死と記憶の無い少女、黒い家の惨劇(53/60)
第九章 悲しみの父
第五話 愛情
あらすじ
児童養護施設から親戚に引き取られた櫻井彩音は、連続殺人に巻き込まれる、黒い家と噂される榊原家の長女の佳奈子が刺される。
甘く不快な匂いがする。佳奈子の腐敗が進行している、私は、ぼんやりと天井を見ながら身動きできない苦痛でストレスを感じる一方で、拘束されている快感も感じている。
「もう平気だ……」
何度目かの目覚めで、私は折りたたみ式のストレッチャーから解放された、おむつをはかされていたので失禁はすべて始末されている。動けない私を搬送用の特殊な担架に乗せると彼は地下から二階の佳奈子の部屋に戻される。
私は長女のベッドに寝かされた。
「安心しておやすみ、佳奈子」
父親の榊原昭彦は、すでに精神に異常があるのかもしれない。彼は壊れていた。警察に連絡すべきなのだろうが、何もする気力が無い、重い思考は異常な状況をすべて受け入れていた。
切れぎれの思考の中で私は推理をする。昭彦が長女を溺愛したのは、遺産の問題だろうか? 悪辣な金貸しの情婦だった祖母の八代は、それなりの資産があるのかもしれない。でも資産が多ければ、佳奈子への遺産の配分だって相対的に多くなる。わざわざ長男や母親を殺す意味がないし、リスクが高すぎる。
私には知らない秘密があるのかもしれない。長女が祖母や母が憎まれていて殺害されるのを防ぐために先に殺す。
これもあり得ない設定だ。普段の生活を見ている限りは長女への憎しみなんてまったく感じない。確かに世間の親子のような親密さは無かったが、家族がみんな仲良しなんて、テレビドラマのような嘘くさい家なんてあるのかな?
地下の死体はどうなったのか? 埋葬されるのだろうか? 昭彦は、警察に逮捕されるのか? ぼんやりとした頭で私は眠る。今は寝返りが打てるので、ベッドは快適だった。
「佳奈子、食事だよ」
昭彦は、長女を亡くした喪失感を埋めるために、私を長女として扱う、食事を運んできて食べさせて、私をお風呂に入れる。二階の浴室の目的はこれなのだろう。手や足を洗い、体を洗い髪の毛を洗う。熱心に私の体を清めてくれる、私はそれを愛情と受け取っていた。両親が失踪してから初めて愛されたと感じた。
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