【ショートショート】#130 慣用句
ずっと夢だった料理人になる夢を叶え
ついに自分の店を持つことができた。
開店してすぐはあまり客足は多くなかったが
口コミで評判が広がり、
毎日行列の絶えない店になった。
そんなある日、いつものように厨房に立っていると
ホールの店員が慌てて話しかけてきた。
「シェフ、お客さまのほっぺたが落ちたそうです…!」
「それはなによりだね!」
「いやあの、例えとかではなく、本当にです…。」
意味が分からなかったが、とりあえずホールへ向かうと
人だかりができていた。中央にはうずくまる男性。
彼の顔や手は血だらけになっていた。
何が起きている...?
病院に運ばれたその男性は命に別状は無かったが
顔に大きなダメージを負うことになった。
私のせいなのか?罪に問われるようなことはなかったが
世間からの批判の声は少なからず生まれた。
「怪我をさせておいてなんとも思わないのか。」
「血も涙もないやつだ。」
ただ美味しい料理を食べてもらいたいだけだったのに。
お客さんの数は明らかに減ったが、
店は開けなければいけない。なんでこんなことに。
悲しみ方も分からないので涙も出ない。
仕込みのために玉ねぎを切っていると
指を切ってしまった。
「あれ...?血も涙もない。」
物書きになりたいという夢を叶えます