死と記憶の無い少女、黒い家の惨劇(54/60)
第九章 悲しみの父
第六話 第五の殺人
あらすじ
児童養護施設から親戚に引き取られた櫻井彩音は、連続殺人に巻き込まれる、黒い家と噂される榊原家の長女の佳奈子が刺される。
薬が抜けてきたのかもしれない、私の頭がはっきりすると状況を整理した。榊原昭彦は、今は安定した状態で、私を娘の佳奈子と認識しているが、その安定がいつまで続くか判らない。
なんとか外に連絡を取りたいのだが歩き回るにしても、扉は外側から鍵をかけられていた。完全に密室で閉じ込められている。トイレにいけても、その後の二つのドアをなんとかしないと外には出られない。窓はあるが特別な固定装置で開けられない。ガラスを破壊する事も考えたが最後の手段にとっておく。
榊原昭彦が部屋に入ってきた所で彼を突き飛ばして逃げるのも可能だが、娘を亡くした彼にそこまでする気が起きないのは、家族としての愛情を持ってしまったせかいもしれない。彼は殺人者であっても悪人ではない。
電話もなく通信手段のない部屋で、私は窓から隣家へ合図を出す事を思いつくが、窓も不透明で鉄線が入っている防犯用の頑丈はものだった。娘を閉じ込める目的の部屋だ、隙があるわけもなく漫然と昭彦の世話を受けていた。
「あの佳奈子さんの遺体は……」
「身元不明者の遺体かな? 手続きをして火葬にしたよ」
ある日、部屋に食事を持ってきた昭彦に聞いてみると手を回して腐乱死体として処理をしたと言う。彼の中では完全に私が長女のポジションなのだろう。精神を失調したままでも人間は生活できた。
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「佳奈子、いるのか? 」
「佳奈子さんは居ません、私は閉じ込められています」
何日目だろうか? 二階の佳奈子の部屋のドアを叩かれた。私はドアから助けを求めると宮田健太が家の中に侵入していた。
「ドアを壊してみる」
私がドアから離れるとドアノブが回る、もちろん鍵がかかったままだ、次は体当たりしているのか大きな音がする。開かない様子でしばらく静まりかえる。
「無理かな……」
ドアノブ付近から激しい音がするとメリメリと破壊音と同時にドアが開いた。大きな鉄のハンマーを持った宮田健太が立っていた。
「大丈夫か? 佳奈子は居ないのか?」
彼は肩で息をしながら汗まみれだ。鉄のハンマーは祖母が殴られた凶器に似ている。宮田健太)の背後に人影が見えた瞬間に怒号が上がる。
「佳奈子に、手を出すな! 」
後ろから榊原昭彦が、手に持った包丁で宮田健太を襲う、あわてて避ける彼に、また包丁を向けた。私は宮田健太を、かばうように飛び出す。重くのしかかる腹の違和感は、すぐに包丁に刺された事が判る。
腹に食い込んだ包丁は経験がしたことがない激しい痛みを感じる、少しでも動くと目から火花が出るくらいの強烈さだった。私はゆっくりと座り込むと、なるべく痛くないように横になる。呆然としている榊原昭彦の背後から、宮田健太が、父親にハンマーをふりあげる。私は声に出せないまま、やめてとうめいた。
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