ裸のはずだったが今はパジャマを着ている。
 あまりにもいい天気なのでタバコが吸いたくなって、家のなかに取りに戻ろうとした。
 さっき抜けて出てきた窓をまた通ろうとすると鼻先が網戸にぶつかった。

 あれっ?

 手を差し出してみたが通らない。普通に物質の抵抗があるだけだ。困った。鍵が閉まっている。
 壁抜けして出てきたから当然鍵なんか持っているはずもない。締め出されてしまった。

 僕は鍵を閉め忘れた出入り口がないかと、建物のまわりを歩き回って探している。

 近所の子猫が戯れてきて僕にお尻を向け擦り寄ってくる。
 僕は無視してなおも家の周りを歩く。

 今度は子犬が戯れてきて僕に飛びかかってくる。
 キャンキャン鳴いてジャンプしてくる。かなりしつこい子犬だ。

 かたわらに親犬とおぼしき大きな犬が寝そべっている。
 ガルルルルー。こちらを見て唸っている。
僕に対して唸っているのか、子犬をたしなめようとしているのか、僕には判断できなかった。



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