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死と記憶の無い少女、黒い家の惨劇(45/60)

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第八章 主治医
第三話 催眠術

あらすじ
 児童養護施設じどうようごしせつから親戚に引き取られた櫻井彩音さくらいあやねは、連続殺人に巻き込まれる、黒い家と噂される榊原家は父親と長女以外は殺された。彩音あやねは家から逃げ出すと浮浪者の吉田守よしだまもるを殺してしまう。


「ブロックで記憶は消えるの?」
「消してはいない、記憶を取り戻せない状態だ。でも本当に忘却している事もあるからね、無意識の行動なら記憶に残らない」

 懐かしい病院が見えてきた、私はこの精神病院で暮らしていた。病院と言っても学校のようなフリースクールに似ている。暴行事件の後は、主治医の斎藤輝政さいとうてるまさと治療を受け続けた。私を治療した斎藤は新人だった。はじめはぎこちない受け答えをしていたのを覚えている。
 
「あの頃は私も自信が無くて」

 今は笑っている彼を私は恐れていた事もある。いや男性が怖かったのかもしれない。レストランで昼食を食べて、資料の複写が終わるとカウンセリングの部屋に連れて行かれる。
 
「ここも懐かしいですね」
「今回の件で犯人につながる情報が無いか調べたいんだ」

 私は驚いたように主治医を見つめる、私が連続殺人犯だと疑っている? だから連れてきた?
 
「誤解しないでくれ、君を守りたいだけなんだ」

 主治医からすれば私が犯人であっても守秘義務がある。もし私は犯行を続けるならば、榊原さかきばらの残りの家族を殺すかもしれない。
 
「……私が殺す可能性があります?」
「それは判らない、君の人格が新しく生まれた時に実行しているかもしれない」

 人格は常に生み出される、ただ私たちはそれに気がつかない。記憶に一貫性があるからだ、一時間前の私と今の私で記憶が同じなら同じ人格だと考えてしまう。でも記憶している部分と人格が異なっていたら? 別の誰かが私の記憶を入れ替えてブロックする、そして人を殺す。
 
「私が犯人ですか?」
「私には判らない、記憶のみを戻せるなら事実関係は判る」

 私は使い慣れた長椅子に横たわる。子供の時と同じだ、先生が私の顔を見る位置に椅子を持ってくると暗示をかける。リラックスして、眠くなり、先生の望むことをなんでもしたくなる。先生が私の腕をやさしくつかむ、合図されたように私は夢を見る。


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