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死と記憶の無い少女、黒い家の惨劇(47/60)

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第八章 主治医
第五話 お祓いの札

あらすじ
 児童養護施設じどうようごしせつから親戚に引き取られた櫻井彩音さくらいあやねは、連続殺人に巻き込まれる、黒い家と噂される榊原家は父親と長女以外は殺された。彩音あやねは家から逃げ出すと浮浪者の吉田守よしだまもるを殺してしまう。


「元気?」
 伊藤愛美いとうあいみが、玄関から出てきた私に挨拶する。私は休学しているから家で主婦家業だ。殺人事件が発生した家の子供が学校に行けるわけがない。その上に私は疑われていた、暴力をふるう娘として悪名が高い。匿名掲示板では私が犯人だと名指しをする書き込みもある、私はまとめサイトで確認をしたが、根も葉もない噂だらけで笑ってしまうくらいだ。
 
「ちょっとお買い物するだけ」
「この家は、本当に呪われてるね」

 最近は夕飯の買い出しに出るくらいで外出は控えている。たまたま学校から帰ってきた愛美あいみと顔を合わせた。

 今の学校に通っても仲良くなる友達はできなかった。最初から両親が居ない私を遠ざけるクラスメイトも多い。トラブルを抱えたくないと考えるのかもしれない。クラスカーストでは私は最下位だ。でも伊藤愛美いとうあいみだけは不思議と私と会話してくれる。
 
「このお札、買ったの」

 愛美あいみが前に提案していた、お札を壁に貼って悪霊を退散させる話だ。ホテルでは幽霊が出るので部屋のどこかにお札が貼ってある、私は縁起担ぎとしか思っていない。交通安全のお守りと同じだ。お守りが目に入る事で注意するくらいだ、わざわざお金を払い邪魔になるのにぶら下げる。その面倒な行為をして記憶に刻みつける、深層意識に【交通安全】と注意喚起する。
 
「高くなかったの?」
「千円よ」
「高いわね」
「一枚だけ買って、複写したわ」

 複写したモノに力が宿るのか疑問だが、ネットで買ったものだ、最初から印刷されていた。複写と変わらない。

「判った、お金を払うから後でちょうだい」
「お札を貼る場所とかあるから、私も手伝うよ」

 全額を払うつもりだったが、彼女は遠慮をしていた。最後は、半分だけお金を払う事で彼女は納得した。
 
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佳奈子かなこさん、お夕飯を作りました」

 ベッドで寝ている長女が起き上がるが体が重そうに見える。最近は寝てばかりで筋力が落ちそうで心配になる。三人の家族が殺されたから、深刻な心理的なダメージがあるのかもしれない。
 
「下で食べるから大丈夫よ」

 美しい顔がやつれて見える。モデルのような容姿が痩せた事で痛々しく感じた。彼女が家族を殺したから憔悴しょうすいしていると考えると辻褄つじつまがあうが動機が無い。やさしい彼女が家族を殺すだろうか?
 
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佳奈子かなこの様子はどうかな?」

 父親の榊原昭彦さかきばらあきひこが長女の心配をする。最近は帰りが不定期なのか昼間に帰ってくる。そして長女の体を診察していた。私はうなずくと、苦労をかけてすまないと謝る。
 
「苦労じゃありません、大丈夫です」

 私は家事を苦労とは感じてない、広い家を掃除しているだけで一日を潰せる。これはこれで幸せに感じる。

 昭彦はうれしそうに私の頭をなでる。まるで子供扱いだが、彼は身長が高いので違和感が無いのだろう。私は黙ってなでさせた。


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