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死と記憶の無い少女、黒い家の惨劇(49/60)

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第九章 悲しみの父
第一話 長女の危機

あらすじ
 児童養護施設じどうようごしせつから親戚に引き取られた櫻井彩音さくらいあやねは、連続殺人に巻き込まれる、黒い家と噂される榊原家の長女の佳奈子かなこが刺される。


 人は敏感だ。異変があると部屋に不気味に感じる、声をかけて部屋に入ると不安と焦燥しょうそうを感じた。

佳奈子かなこさん、お食事が遅れました……」

 予兆のように心が重くなる。佳奈子かなこを見たときに最初に目に入ったのは血だ。黒く赤い血が寝具を染めている。誰も居ない部屋、玄関に鍵はかけてある。侵入した形跡も争った形跡もない。横向きで身動きしない佳奈子かなこを私は震える手で仰向あおむけにする。

 細く短い果物ナイフが喉に刺さっている、浅く刺さっているのか抜けそうだ。目をつむった佳奈子かなこは、安らいでいるように見える。自殺だろうか? 家族を殺された苦しみで自殺をした?

佳奈子かなこ! 」

 肩を突然後ろにグイっと引かれると大声で叫ばれる。父親の榊原昭彦さかきばらあきひこは、傷を確かめながら果物ナイフを抜き取るとハンカチで傷口を押さえた。血は思ったよりも出ていない。もしかすると気管の方に流れてしまったのかもしれない。

 私は呆然ぼうぜんと立ちながら、警察と救急車を呼ぼうと考えているが体が動かない。冷える体は気力も体力も削られていた。

彩音あやね、救急箱が応接間にあるから持ってきてくれ」

 命令されると不思議に私は体が動いた。一階に降りて応接間に入ると救急箱を探す。見つけて二階にあがると箱を父親に渡した。落ち着きながら昭彦あきひこは、清潔なガーゼを取り出して傷に薬をつけている。医者の昭彦あきひこからすれば手慣れた作業だ。

佳奈子かなこさんは、大丈夫ですか?」
「ああ、死んでないよ、死なせない」
「犯人がまだどこかにいるのかも……」

 薄く笑う昭彦あきひこは泣いているように笑っているようにも見える。私に近づくと腕をゆるくつかまれた。力は感じないが、絶対に逃がさない。そんな風に思える。

「君の出番だ、佳奈子かなこの為に血をもらえないか?」

 長女の佳奈子かなこには持病がある、血の病で他人から輸血ができない体だった。私は血を与えられる。私たちは地下に連れて行かれた。そこで治療が始まると伝えられる。

※指摘ありがとうございます。ルビのフリ間違えで変わってました。

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