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死と記憶の無い少女、黒い家の惨劇(55/60)

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第十章 幸せな私
第一話 父親

あらすじ
 児童養護施設じどうようごしせつから親戚に引き取られた櫻井彩音さくらいあやねは、連続殺人に巻き込まれる、黒い家と噂される榊原さかきばらの家族の生き残りは……


 父と風呂に入る。頭を洗ってもらい体を洗ってもらった。父は熱心に私の肌に触れていた。それが普通だと思っていた。母が気がついてからは、私は父とはあまり接触しなくなる。夫婦喧嘩は、その頃からだと思う。私の精神的な失調で事件を起こした後は、父と母は修復できないくらいに険悪だったが家族として暮らせていた。

「旅行に行きましょう」

 母が病院へ行くついでに風景を見たいと父親と車に乗った、その後は一人でバスで帰った。そして当たり前のように暮らしていた。両親の行方不明を知らされたのは、三日目くらいだ。両親は病気の私を置いて、どこか旅に出たと思っていた。

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彩音あやねさん、意識が戻った? 」

 私の手を握っているのは、正面の家の伊藤照子いとうてるこだ。心配そうな顔は憔悴しょうすいしているように見えた。病室は薄暗く静かで、たまに隣からせきの声がする。私は一般病室で眼を覚まして医者から腹部へのダメージの説明を受ける。腹部はかなり深く刺さないと内臓まで達しないが、雑菌で汚染されると腹膜炎ふくまくえんなどの症状が出る。私は熱を出して意識不明だった。

「悪い知らせだ」

 小林俊介こばやししゅんすけ刑事が病室に来ると両親の死体が発見されたと報告する。あの病院の近くにあるダムの底で車ごと沈んでいた。すでに遺体は白骨のために事件か事故かは判らない。両親の死亡により遺産が残るし保険金も出るからと私を安心させる。

「もう少しで一人暮らしが出来るだろうから、頑張れ」
「あの……榊原昭彦さかきばらあきひこさんは?」

 彼は黙って首を横にふる。死んだと思うと悲しみから自然と涙が出てくる。彼は私を長女と勘違いしたまま殺されてしまった。泣いている私を残して刑事は病室を出て行く。

 退院するまで二週間は必要だった、体調が万全ではないが自分で食事の支度くらいはできるようになる。榊原家へ帰る事にした。私が生まれ育った家は賃貸なので、養護施設へ行くと同時に親戚が解約して、荷物はレンタル部屋に置いてある。戻る場所は黒い家しかない。

「ごめんね……」

 玄関先で同級生の伊藤愛美いとうあいみが待っていた、泣きながら私に抱きつく、心配をかけたと思うと心が痛む。

「私は、もう平気よ」
「違うの……違うのよ……」

 私が泣いている伊藤愛美いとうあいみを、家に入れようと鍵を出すと、殺人課の刑事の加藤翔子かとうしょうこが近づいてきた。

「事件は解決したわ」

#ミステリー小説
#推理小説
#黒い家の惨劇


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