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死と記憶の無い少女、黒い家の惨劇(52/60)

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第九章 悲しみの父
第四話 悲痛

あらすじ
 児童養護施設じどうようごしせつから親戚に引き取られた櫻井彩音さくらいあやねは、連続殺人に巻き込まれる、黒い家と噂される榊原家の長女の佳奈子かなこが刺される。


佳奈子かなこ
 父親の榊原昭彦さかきばらあきひこが泣いている。長女の意識が戻らない、専門的なところで診察を受けた方がいいのにと思うが、それを口に出して言えない。自分の体が極端に重く体が動かない。
 
榊原さかきばらさん、佳奈子かなこさんは、大丈夫ですか?」
「輸血しているのに目覚めないんだ」

 私の声は、か細く小さく響く。血を採られすぎたのかな? と思うが今は抵抗できない。佳奈子かなこの顔は、とても美しく白い肌をしていた。まるで化粧をしているかのように見える。でもおかしい、呼吸をしてない。胸の動きもないし、微動だにしない体は……死人のように感じた。生物は死を本能で感じる事ができる。私は長女の最後に涙があふれる。

佳奈子かなこさんは……もう」
「大丈夫だ、定期的に君の血を与えれば体を維持できる」

 昭彦あきひこが異常に見えた。特別な体質に生まれた彼女を大事に育ててきた、娘の死を直視できない。必死に薬棚から薬剤を出して注射をしている。私はまた眠くなる、不思議と自分の命は気にならない。両親が行方不明で、成人したも仕事をして一生を終える。そんな未来しか見えない自分は、いつ死んでもかまわないとさえ思う。素敵な出会いなんて存在しない。なぜこんな性格になったのだろうか? 私はいつしか眠くなり夢を見る。
 
 次に気がつくと体は固定されていた、点滴だろうか? 輸液チューブで血管に栄養を与えている。空腹はあるが食べたい気力がない。
 
「もうしばらく我慢してくれ」

 昭彦あきひこは、私に何かの注射をしているようで薬で眠いのかもしれない。横を向くと佳奈子かなこの顔は土気色をしていた。まるで鉛のような色だ。昭彦あきひこは不眠不休なのか、娘の体を触診しながらふらふらと立ち回っている。
 
榊原さかきばらさん、榊原さかきばらさん、もう……」
「まだ見込みはある、平気さ、君の血があれば……」
 
 医者としての経験と親としての感情で彼は機械的に働いている。いつしか私は昭彦あきひこに同情とともに愛情を感じていた。娘を亡くした父親を抱きしめたいと願う。


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