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死と記憶の無い少女、黒い家の惨劇(50/60)

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第九章 悲しみの父
第二話 地下の実験室

あらすじ
 児童養護施設じどうようごしせつから親戚に引き取られた櫻井彩音さくらいあやねは、連続殺人に巻き込まれる、黒い家と噂される榊原家の長女の佳奈子かなこが刺される。


 佳奈子かなこは、一人で人間を運べる搬送はんそう用の担架たんかを利用して、父親の榊原昭彦さかきばらあきひこが地下に降ろした。喉の傷は深くない、太い血管にも傷はついていなかったが、長女の意識が戻らない。

 地下の方が設備があるというが救急で病院に行く方が普通だ。でもその時の雰囲気は、自宅で治療をするのが当然に感じていた。

佳奈子かなこの血は万能なんだよ」

 昭彦あきひこは、地下室のベッドに佳奈子かなこを横たえていとおしげに頭をなでている。私も折りたたみ式のストレッチャーに寝かされた。輸血のために採血用の管を通されている。

彩音あやねも心配はいらない、十分に注意をするから」
「……あの犯人がまだ捕まっていません」

 榊原さかきばら家を襲う連続殺人の犯人が判らない、警察への通報を頼んでも昭彦あきひこは、笑うだけだ。もし彼が犯人だとしたら? でも家族を殺す理由がまったく判らない。

佳奈子かなこの血は黄金の血なんだ、そして君も黄金の血を持っている」

 私は長女の佳奈子かなこの顔を見ると顔色が悪いような気もする。具合が悪くなっていないのだろうか? 準備をしながら昭彦あきひこは、私に長い話をする。昭彦あきひこの話は要約をすると、希少な血液型のために他人から輸血されるとアレルギー反応が出るが、私たちの血液は誰にでも与えられる奇跡の血だった。

神智学しんちがくにも関係している黄金の血は、キリストの血とも言われている」

 地下室にある魔術のような本を信じているかのように彼は笑顔だ。難解な用語を駆使しながら娘は奇跡の血をさずけられたが、その血のおかげで輸血の必要な状況になれば、彼女の命が危うくなる。だから彼は娘を部屋に閉じ込めた。
 
佳奈子かなこさんをどうしたいんですか?」

 父親が娘を心配するのは判るが、過保護を通り越して監視保護と同じ状態だ。二階の複雑な間取りは父親の過剰な愛情のための作られたのだろうか?
 
佳奈子かなこを、ずっと守りたいだけだ、妻からもね」

 私には判らない、彼は家族を殺して佳奈子かなこを守りたい? 犯人が自分だから警察に通報をしない? でも息子の光男みつおは? 息子を殺す理由もわからない。
 
 私は血を抜かれているせいか眠くなる。父親の榊原昭彦さかきばらあきひこは、まだ何かしゃべっているが朦朧もうろうとした頭では言葉が入ってこない。
 
 私は眠くなり夢を見る。


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