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死と記憶の無い少女、黒い家の惨劇(48/60)

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第八章 主治医
第六話 第四の殺人

あらすじ
 児童養護施設じどうようごしせつから親戚に引き取られた櫻井彩音さくらいあやねは、連続殺人に巻き込まれる、黒い家と噂される榊原家は父親と長女以外は殺された。彩音あやねは家から逃げ出すと浮浪者の吉田守よしだまもるを殺してしまう。


「じゃーん、お札よ」
 伊藤愛美いとうあいみは誇らしげに通販で買ったお札を見せた。意味は無いとは思うが、彼女の親切心だから私は家に招き入れる。
 
「でっかい家ね! 後で部屋を見せてよ」
 私の部屋は客間兼用なので、狭いし細長いのでホテルの一室のような感じだ。

佳奈子かなこさんが寝てるから静かにしてね」
「どこに居るの?」
「二階よ」

 私たちは居間やキッチンにお札を貼る。セロテープで貼るだけだ。なるべく目立たない場所を探して隠して貼る。

「トイレはどこ?」
「こっちよ」

 彼女がトイレに行くと一階に佳奈子かなこが降りてきた。
「誰か来ているの?」
「お向かいの伊藤さんが来てます」

 いきなりチャイムが鳴ると玄関のドアが叩かれる。私は警察だと思いドアを開けてしまう。そこには宮田健太みやたけんたが居た。
 
「彼女は大丈夫か?」
「え? 佳奈子かなこさんですか?」

 焦っているように見える彼は佳奈子かなこの名前を呼ぶ。玄関先に長女が現れると、宮田がほっとしたような顔をする。

健太けんたさん、もう来ないって約束したでしょ?」
 怒ったような悲しいような顔をする佳奈子かなこがつぶやく、宮田はうなだれるように顔を下に向けて玄関から出て行く。
 
「彼とは駄目なの……」

 長女が二階に戻ると同時に伊藤愛美いとうあいみも戻ってきた。なにやら深刻そうな顔をしている。健太が好きな彼女は少しだけ顔がひきつっていた。
 
「健太さんが来てたの?」
「お札はあと何枚? 私が後で貼るわ」
「後はあなたの部屋に貼れば終わりよ」

 夕飯まで私の部屋で時間を過ごしながら雑談をしていた。彼女の母親の伊藤照子いとうてるこがやたらと佳奈子かなこの心配をしている。同い年くらいの少女が死ぬのが恐ろしいと愚痴をこぼす。

「私が何かできるわけ無いのにね……」

 彼女を帰してから夕飯の支度をする。二階に上がり彼女に夕飯と伝えると今日は、いらないと小さく答えた。佳奈子かなこは、なんで宮田健太みやたけんたと付き合えないのだろうか? やはり精神的な問題で嫌っているのかもしれない。

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 いつものように朝に起きる。榊原昭彦さかきばらあきひこの朝食を用意して、一段落してから長女と私の分を用意する。昨日から食べていないので、朝食用のお膳を用意して持って行く。佳奈子かなこは、まだ寝たままのようだ。
 
 いつものように掃除と洗濯を終えると昼近い。二階にあがり朝食が手をつけられていない。まだ寝ている佳奈子かなこを、そのままにして昼間に買い物に出かける。玄関の施錠せじょうを確認した、宮田健太みやたけんたは、入ってこれない筈だ。

 その日はちょっとだけゆっくりと買い物をしたせいで、三時を回っていた。佳奈子かなこに、昼食を出し忘れた事を思いだす、あわてて家に戻った。

佳奈子かなこさん、ごめんなさい」
 動かない彼女の喉に果物ナイフが刺さっている。

主治医 斎藤輝政


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