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最近観た映画/『テーラー』『真珠の耳飾りの少女』

生活がてんやわんやで、すっかり更新できなくなってしまいました。3月はちょこちょこと更新することができ、継続的に文章を書ける人間になれたんだな私は、と思っていましたが、単に暇なだけでした。
それなので、最近観た映画とその感想をまとめて記録しておきます。結末までのネタバレを含みます。

『テーラー 人生の仕立て屋』
父親からスーツの仕立て屋を継いだ主人公。しかし高い仕立てスーツの売れる時代ではなくなり、店は潰れる寸前。主人公はスーツの移動販売を始めますが、それをきっかけにウェディングドレスを仕立てるようになります。隣人の女性と協力し、ドレスを作る仕事は軌道に乗っていきますが、結局仕立て屋は倒産します。それでもラストでは、主人公はドレスの移動販売の店を立ち上げているのでした。

スーツ作りしかやってこなかった寡黙な職人である主人公が、必死に生き残りの道を模索する姿には心打たれました。私自身、職人の手仕事に惹かれる気持ちはあるものの、やはりそういうものは高級品で手が届かないと感じることが多いです。機械化、AI化が進んで、失われる仕事が多くあることも昨今叫ばれます。需要が減っていく仕事をしている人には、ひしひしと共感させられる厳しさがあると思います。隣人の女性との協力があってのこととはいえ、スーツ作りからドレス作りへと言う急激な方向転換がここまでうまくいくだろうか?という疑問はありますが、ドラマとしては素敵でした。またギリシャの光なのか、色彩がとても美しかったことが印象的でした。
ただ、後半になって主人公と隣人女性が不倫関係へと発展し、物語が不穏な方向に進んだことは、私の好みではなく残念でした。亭主関白な夫に支配されていた隣人女性が、得意の洋裁を活かしドレス職人として成功し自由になっていく部分をじっくり見たかったなという気持ちです。爽やかに終わってほしかった……。


『真珠の耳飾りの少女』
主人公の少女は、画家フェルメールの家にメイドとして奉公することになる。優れた色彩感覚を持つ少女は、フェルメールの仕事に興味を抱き、フェルメールもそれに気がついて自身の仕事を手伝わせていた。夫との仲を疑うフェルメールの妻やフェルメールの娘に嫌がらせを受けたり、フェルメールのパトロンに襲われかけたりと散々な目に合う少女。フェルメールは、少女とパトロンが一緒にモデルになる絵を描くことを阻止し、代わりに少女一人の絵を描くことになります。少女はピアスの穴を明け、妻の真珠の耳飾りを借りて着けます。フェルメールが少女の絵を描いてることが妻の逆鱗に触れ、少女は家を追い出されるのでした。

まさに動くフェルメール絵画でした。アトリエのシーンはどこを切り取っても美しく、見とれてしまいます。ストーリーとしては、ひたすらに少女が不憫でかわいそうでした。少女はフェルメールの妻や娘たちに冷たく接せられ、忙しく働き、モデルになる際は拒否しているにもかかわらず、半強制的にピアスの穴を開けさせられたりと、家の中では人権がないも同然でした。フェルメールは、娘の嫌がらせやパトロンの要求に対して味方をしてはくれますが、それも中途半端なものだと感じざるを得ません。彼女のことを思えば秘密裏に絵の具の調合を手伝わせるなど、妻に怪しまれることはすべきではなかったでしょう。彼女の才能を見抜いてのこととはいえ、調合を手伝い、画家に直感を与える存在として、便利に置いていたと言えると思います。しかし彼女が妻に追い出されても、フェルメールにできることは、せいぜいいわくつきの真珠の耳飾りを渡すことだけです。もしも少女を差し出すようにとパトロンに強く言われたら、フェルメールは助けてくれただろうか……。少女のことを思うと、フェルメールに対する不満はいろいろと思い浮かぶのですが、フェルメールもまた婿養子という立場なのか、この家で強い立場ということもなく、パトロンがいなければ収入を得ることのできない、弱い立場とも言えます。でもな〜……とモヤモヤしております。
美しい画面と、惹かれ合いながらもそれを表さないふたりの関係性はとても魅力的でしたが、現代人視点だとかわいそう!という気持ちが勝ってしまいました。でもなんとなく引っかかるというか、登場人物の心の機微が読みきれないところが多く、また観たいなと思っています。


自分が映画を見て抱く感想の傾向ですが、倫理的にどうなの?人権的にどうなの?と疑問に感じてしまう展開に不満を感じてしまうところがあります。創作物は、正しければいいわけじゃないと、現行の価値観にそぐわないことでも、時には描く必要があると、頭ではわかります。たぶん、そういった表現が物語の中に存在する必然性とか、説得力があれば、「良くないけどわかる……」と感じるのですが、そこの納得感が今一つだと微妙な気持ちになるんだと思います。


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