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死と記憶の無い少女、黒い家の惨劇(46/60)

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第八章 主治医
第四話 夢

あらすじ
 児童養護施設じどうようごしせつから親戚に引き取られた櫻井彩音さくらいあやねは、連続殺人に巻き込まれる、黒い家と噂される榊原家は父親と長女以外は殺された。彩音あやねは家から逃げ出すと浮浪者の吉田守よしだまもるを殺してしまう。


 私は夢を見る、両親が居る。リビングで言い争いをしていた、どうやら私に関係しているようだ。私は聞きたくないのでリビングを出て自分の部屋のベッドで丸くなる。
 
「お父さんは優しいのに」

 母は私を嫌っている、なぜか怒った口調で命令する。だから逆の事をしてしまう。私は悪い子だ。
 
「あんたはお父さんが好きなんでしょ?」

 誰かが質問する。やさしいからスキなのは事実だ。やさしくない人を好きになるのかな? とも思う。

「おかあさんがもっと優しかったら……」
 いつからお母さんは怒っていたのかな?
 
「お母さんが怒った原因はわかる?」
 記憶を掘り起こす、記憶は深い場所にある。とても深くて暗い。いろいろなシーンを組み合わせながら記憶を探る。お布団でおねしょしたから? 遊園地で迷子になったから? 熱を出して迷惑をかけたから?

「わからない……」
 でもお父さんと仲良くなってから、母が怒ってたような気がする。いつだろうか?
 
「お母さんは嫌い?」
 母を嫌いだったのかな? 母を憎んだことはない。でも反抗したくなる事がある。なぜだろうか?

「お母さんが居なくなったら良いと思ったことはある?」
 邪魔に感じるよりも、対抗意識がある。不思議な事に母と私は同じ立場に感じる。だから母よりも愛されたい。

「お父さんは……」

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「困りますよ先生」

 私は夢から覚めていた、体が熱いのか汗で濡れている。催眠術の後は疲れがある。深い記憶を呼び出すので脳に負荷がかかるせいだと教えられた。子供の頃は、ぐったりしてしばらくは寝たままだった。
 
「すいません資料を取りに来たので……」

 主治医の斎藤輝政さいとうてるまさは、カウンセリングの部屋に入ってきた看護師に謝っていた。どうやら予約なしで利用していた。私は重い体を起こすとふらふらと立ち上がる。
 
「まだ大丈夫だから、横になって」

 斎藤が私を優しく座らせる。私は近寄る彼の顔にどきどきしていた。体の中がしびれるようにうずく、彼を好きになれたらいいのにと思う。

 夕方には榊原さかきばら家に戻れた。殺人事件が起きた現場には思えない、黒い家は今は普通の暖かい実家に感じる。


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